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パンツァーヘクセ ~魔法使いが戦車で旅する末期感ファンタジー~  作者: 御佐機帝都
五章 漆黒の統制者(Battle of Pterustan)
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11 猟銃

 轟音で叩き起こされた。


 続いて衝撃波が窓ガラスを揺さぶる。


「まさか例の五三センチ砲か?」


 同じく目を覚ましたウィルが言う。


「そのまさかだな。災菌弾頭だ」


 丁度夜が明ける頃だ。


 窓から地表に広がる白煙を見てロイスは答える。


「じゃ逃げるか」

「ああ」


 着替えたロイスがリビングに出てしばらくすると、着替えたレーネが寝室から出てくる。


「ロイス。装甲陸上艦の艦砲射撃だろうか」

「そのようだ。街の中心に災菌をばら撒きやがった」

「エリーゼを起こしてくる」


 そう言ってレーネは寝室に戻る。


 荷物は全て戦車の中なので、着替えさえすれば直ぐに出発できる。


 数分もすると着替えさせられたエリーゼを担いだセシルが現れ、その後ろからカノンとフィロが出てくる。


 ミラは既に着替えて待機済みだ。


「この街を出る。駅に向かうぞ」


 エレベーターで一階に降りると、既に防菌マスクを着けて走っている者が数人いた。


 まだ寝ている人や、事態が飲み込めない人も多いだろう。


 既に防菌マスクを着けている人だって、もう感染している可能性もある。


 この規模の街の中心に数トンの災菌弾頭が着弾したら、感染者数は数万に及ぶだろう。


 ロイス達は急ぎ足でトロニク駅西側の操車場向かい、装甲列車に合流する


 操車場はギリギリで爆風の範囲外だったようだ。


「少尉殿、ご無事でしたか」

「俺達は災菌感染しない。乗員は防菌マスクを着けているか?」

「はい。着用の命令が出ています」

「大尉殿に取り次いでくれ。直ぐに出発したい」

「了解です」


 見張りに立っていた軍曹に続いて、ロイス達も装甲列車に入る。


 しばらくして、装甲列車の車長である大尉が現れた。


「少尉。先ほどの爆音についてどう思う?」

「装甲陸上艦からの砲撃と思われます。災菌弾頭の着弾により、この街もベトリア市と同じ状況になるでしょう」

「そうか。我々は爆風を免れたと思うか?」

「はい。しかし我々の服には災菌が付着しておりますので、後ほど車内の滅菌をお願いします」

「わかった。すぐに出発したいそうだな」

「ええ。既に街の中心部は混乱状態でしょう」

「機関車は暖気中だ。客車の方も同時に出せる」

「では我々は客車に移動しましょう」

「そうもいかなさそうだぜ?」


 ウィルの視線の先には、銃を持ったプテルが十数人歩いていた。


 旅客駅のホームや線路を無造作に乗り越え、淡々とこちらに向かって来る。


