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パンツァーヘクセ ~魔法使いが戦車で旅する末期感ファンタジー~  作者: 御佐機帝都
四章 調停する渾天儀(Battle of Luchsvakia)
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戦況推移(前期)

■西方侵攻戦

●事前状況

 先の大戦の講和条約に付随する相互軍備制限条約は三〇年代末に改訂され、スケイルとタイールはコニファールと同盟を締結していた。

 したがって胎生枢軸がスケイルとタイールに侵攻すれば背後からコニファールに攻撃される事は間違いなく、かといってコニファール領へ侵攻すれば先の大戦のようにセルロン共栄連盟が参戦してくる可能性は高いと想定された。

 コニファールの領土は戦略的に不要であるため、スケイルとタイールを短期間で降伏させて資源を確保し、その後はひたすら防御を固めて敵が諦めるのを待つ。という戦略が一定の支持を集めていた。

 しかし新皇帝レーネは最初にコニファールを占領してセルロン共栄連盟との連絡も遮断し、後顧の憂いを断ったうえで東方侵攻戦を始めるという野心的な戦略を選択し、プラティの油田を狙うエルフェニア軍も支持したため、西方侵攻戦が決定した。

 四〇年末の相互軍備査察後に急速な軍拡を進めたベルカとエルフェニアは四一年五月上旬、コニファール、アンフィ、プラティに宣戦布告。スケイルとタイールから宣戦布告を受け、卵生人類五ヵ国と交戦状態に入る。



●ベルカ軍の攻勢

・『黄のヒヤシンス作戦』(41.5.10~41.6.5)

 ベルカ軍による一週間以内のアンフィの横断とコニファール北部への侵攻、コニファール海軍の無力化を目的とした作戦。花言葉は『勝負』である。

 縦深攻撃、訓令戦術、戦車の集中運用といった画期的な戦闘教義が実施され、本作戦の成功でコニファール戦役の大局は事実上決した。

 コニファールはベルカとの国境にリヨン線と呼ばれる要塞群を築いており、アンフィもベルカに対する防御線を築いていたが、リヨン線に比べると見劣りした。

 ベルカ軍は全軍を四つの軍集団に分け、一つをリヨン線の正面に展開して陽動とし、もう一つを東側国境線に展開。主力の二個軍集団をアンフィ侵攻に差し向けた。

 開戦から一週間でベルカ軍の先頭部隊はコニファール北側深くに進攻し、コニファール軍の連絡を完全に遮断した。

 海上では海軍が事実上の奇襲によりコニファールの北方艦隊を壊滅させ、制海権を確保した。


・『赤いペンタス作戦』(41.6.5~41.6.25)

 ベルカ軍による開戦から二ヶ月以内のコニファール降伏を目的とした作戦。花言葉は『鮮やかな行動』である。達成できない場合もコニファール完全占領まで継続が予定されていた。

 五月末にアンフィを降伏させたベルカ軍は六月上旬に北部のコニファール軍を陸と海から砲撃して降伏させ、中旬にはリヨン線から出撃したコニファール軍主力部隊をエルフェニア軍と挟撃して殲滅した。

 西方侵攻戦の仕上げとしてベルカ軍はリベルテの包囲を進めていたが、コニファールが降伏したことで無血占領に成功した。



●エルフェニア軍の攻勢

・『雪崩作戦オペラ・ヴァランガ』(41.5.10~41.6.25)

 エルフェニア軍によるコニファール南部の占領を目的とした作戦。

 コニファールはエルフェニアとの国境線にクレメール線と呼ばれる山脈を利用した強固な防御陣地を設けており、万全の防御態勢を整えていた。

 この山脈は先の大戦でエルフェニア軍が遂に突破できなかった要害であるが、リヨン線と違って迂回可能なルートは無いため、開戦前から侵攻を想定した研究と訓練を徹底的に行っていた。

 攻撃の要を務めた山岳戦を専門とする精鋭師団はリヨン線の一画をたった一日で占領。突破口から後続部隊を次々と浸透させ、コニファール軍防御陣地の背後を突いた。

 旧式化した装甲車や軽戦車の集中投入と飛行艦からの補給物資投下はエルフェニア軍の侵攻速度を高め、コニファール軍を各個撃破することで勝利を確たるものにした。


・『台風作戦オペラ・ティフォーネ』(41.5.10~41.10.2)

