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パンツァーヘクセ ~魔法使いが戦車で旅する末期感ファンタジー~  作者: 御佐機帝都
三章 救世を説く牢獄(Battle of Landwarf)
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18 溶岩

「くっ、どうなってますの!?」

「こんなの魔法使いの仕業に決まってるだろ」


 事実。この溶岩はユリシーズ教団の教導者リーハーの一人である土属性魔法使いが引き起こしている。


 ――デュアルスキル『分子運動操作(Predatial lava)』


 土の分子運動を操作できる能力。土の分子運動を激しくして高温とし、溶けた状態、すなわち溶岩を生成している。


「ロイス、どうする!?」


 戦車を止めたレーネが問う。


「迂回したいが……」


 だが、溶岩の動きは意外なほど速く、大通りを流れロイス達に迫ってきていた。


 また、それ以外の場所でも、溶岩が噴出を始めていた。こちらの進路を全て塞ぐ気か!?


「後退しろ!」


 ロイスの指示通り、レーネは戦車を後退させる。


「敵魔法使いはこちらが見える位置にいる。迂回しても回り道される」

「こっちが見える位置、か。候補はたくさんあるな」

「片っ端から撃ち込むわけにもいかんから、一旦魔法の射程外に出る」

「戦車部隊が待ち伏せしてなかっただけマシか」

「首都圏は陸上総軍の管轄だから、国境防衛軍は展開できないんじゃないかしら」

「まぁどう考えても国境付近ではないからな」

「街中で堂々と活動できないから魔法使いでお出迎えってわけか」

「突破するには魔法使いを殺すしかない。溶岩の全体像が見えれば、ある程度推測できるかもしれないが」


 そう言ってロイスが見上げた先に、一隻の飛行艦が浮かんでいた。


「あれが俺達を監視してるってことはないのよな?」

「飛行艦は艦艇軍の所属よ。軟式の小型船ならともかく、大きいのは違うと思いたいわね」

「まぁ敵ならもう撃ってきそうなものだが……」


 ロイスの返答からしばらくして、セシルが大きな声で言う。


「いけるかもしれない。私達であの飛行艦に乗り込むのよ!」

「どうやってだ!」


 突拍子もない意見にロイスは驚く。


「あそこに船があるでしょう。そこに皆が乗って、私の魔法で飛行艦まで持ち上げるのよ!」

「確かにあんたの魔法は戦車すら持ち上げてたが、あの高さまでいけるのか!?」

「ルーティちゃんの武器を借りれば魔法の威力は上がる! 無理だと思ったら降ろすから死にはしないわ」

「死なないことは大事だな! 感電はしなくて済むのか?」

「船室にいれば大丈夫よ。電気は船体外周を通るから。車に落雷しても乗ってる人が無事なのと一緒ね」

「それは地面と接してるからだろ!」

「そうね。でも飛行艦は待ってくれない。やるなら今よ」

「戻っても活路はないか! レーネ、船の側に寄せろ!」

「ははは。薬でもキメてるのかと思うような手だな!」

「レーネちゃんが言うと説得力あるわね!」


 戦車はガードレールを破壊して川岸を少し下って停止する。


「全員降車! ウィルは自動小銃、セシルは軽機持って来い!」

「私は地上に残るわよ」

「なにぃ!?」

「魔法の性質上、私は船に乗れないの」

「じゃあ俺が持つ。乗り移るのはどうやるんだ?」

「船室の後ろにはハッチがあるでしょ。そこに船を押し込むのよ」

「ハッチの破壊はこちらでやれということか」

「ええ。三〇秒くらい待って動きが無ければ下に降ろすから」

「わかった」


 セシルとルーティは銀製ナイフとサーベルを交換し、ロイスもセシルから軽機関銃を受け取る。


 そして河川艇の甲板に乗り、船室の上に登ると上部ハッチを銃撃して鍵を破壊。中に入った。


 船室は丁度定員が六、七人と言ったところで、総舵輪や計器の他は無線機くらいしかない。


「ふはは。戦車は事実上放棄か」

「戦車は火砕流の中だって進むというが、自分でやるのは御免だからな」

「何かに掴まって! いくわよ!」


 声と共に、窓からセシルがサーベルを振るのが見える。


 ――デュアルスキル『強制分極(Magnetic Charge)』


 ロイス達が乗った河川艇は電気分極すると、重力の十の三五乗倍の強さを持つ電磁力によって浮かび上がった。


 そしてサーベルから伸びる一筋の電流に支えられるかのように、河川艇は急上昇して飛行艦の後方に迫る。


 軍用飛行艦の大きさは用途に応じて異なるが、基本的な構造は同じだ。


 艦の前後に船室があり、それらに挟まれるように砲塔がある。艦の規模によって砲の口径や砲塔の数が異なるというだけだ。


 砲塔という重量物を艦中央に持ってくるのは当然の話であり、さらに弾薬庫を一か所に纏められ、砲煙が前後の視界を遮りにくいなど合理的な点が多く、ここ二〇年ほどレイアウトに変化はない。


