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パンツァーヘクセ ~魔法使いが戦車で旅する末期感ファンタジー~  作者: 御佐機帝都
四章 調停する渾天儀(Battle of Luchsvakia)
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5 協力者

 翌朝、朝食を済ませたロイス達は本屋を後にし、ビストリナヤへ向かって移動する。


 アウトバーンを使った移動は快適で、午前中にビストリナヤへ着いてしまった。


 そして待っていたのは二人のルクス。片方はウィルだ。


「ウィル!」

「よう。来たか」


 砲塔から降りたロイスはウィルと握手を交わす。


「よくやった。お前は本当に凄いな!」

「楽だったとは言わねぇが、あいつら警備ザルだぜ? 素人っぽいって言うか」

「今日の午後はたっぷり話が聞けそうだな。そちらの方は公安か?」


 ウィルと一緒に待っていた女性はルクスにしては背が高く、つり目とダークブラウンの長髪が印象的だ。


「そう。実は知り合いなんだが、それは後でな」

「初めまして。G-80(ゲーアハツィヒ)です」

「G-1から聞いている。拠点までの案内を頼む」

「承知しました」


 ウィルが戦車の装填手席に乗り込むと、女性はバイクに乗って先導を始めた。


 ビストリナヤはティヴィス川流域にある大都市で、クロイハンザと首都マイエリンツの中間にある要衝だ。


 街の中心部は大きな建物が多いが、郊外に出ると広大な農業が広がっている。


 二〇分ほど走ったところで、ロイス達は鞄屋へ到着した。ここが今回の拠点らしい。


「シャッターが降りていますので裏口から入ってください」

「あの人オイラの古い知り合いなんだよ」

「さっきも言ってたな。子供の時か?」

「そう。スラムには孤児や貧乏人の子供が集まって作るチームがあってさ。そこで一緒だったんだ」

「なるほど。なら結構長い付き合いだったのか」

「六年ぐらいかなぁ」

「ウィルの言う通り、私は古い知り合いです。だから、ウィルが管理者権限の破壊に成功した後の保護に名乗り出ました」

「なぁ、やっぱりヴィオ姉って呼ばなきゃだめか?」

「その通り。ヴィオ・フェルベリンというのが私の仕事上の名前です」

「ああ。公安だから偽名使ってるのか」

「はい。と言っても日常生活の大半がその名前なので、どちらが本名なのかは微妙ですが」

「間違ってエリカ姉って呼んでも怒らないでくれな」

「まぁ怒りはしませんが、公安内でもフェルベリンで通っているので話がややこしくなるだけですね」


 エリカはストーブに火を入れながら答える。


「にゃー、そこら辺のお堅いところは変わってねぇなぁ」

「皇帝陛下の御前です。そうでなくても仕事中ですので」

「私に対して畏まる必要はない。今の私はウィルの友人であり、聖別者を捕まえる部隊の一員に過ぎない。隊長はこちらのロイスが務めている」

「ロイス・エンデマルクだ。今日は世話になる」

「この建物はご自由にお使いください。倉庫に燃料などもございます」

「感謝する」


 そう言ってロイスは椅子に腰かけた。


「それと、ウィルから聞いたところによると、現在戦車に対して乗員が足りていないとか」

「ああ。そうだな。装填手が一人足りない」

「実は私もウィルと共についていこうかと思っているのですが、いかがでしょうか」

「こちらとして問題は無いが、災菌感染したことはないんだろう?」

「ありません。ですので、呪林の中までついていくことはできません。それに装填手も務まりませんが、バイクで同行するという手もあります」

「砲弾を持つのは厳しいだろうが、それは別に問題ない。そっちのドワーフのセシルが装填手と車長を兼任して、フェルベリンさんは索敵要員になればいい。実はこの間まで別のドワーフを乗せてた時もそうしていた」

「なるほど。もしかしてロナ族の方ですか」

「はい。セシリー・フランと言います。セシルと呼んでください」

「だから別に戦車兵の経験が無くてもいいんだが、それならバイクでついて来てもらった方が良いな」

「ではそうしましょう。次のマイエリンツで待ち合わせるG-16(ゲーゼヒツェン)には伝えておきます」

「ところで途中でバイク借りてもいいか?」

「ええ、構いません」

「見かけないバイクだからな。乗ってみたいんだ」

「マイナーな車種だと思いますが、よく走ります」

「それは楽しみだ」

「では私はG-1およびG-16へ貴方がたが到着した旨連絡してきます」


 そう言ってエリカは隣の部屋へ入っていった。


「そういえば、ウィルがどうやって管理者権限を止めたのか聞いてなかったな」

「ああ。まぁ最初からいくと、ダベストリィは呪林に沈んじまってるんだが、実際に行ってみたら列車だけは出入りしてたんだよ」

「線路だけ呪林に埋まってなかったってことか?」

「そうなんだ。どうやって維持してんのかはわからなかったが、防菌マスクを着けた連中が乗り込んでた」

「感染したら死ぬのに呪林に入るとは、大した信念だな」

「それで、蟲は住み着いてなさそうだったから、銃と対戦車擲弾と手榴弾持って線路沿いに歩いたんだ」

「線路の先が管理者権限というわけか」

「そう。闘争なき世界には公安のスパイが入ってて、そこら辺は事前にわかってた。二日歩いたら着いたが、一目見て破壊は無理だと思った」

「材質とかどんな感じなんだ?」

「黒い。きっと金属なんだろうけど、継ぎ目とか一切ないんだよ」

「触ってみたか?」

「逃げる前に少し。ひんやりしてた」


 ここで隣の部屋からエリカが出てきた。しかし席に座っただけだったので、ロイスは続きを促す。


「そもそも管理者権限の周りは切り取ったみたいに抉れてて近寄れないんだ。でも離れた場所に建屋があって人が出入りしてた。だから土魔法でその周辺に潜ってみたらパイプが通ってて、銃で撃ってみたら水が出てきたんだ」