 エルフェニア軍によるプラティの占領を目的とした作戦。特にレイス油田の占領は必達目標とされた。

 開戦と同時にエルフェニア陸軍は二ヵ所から上陸作戦を実施。その後海軍がプラティとコニファールの連合艦隊を撃破して制海権を確保すると、増援を送り込んだ。

 戦いはエルフェニア軍が優勢であったが、現存艦隊主義を取るセルロン海軍は潜在的な脅威であった。

 そこでプラティとセルロンの連絡を完全に遮断するためにセルロン領の島々も占領し、遂に発生したセルロン海軍との艦隊決戦に勝利した事でプラティを降伏させた。



●卵生連合の対応

 コニファールはアンフィを見捨てないという意思表示のためアンフィとの国境線には要塞線を築いておらず、ベルカ軍が侵攻ルートとしたワンデラールの森は大規模な軍事行動が不可能と考えて二線級部隊を配置していた。

 その結果ベルカ軍の驚異的な速攻を許してしまい、通信網の途絶によって軍内に虚偽の報告が相次ぎ、誤報の拡散を止められず、後方の部隊が無意味な撤退を繰り返す事態に発展した。

 スケイルとタイールはコニファールとの同盟を理由にベルカとエルフェニアに宣戦布告したが、軍事力には絶望的な開きがあり、国境付近の戦力をいたずらに消耗した事でかえってその後の胎生枢軸の助けとなってしまった。

 またセルロン共栄連盟も胎生枢軸に宣戦布告したが、制海権が胎生枢軸側にあったため十分な援軍を送る事はできなかった。



●間接的影響

 先の大戦で四年の歳月と多大な犠牲を払っても達成できなかったコニファールの打倒を極めて短期間に実現したことで、ベルカ国民のレーネに対する忠誠心は絶頂を迎え、メディアによって神格化された。

 損害が想定より少なかったことで胎生枢軸の首脳部は軍事力に自信を深め、スケイル、タイールだけでなく、ミネル連邦への侵攻も決定した。

 また制海権を掌握したことでモノコティへの上陸作戦も容易となり、孤立したモノコティは約半年で降伏に追い込まれた。




■東方侵攻戦

●事前状況

 東方生存圏イースタン・ハビタットの獲得は胎生枢軸にとっての戦争目的であり、卵生人類との決着を付ける戦いであると位置付けられていた。

 ミネル領までを東方生存圏に含めるかどうかは開戦前まで曖昧であったが、ミネル侵攻が決定するとミネル領西側は東方緩衝地オーバーイーストと定義され、爪鱗人スケイル鳥人タイールを強制移住させ、国家の分断を図りつつ、鉱石人ミネルや呪林の侵入を防ぐ防壁とする事が決まった。



●ベルカ軍・ランドワーフ軍の攻勢

・『白のガーベラ作戦』(41.6.22~41.7.10)

 ベルカ軍とランドワーフ軍によるスケイルの横断と主要都市占領を目的とした作戦。花言葉は『希望』である。

 ベルカ軍とランドワーフ軍は一ヵ月以内にスケイルを横断してミネル連邦との国境線に到達する予定であり、残敵はその後で掃討する事になっていた。

 国境線に張り付いているスケイル軍の主力部隊をベルカ軍とランドワーフ軍は逆包囲して殲滅。残存部隊も侵攻する過程で各個撃破し、大規模な組織的抵抗を封殺した。

 作戦開始二週間で主要な点と線を抑えたベルカ軍とランドワーフ軍は一旦進軍を停止してコニファールから移動中の主力部隊の合流を待ち、七月初頭にミネル連邦との国境線に到達した。


●エルフェニア軍の攻勢

・『大陸打通作戦オペラ・スフォーダ・コンティネンテ』(41.6.22~41.7.10)

 エルフェニア軍によるタイール共和国の横断と主要都市占領を目的とした作戦。

 横貫鉄道作戦とも通称され、タイールを一ヵ月以内に横断することを目的としていた。

 胎生枢軸の中では機械化率の低いエルフェニア陸軍は鉄道沿いに進軍しつつ、海軍がタイール南部で上陸作戦を実施。タイール軍を挟撃した。

 エルフェニア軍の作戦は極めて緻密であり、鉄道を進軍の中核としつつも強襲浸透と迂回包囲を繰り返し、タイール軍の損害を最大化させた。

 またコニファールから戻ってきた部隊による追走補給と飛行艦からの物資投下で前線の火力を維持し、エルフェニア軍はベルカ軍およびランドワーフ軍とほぼ同時にミネル連邦との国境に到着した。