 そして物資の搬入口は防御上の弱点になるので最後尾に存在する事が多い。


 このランドワーフ軍の飛行艦も例外ではなく、後方にハッチがあった。扉が下向きに倒れるタイプだ。


 ロイスは銀製ナイフを取り出して魔法を発動。黒い球体が周囲の物体を飲み込みながら前進し、ハッチ上部に直撃。固定部を破壊し、ハッチは自重で下へ開いた。


 ハッチから数メートル先に壁が見え、そこまでに人や物は存在しない。


 人がいるようならルーティの水魔法で押しのけることを考えていたが、その必要は無さそうだ。


 数秒後、河川艇は見えない手に押されるかのように前進し、飛行艦へ最後尾から突っ込んでいった。


 河川艇は船内を滑るように進み、壁に衝突して停止。


 ロイスは魔法で破壊した部分から河川艇の外に出て、他のメンバーも後に続く。


 すぐに、目の前の壁が吸い込まれるように上がり始めた。シャッターが開くと、目の前には十数人のドワーフが待ち構えていて、数名が拳銃をこちらに向け、残りは徒手空拳だった。


 ロイスは両手を上げつつルーティにユルコヴィツェへ行きたい旨伝えるよう言いかけたが、終わる前にルーティは口を開いた。


 ドワーフ語なので何を言っているかわからないが、ルーティが胸元のからオルテン家の紋章を取り出したことで、ひとまず話は聞いてくれているようだ。


「武器を預けろと言われてますの。そしたら指揮所に案内してくれるそうですわ」


 しばらく会話した後、ルーティが得意げに言う。


 ロイス達はそれに従い、銃火器を全てドワーフ達に渡した。


 その後、ドワーフ達に挟まれる形で艦内を一列に進む。


「指揮所ってことは客扱いか?」

「わからん。飛行艦は狭いからな」


 ロイスは飛行艦に入るのは初めてだが、内部構造について講義を受けたことはある。


 飛行艦の居住性は潜水艦に匹敵する。


 理由は単純に居住空間を省スペースにしたいからで、その点は機械と装甲の間に人間が挟まっていると揶揄される戦車と似ている。


 飛行戦艦クラスになると少しマシだが、真っ先に犠牲にされる要素である点は変わらない。


 目の前に重厚な壁が現れたところで、ロイス達は階段を登って船体へと入る。


 さっきの壁の向こう、そして今いる場所の下は弾薬庫だろう。


 船体内は居住区画となっており三段ベッドが並び厨房や洗濯場がある。窓一つなく閉塞感が凄いが、真下が弾薬庫という最重要防御区画なので艦内では一番安全な場所だ。


 居住区画を抜けると階段を降りて船体前部に入る。


 背後の部屋はレーダーなどの電子機器が置かれた管制室だろう。


 そして正面扉の先が指揮所だった。両舷はガラス張りとなっていて、正面は隔壁となっている。


 中央テーブルの側には、軍帽を被った指揮官と思しきドワーフが立っていた。


 階級章から大佐であることがわかる。


「ルーティ。もう一度ユルコヴィツェの空港まで運ぶよう頼んでくれ」

「そうですわね。身元取り調べなら空港でもできるはずですし」

「私達は正規兵であり、勅命を受けてユルコヴィツェに向かっている。大使館に行けば即座に証明可能だ」

「何なら無線か電信で先に大使館に問い合わせて頂いてもよろしいですわ」

「こちらはそれでも構わない」


 レーネとルーティがドワーフ語で会話しているので、ロイスは口を出さないでおく。


 それに対して指揮官と思しき男が口を開こうとしたとき、艦内に警報が鳴り始めた。


 それは鳴りやむ気配がなく、数秒過ぎても鳴り続いている。


 指揮官が近くの無線で通話を始めるのを見て、ロイスは窓際へと歩き始めた。


 背後からドワーフ語で何か言われているので、こちらも仕事だと共通語で返しつつ地上の様子を伺う。


 その瞬間、ユルコヴィツェの市内から眩い閃光が飛び、ロイス達が乗っている飛行艦のどこかに命中した。


 艦後方を覗き込めば、推進用のレシプロエンジンが溶解しており、そこから黒煙が広がっている。


 警報の理由はこれか。右舷側の推進エンジンを失って艦が回頭している。


 一撃でエンジンを融解させるとは凄まじい威力。光属性魔法であるところからおそらくは聖別者!


 友軍と呼べるはずのこの飛行艦を攻撃するあたり焦っているようだが、一方ですぐに撃沈するつもりはないようだ。


 ただ、すでにこの飛行艦の機動性は失われている。自力で空港にはたどり着けない。しかし降りたところで溶岩使いにやられるだけだ。


 いや待てよ。ここからなら溶岩使いの位置がわかるのではないか?