「水か」

「真水だった。で、そのまま行先を追って行ったら管理者権限に繋がってた。だからきっと動かすのに使うんだろうなと思ってな」

「それはウィルにしかできないな。冷却水か何かわからないが、痛いところを突けたんじゃないか」

「で、熱も出てきたしまだ一日猶予があったから一回引き上げて、陽が沈んでから手榴弾でパイプを三か所破壊した。対戦車擲弾は余ったから建屋の屋根にぶち込んで逃げてきた」

「聖別者と出くわさないかどうかが一番心配だったんだが」

「来た道とは別の方向に走ったし、結局それらしいのは見なかったな」

「それは任務に入ってないからな。公安の諜報力に期待しよう」

「そうですね。我々もウィルの頑張りに応えねばと思っています」

「ねぇ、そろそろご飯買いに行かない? 話は食べながらでもできるよね」


 カノンの発言に、エリカの案内で食材の買い出しに行くことになった。


 戦車で移動すること十数分、駅からほど近い大通りに半屋外市場が存在した。平日ではあるが人通りは多い。


 屋台ならともかく、食品の半屋外市場はロイスが生まれ育った土地では見られない商店街なので物珍しく感じる。


 一二月も半ばだが気温が氷点下を下回っている感じはしない。確かにこれなら品物が凍り付く心配はなさそうだ。


 ロイス達は路肩に間隔を空けて戦車を停め、ロイスとレーネ、ウィルを残して他の五人は買い物に向かった。


「スラム街で一緒だった頃のヴィオさんはどんな感じだったんだ?」

「ロヴェルトっていう六つ上の人と並んでリーダー的な感じかな。チームには女もいたから、そいつらの世話とか」

「大変だったろうな。孤児や貧困層の子供が助け合う組織。お前から話を聞くまで想像もしたこともなかった」

「ローンデヨフは結構特殊だと思うぜ。大都市だからおこぼれも多い。首都圏のスラム街は完全に排除されたらしいから、そっちから流れてくる奴もいた」

「助け合うと言っても、全員子供だろ? どうするんだ」

「そういう子供が小学校に通えるように寄付してくれる優しい人がいるんだよ。食べ物は、オイラは本屋のバイトで貰ってた。まぁ無賃金だからバイトとは言えなかったが、本がたくさん読めて嬉しかったぜ」

「子供が金を稼ぐのは難しいだろうな」

「ある程度大きくなったら肉体労働がある。条件はクソだけどな。でもロヴェル兄とエリカ姉は凄かった。自分で学費稼いで中学行って、オイラ達の世話もしてた。しかもロヴェル兄は士官学校に受かった。エリカ姉も警察試験に合格した」

「それで公安に、か。しかし警察に入れたということは孤児ではないのか」

「エリカ姉は親もいて家もあったぜ。単に親が碌でもなかったってだけで。自分が就職するまでは生きていてもらわないと困るからって、時々帰って金を置いてたみたいだな」

「しっかりした人だな」

「貴族相手じゃ自慢にもならないけど、オイラ盗みやったことないんだぜ? それもロヴェル兄達のおかげだ」

「そうか。やむを得ず法に触れるしかない子供もいるのか」

「ああ。でもそういうのって大概死ぬか帰ってこないんだよ。ロヴェル兄達は犯罪が割に合わないって知ってた。だからいつもやらないよう注意してた。それに残飯あさりがやけに上手い先輩とか、機械直して売れる先輩とかいたからなぁ」


 明るく言うが、ウィルの身の上話は基本的にロイスの想像を絶する。


 ウィルの強靭な精神力はそうした生活で養われたのだろう。


「レーネ。万事上手くいったら、ローンデヨフのスラム街だけは必ず支援しよう。公共事業の一部で済むはずだ」

「ああ、勿論だ。そうしよう」

「そいつはいいな。全寮制の学校があるだけで全然違うと思うんだよな」

「まさに貴族の務めアデル・ファプリヒテットだな。最近は軍事ばかりだったが」

「……なんか、また雪が降りそうだな」

「本当だ。今年は明らかに寒いな」

「間違いないぞ。帝都はこないだ氷点下二〇度まで下がった」

「オイラにしちゃそういうところで生活してるのも凄ぇ」

「気候も土地もルクスバキアの方が絶対にいい」

「これ以上寒かったらオイラは耐えられねぇよ」

「このくらいの気温は帝都ではザラだが、雪が降る前には戻りたいところだな」


 レーネの言葉に、ロイスも黒い雲が覆う空を見上げた。

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