●卵生連合の対応

 スケイルとタイールはコニファールとの同盟締結以前からセルロン共栄連盟の国々から武器を輸入しており、戦闘訓練も積んでいた。

 短期間で降伏に至ったのは国力と兵器性能の差が原因であり、兵士達の祖国防衛の士気は旺盛だった。

 そのため両国が降伏した際に多くの兵士が脱走しており、その後パルチザンとして胎生枢軸を苦しめる事となる。



●間接的な影響

 コニファール戦役に続く大勝利によって胎生枢軸の間では卵生人類は弱兵という認識が広まった。

 そのためミネル侵攻においても東方緩衝地の獲得に留まらずミネルの完全屈服を目指すべきという主張が多数派を占めるようになった。




■ミネル侵攻戦

●事前状況

 ミネル侵攻が決定したのは侵攻開始の一ヵ月前であったため、詳細を詰め切れておらず、胎生枢軸内での思惑にはズレがあった。

 胎生枢軸の最大の懸念はエルフェニアのプラティ攻略が終わっていないことであり、ベルカ軍とランドワーフ軍はプラティ侵攻を中断して兵力を東部戦線に回すことを希望したが、逆にエルフェニア軍はミネル侵攻を遅らせることを希望していた。

 また各国軍共通の問題として、相互軍備制限を破棄した後に動員した兵士は訓練の途上であり前線の兵力が不十分であったが、奇襲効果の重視とミネル石軍など扉を一蹴りすれば倒壊する腐った納屋であるといった侮りから、早期の侵攻開始が決定した。



●ベルカ軍・ランドワーフ軍の攻勢

・『紅のナスタチウム作戦』(41.7.10~42.1.7)

 ベルカ軍とランドワーフ軍によるミネル連邦の降伏を目的した作戦。花言葉は『愛国心』、そして『勝利』である。

 本作戦の完了をもって、胎生枢軸は戦争目的を達成するものとされた。

 ベルカ軍の北方軍集団とベルカ軍とランドワーフ軍混成の中央軍集団は第一段階であるルイーネ作戦により二ヵ月弱で国境付近のミネル石軍を殲滅、ミネル連邦の首都グリヴェンカに迫った。

 九月末に第二段階であるマルブック作戦が始まると、ベルカ軍は中央集団を二つに分け、一つをグリヴェンカ、もう一つをゾロトニクに向かわせた。

 ゾロトニクはミネル石軍の兵器生産拠点であるのみならず、南部からミネル石軍が増援に来た場合の拠点となってしまうため、同時攻撃が望ましいと判断された。

 しかしグリヴェンカの手前で補給線は限界に達し、ミネル石軍の徹底的な焦土作戦によって食料の現地調達もほぼ不可能となっていた。

 自国民の生活に必要な物資まで破壊、焼却してしまうミネル石軍の周到ぶりは封建制国家である胎生枢軸にとっては想定外であり、胎生枢軸の前線部隊は窮乏に瀕した。

 年明けの一月上旬に胎生枢軸はグリヴェンカ攻略の無期延期を決定。胎生枢軸は初の挫折を味わう事となった。


・『心眼作戦オペラ・ロッキオ・デラメンテ』(41.7.10~41.12.30)

 エルフェニア軍によるミネル連邦南西部の占領を目的した作戦。

 計画時間があまりに短いため戦略目標については曖昧だったが、ベルカ軍とランドワーフ軍の侵攻を容易にするため南西部に展開するミネル石軍に可能な限り打撃を与えることが第一の目標だった。

 エルフェニア軍の攻勢は準備不足を感じさせないほど強力であったが損害も大きく、プラティ攻略を終えた部隊の東部戦線への輸送が間に合わないことからゾロトニク侵攻はベルカ軍に任せ、代わりにカペイカ半島を攻略することとなった。

 エルフェニア海軍はカペイカ半島を海上封鎖し、艦砲射撃によって地上部隊を支援した。

 一二月末の時点で最大の難所であるサージェン要塞が残っていたが、完全に孤立した状態であり当面の脅威にはならないと判断し作戦を終了した。



●ミネル石軍の対応

 開戦前のミネル石軍は北部方面軍と南部方面軍の二つに分かれており、南部方面軍は胎生枢軸の侵攻を早くから警戒し、機甲部隊を中核とした防衛戦術に切り替えていた。

 一方の北部方面軍は国境沿いの要塞に部隊を駐屯させるという旧態依然とした戦術を取ったうえ、敵の侵攻を遅らせるため泥縄式に後方の部隊を派遣し、膨大な損害を出した。

 しかしこれは胎生枢軸の戦略目標がグリヴェンカであると判断したうえでの時間稼ぎでもあり、結果的にグリヴェンカ方面で局地的な反攻作戦を実施できるほどの兵力確保に繋がっている。