 ロイス達がそれに気付くと、集団の前衛が一斉に銃を構えて発砲した。


 それらの大半は明後日の方向に飛んで行ったが、数発が装甲列車にぶつかって軽い音を立てた。


「なんだあのプテル達は!?」

「人類統合機構でしょう! 装甲列車だけでいい、早くを出してください!」

「曹長、速やかに出発するよう伝えろ!」

「了解!」

「大尉殿! 威嚇射撃を!」

「砲塔は俯角が足りん。撃てば爆風に巻き込む」

「扉を全て閉めてください!」

「扉を全て閉めろ!」


 大尉の指示が車内電話で全車両に伝わり、扉が一斉に閉められる。


 ロイスとウィルが扉を閉めた次の瞬間、外から叩く音が聞こえた。


「よじ登ってきてるぞ!」

「平貨車にも登られてるだろうな」

「魔法で突き落とすか?」

「頼む!」


 列車の連結部を移動し砲車の最後尾へ移動すると、ロイスとウィルが扉を外に開く。


 同時にカノンが漂素の結晶で半透明の壁を作り、エリーゼがその向こう側で闇魔法を発動。


 紫色の膜で押しのけるようにして侵入者達を貨車や戦車から落とす。


 銃弾が何発か飛んできたが、漂素の結晶が防いでくれる。


 ここで装甲列車がゆっくりと走り出した。


「天井にも登られていそうだ」

「敵の銃は単発だ。徒手空拳で突き落として欲しいところだな」

「民間人っぽかったけど皆小銃持ってたね」

「ヘクラウング銃だろう。あれは」

「ソダリータスでも使ってたのか?」

「入手が楽だからな」


 ヘクラウング銃は前世紀にベルカで開発された歩兵銃だ。


 先の大戦後に予備兵器からも外されたが、膨大な在庫を活かすため単発式に改造したうえで猟銃としての販売が認められた。


 平民が購入可能な唯一な銃と言ってよく、国内外の反社会組織に横流しされている事でも有名だ。


「闘争なき世界は武装市民で一杯かしら」

「銃砲店にある銃が流れたな」

「エンデマルク少尉。屋根の上に乗ってた奴叩き落としましたぜ」


 整備兵の一人が大きなレンチを持って車内に入ってくる。


「貨車も確認してくれ」

「了解です」


 装甲列車は速度を上げてトロニクから離れていった。


 街を離れて三時間ほど。回転翼機の飛翔音が接近してくる。数は二機。


 高翼両端の並列反転ローター。四点接地式の固定脚。五号戦闘ヘリコプター『フレスラグナ』だ。


 停止希望の信号を受け、装甲列車は停車する。


 その近くに、二機のヘリコプターは着陸した。


 不整地でも着陸できるのがフレスラグナの強みだ。


 乗員の一人から書簡を受け取り、装甲列車の積んでいた燃料を渡すとヘリコプターは飛び去っていった。


「第一装甲師団司令部発、か」

「読んでみよう」


 ロイスは書簡の封蝋を開け、中の文書を読む。


 ベトリア手前で停止した装甲陸上艦の五三センチ連装砲からトロニクへ災菌弾頭が発射された。その後、装甲陸上艦のパラボラアンテナから黒い魔法が発射され、やはりトロニクへ到達。