 自分が作り出した溶岩で焼け死ぬほど間抜けな話は無い。当然、自分の近くに溶岩は作らない。それを上から見たら、不自然に溶岩の無い円形の区域があるのではないか。


 ロイスは逆側の壁際に寄って下方を見ると確かにあった!


 そこだけくり貫かれた半円のように、無事な場所がある。


 溶岩使いはあの区画のどこかにいる。窓のある建物のどれかだろうが。


 ロイスはウィルに声をかけ、指揮所から出る。そして先ほど降りてきた階段を通り過ぎ、舷側の砲郭に設けられた副武装に着目する。


 三・七センチ単装機関砲。トラックの上にも載っていたりする一般的な機関砲だ。


「これ借りて良いか?」


 ロイスは近くにいるドワーフに共通語で話しかけたが、協力的な対応は得られず、肩をつかまれ何か言われながら引き離されてしまった。


 仕方ない。ルーティ達に兵士達の会話の盗み聞きをさせるのはここまでだ。


 ロイスは両手を上げながら指揮所を振り返る。


「全員集合!」


 一声に集まった仲間にロイスは指示を出す。


「カノン、今すぐ俺達の周りを封鎖しろ」

「うん」


 答えたカノンは漂属性魔法を発動。単純な形状の単透明な結晶が船内に出現し、通路を塞ぐ。


 それを見たロイスは機関砲の操作席に座る。


「直接照準器は、これか。ウィル、弾装填してくれ」

「クリップ何種類かあるぜ? 中身わからんけど」

「一番上のでいい」

「これは、このトレーに乗せればいいのか」

「左ハンドルが旋回、右ハンドルが俯仰か」


 扱ったことのない兵器なのでロイスとウィルは何となくで準備する。


「ロイスさん。右のレバーが安全装置です」


 ミラの言葉に、ロイスはレバーを引いて初弾を送り込む。


 それ以上ミラが何も言わないので、射撃可能と判断したロイスはペダルを踏む。


 連射された砲弾は地上の建物に着弾し、貫通して爆発する。標準的な徹甲榴弾と曳光弾の組み合わせだ。


「ふはは。ランドワーフ軍の飛行艦が自国領内を砲撃しているわけか」

「街の人はびっくりするね」

「溶岩が溢れ出している時点でな」

「今更だが、この飛行艦は通りすがりだったのか?」

「ええ。艦艇軍の所属で、溶岩噴出の連絡を受けて観測に来たと言っていたわ」

「そうか。近くに飛行艦がいたのは幸運だったな」


 五発入りクリップが二つトレーに乗せられると、ロイスは再び射撃を開始する。


 たった一門なので掃射とも言い難いが、敵が隠れていそうな建物を狙って射撃を続ける。


 近くではドワーフ達が突如現れた半透明の壁を突破しようと銃床で殴ったり射撃したりしているが、無視する。


 三〇発撃ったが、地上の様子に変化はない。


 敵の溶岩使いはおそらく土属性魔法使いだ。


 上から銃撃を受けていることに気付いた時点で、土で身を守ろうとするだろう。


 手っ取り早くて効果的なのが魔法で蛸壺を掘って中に入ることだ。そうすれば直撃以外は怖くなくなる。建物が倒壊しても助かるだろう。


 既にそうした対策を取られているなら、これ以上射撃を続けても意味は無い。


 主砲なら土ごと吹き飛ばす威力があるが、使うには射撃指揮所の協力がいる。現実的ではない。


 とりあえず撃ち続けるか。


 ロイスがそう思った時、船体が大きく揺れた。


 いつの間にか鳴りやんでいた警報が再開するわけでもなく、状況がわからない。


 ウィルが装填を終えているので照準を直そうとした時、またしても衝撃が走った。


 というか、下に落ちた。


「ロイス、下に落ちたぞ!」

「ああ。味方の船沈める気か!?」

「警告かもしれない」

「だったらこのままだと着底するんじゃないか?」

「……仕方ない、船を出る。あのハッチからだ。カノン、魔法でハッチまでの人をどかせ」


 ロイスに言われた通り、カノンが漂素の結晶を動かしてドワーフ達を押しのける。


 舷側両側にあるハッチまで移動したロイスは、二本の鎖を魔法で破壊。支えを失ったハッチは下側へ勢いよく開いた。


 ここでまたも艦が揺れる。もう一刻の猶予もない。


「ルーティ、溶岩に向かって水をばら撒け!」

「ただの水でよろしいですの?」

「少しでも冷やすんだ!」


 銀製ナイフを取り出したルーティが放つ水魔法は溶岩に触れると一瞬で気化して水蒸気が巻き上がる。


「ルーティ、その調子だ! ウィル、先に降りて地面を液状化しろ!」

「あいよ」


 そう言ってウィルは水蒸気の立ち込める地上へと飛び降りていった。


「よし、ウィルに続け! ルーティは水魔法止めるなよ」


 そう言ってロイスは飛び降り、少女達も次々と後に続いた。

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