●間接的な影響

 損害としてはミネル石軍の方が何倍も大きかったにもかかわらず、ミネル石軍は兵力の優位を保持し続けた。

 ミネル連邦が胎生枢軸の侵攻を防ぎ切った事はセルロン共栄連盟を驚かせ、ミネル連邦が卵生連合に加入する契機となった。

 胎生枢軸はミネル連邦が無尽蔵といえる人的資源を持っていることを認識していたが、ミネル連邦から提示された休戦案は拒絶し、必ずやミネル連邦を屈服させることで合意した。

 一方の卵生連合も、どれだけの犠牲を払ってでも胎生枢軸に勝利するという決意を表明。

 また胎生枢軸の兵器性能の高さや卓越した戦術を認め、同じ土俵で戦うのではなく固定翼航空機という新たな兵器に活路を見出す事となる。



■戦線膠着

●事前状況

 ミネル連邦の早期打倒に失敗した胎生枢軸であったが、ミネル石軍の反攻作戦は悉く返り討ちにしており、戦況としては有利と言える状況にあった。

 ただし特にベルカ軍は前年受けた損害により広い戦線で大攻勢に出る余力を持っておらず、決定的な勝利を得ることは期待できない事も事実だった。

 対するミネル石軍は依然としてグリヴェンカの防衛に重点を置いていたため、南部で占領地域を広げてミネル連邦の継戦能力を奪い取ることが効果的であるという見解で胎生枢軸は一致していた。



●ベルカ軍の攻勢

・『青のカーネーション作戦』(42.6.28~42.11.24)

 ベルカ軍によるミネル連邦の主要都市チェルヴォネツとモスコフカの占領を目的とした作戦。花言葉は『永遠の幸福』である。

 中央軍集団のうちベルカ軍の数個装甲師団は七月下旬にチェルヴォネツを攻略。約二〇〇日間占領したが、南下してきたミネル石軍との交戦が激しさを増したため、モスコフカへの支援に振り向けられた兵力は多くなかった。



●エルフェニア軍の攻勢

・『烈風作戦オペラ・ディ・ブラスカ』(42.6.28~43.2.2)

 エルフェニア軍によるミネル連邦の主要都市モスコフカとその南にあるバクタ油田の占領を目的とした作戦。

 広大な戦域で攻勢に出る野心的な作戦でありエルフェニア軍の攻勢限界を超える懸念があったが、食料は現地調達を前提とし、燃料と武器弾薬はベルカ軍から支援を受けるものとして実行に移された。

 作戦準備としてエルフェニア軍は列車砲や新型戦艦二隻を投入する猛攻でサージェン要塞を攻略し、海上輸送の中継拠点を確保した。

 モスコフカは物流の要であるのみならず、撤退してきたミネル石軍や避難民も収容しており、南部におけるミネル石軍最後の拠点という性質を有していた。

 それ故にミネル石軍の防衛の意志は固く、七月から始まったヴョルスタ川の渡河を巡る戦いは三ヵ月に及び、エルフェニア軍は一一月にようやくモスコフカの両翼包囲を完了した。

 しかしミネル石軍が西部の呪林から人為的に起こした伝激染でんげきせんによってモスコフカ付近のエルフェニア軍は大打撃を受ける。

 その後モスコフカに留まっていたミネル石軍による反撃によってエルフェニア軍は撤退を余儀なくされた。

 この時点で南部から上陸した部隊がバクタ油田攻略を目指して進軍中であったが、モスコフカを確保できなかった状況では占領維持が不可能であるため、作戦は中止となった。



●ミネル石軍の対応

 四二年前半に行われた各地の戦いでミネル石軍は完敗しており、多大な損害を出していた。

 特に問題なのが兵器の喪失であり、兵士はいても武器が足りないという状況が相変わらず続いていた。

 そこでミネル石軍は胎生枢軸の攻勢に対して大規模な反撃には出ず、秩序だった後退を選択した。

 そのため戦線は西へ押し込まれたが、工場設備の疎開と主力兵器の温存に成功した。

 またこの時期から大量投入が始まった襲撃艦ヤーボは地上の味方部隊を強力に支援した。



●間接的な影響

 ベルカ軍に続いてエルフェニア軍も膨大な兵力を失ったことは、胎生枢軸が決定的な勝利を得る機会が永遠に失われたことを意味していた。

 そのため胎生枢軸も持久戦の覚悟を決め、占領地域を可能な限り維持して時間を稼ぎ、東方緩衝地沿いに要塞線を築くことで合意した。

 対するミネル石軍は膨大な損害を出してはいたが、旧式兵器を刷新し胎生枢軸の戦術を吸収する事でより強力な軍隊となる機会ともなった。

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