 聖別者の統属性魔法であり、トロニクの災菌感染者も聖別者の傀儡になったと思われる。


 装甲陸上艦は進路を北北西に変更して航行を再開。目的地はオントブルクと推定される。


 オントブルクに到着したら通信連隊に連絡されたい。


「次の目的地はオントブルク、か」

「災菌弾頭を撃ち込まれたら、被害はトロニクより更に大きくなるぞ」

「一日二〇キロ移動するとしたら三日で射程に入る。なんとかしないとな。どうするか」

「あのー、私はどうしたら良いんでしょうか」


 ロイスとレーネの会話をフィロが遮る。


「もうベトリアにもクラハニルにも戻れないですよね」

「ああ、そうだ。フィロ。お前、俺達の仲間にならないか?」

「え、良いんですか?」

「役職は車長。報酬は後払いになるが」

「毎日美味しいもの食べられるなら喜んでなりますよ。しかも車長ですか!」

「階級は上等兵とする。だから少尉であるセシルの指示には絶対従うように」

「わっかりました!」

「良かったねフィロちゃん。ロイス君が認めてくれたよ」

「私くらいになるといるだけで周りを元気付けられますから。音楽で。ところで上等兵ってなんですか?」

「魔法使いの中では一番下の階級だ」

「そうですか。ロイスさんとセシルさん以外は上等兵なんですか?」

「レーネは元帥。他は上等兵だ」

「元帥ってなんですか?」

「なんていうか、特別なんだ」

「そうなんですか」

「三か月前からいる余とカノンは出世しても良いのではないか?」

「それを言ったらまずウィルの階級を上げたいんだが、そもそも魔法使いという兵科が無いからな。適当だ」

「オイラ二等兵からいきなり二階級特進したけどな」

「それにカノンとエリーゼ、セシルはベルカ軍での階級を気にしても仕方ないだろう」

「まぁな。金が貰えればいい」

「軍服をオーダーメイドしている時間が無い。ミラの服を使ってくれ。魔導剣は昨日拾ったやつがある」

「じゃあ早速」

「いやオントブルクに着くまで待て」

「はい!」


 光属性魔法使いは他にいないので、夜戦など役に立つ場面はあるはずだ。


 前向きな点と、戦闘時に怖がっても周りに迷惑をかけないところは評価できる。


 素人なのは当然なので、事実上セシルが装填手と車長を兼務することになるが、セシルならできるだろう。


 六時間ほど走って、装甲列車はオントブルクに到着した。


「大尉殿。帝都に向かえるよう車両の組み換えをお願いします」

「わかった」


 整備隊には戦車の整備を依頼する。


 一号車のエンジンはオーバーホールして部品交換が必要かもしれない旨を伝え、ロイス達は列車から降りた。


 戦車から荷物を回収してホテルに向かい、チェックインを済ませたあとロイスはオスカーに電話をかける。


「戦車の乗員、整備隊、全員無事です。トロニクに泊っていましたが、災菌弾頭の着弾で起こされて脱出しました」

「それは何よりだ。生きてりゃチャンスはあるからな」

「次はこの街に来るそうですね」

「進路的にはそうだ」

「オントブルクに災菌弾頭が落ちてくるまで三日くらいですか」

「西ベルカは起伏があるから多少迂回するかもしれんがな」

「とりあえず住民は非難させるべきですが、俺はこの街で装甲陸上艦を撃破すべきと考えています」

「お前がやる気で安心した。総司令部も同じ考えだ」

「といっても先日の空爆は失敗したわけで、妙案があるわけじゃありません」

「攻撃が通らない理由は聖剣が水魔法で防御しているからだ。だが魔法ってのは長時間使い続けられるもんじゃないんだろ?」

「ええ。聖別者以外は」

「なら長時間継続して攻撃すれば、聖剣の魔法は突破できる」

「となると、列車砲ですか?」

「列車砲も使う」

「五三センチ砲の射程を上回る列車砲があるんですか?」

「ある。試作されて放置されてるやつがな」

「三日で運用人員と転車台を用意できるんですか?」

「列車砲自体はオントルゲン兵器試験場にある。二門分の操作人員と転車台は用意できるそうだ」

「列車砲の口径は?」

「二一センチ」

「どんな列車砲か知りませんが、二一センチ砲で目標の装甲を抜けるかどうかは微妙ですね」

「撃つのは榴弾だ。狙いは艤装。何よりもパラボラアンテナ状の魔導兵器。これを破壊する」

「確かに。それなら当たれば壊れるでしょう。あとはたった二門でピンポイントに当たるかどうかですね」

「二門じゃない。他に長距離砲が五門ある」

「五門もですか!?」

「俺も話を聞いただけだが、オントルゲン兵器試験場は珍兵器の宝庫だぞ」

「珍兵器と言われると不安になりますが」

「とにかく、オントルゲン兵器試験場のユーバシャール大佐を訪ねろ。既に詳細は伝わっている」

「了解」


 そう答え、ロイスは受話器を置いた。

Tips:魔導剣

 正式名称はSorcery short sword 5(共有語で五式魔法使い用小剣)。書類ではSSS5と書かれる事が多い。

 エルフェニアの人民革命党、ランドワーフのユリシーズ教団、ルクスバキアの闘争なき世界が使っていた魔導武器を鹵獲して小剣の形に再組み立てしたもの。

 内部の魔力増幅機構の原理は不明であり、鹵獲した数しか再生産できない。

 刀身はチタンフレームで補強したアルミ合金であり、軽いが刀剣としての機能は低い。

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