表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パンツァーヘクセ ~魔法使いが戦車で旅する末期感ファンタジー~  作者: 御佐機帝都
二章 操蟲が造る楽園(Battle of Elfenia)
39/130

18 地下鉄

「この時期だとエルフェニアでも肌寒いな」

「もう一〇月も下旬だからな」

「ベルカはもっと寒いんでしょ?」

「南ベルカでもここよりは寒い」

「へー、大変なんだね」


 エナジーバーをかみ砕き水で流し込むと、ロイスは改めて作戦概要を説明する。


「まずはトレミア駅まで移動してベネトリア宮殿を目指す。明かりが点いている建物があれば、人民革命党の施設であることは確実だ。デナリウスは今停電しているはずだからな」

「発電機は破壊するか?」

「すぐわかるところにあれば破壊するが、さして重要ではない。エリーゼを回収した後は速やかに撤収。建物に火を放ってもいい」

「私の出番ですね」


 ミラが目を輝かせる。


「聖別者がいたらどうするんだ?」

「……エリーゼを助けるためにも、聖別者がいるなら先に倒す」

「戦うの!?」

「確かに、倒せればエリーゼを落ち着いて探せるな。地下を使うのか?」

「ああ。勝ち目があるとすれば地下しかない」

「奴の魔法隕石だもんなぁ。地下にいれば防げるか?」

「そこは賭けだな。だが破壊規模に制限がかかれば、俺達の魔法でも戦いになる。地下道を通って退却できるかもしれない」

「私達が逃げたらエリーゼは置いていくしかないの?」

「勝ち目がないと思ったら、出直す」

「あー、聖別者がいなければいいのになぁ」


 それは全く同感だ。


 出直しというが、奇襲で失敗したなら次はない。エリーゼは諦めてベルカに帰ることになるだろう。


 極めて後味の悪い話だ。やはり、何としてでも聖別者は倒したいが……。


 作戦の打ち合わせがおおよそ終わったところで、ソダリータスの構成員が自転車を五台持ってきた。


 しばらくして鉄道員がディーゼル機関車を操縦して入構してくる。ディーゼル機関車の後ろには客車が一両付いている。


「私の他三名が付き添って、運転手を見張ります」

「わかりました」


 ピエールの言葉に了承した後、ついでに捜索も手伝えと言いそうになったがやめる。


 下手に動き回られた方が不利になるかもしれない。


 全員が防菌マスクを着けると、列車は走り始めた。


 ロイスは持ってきたエルフェニア製機関短銃を肩にかける。


 木製銃床と銃身のジャケットに上質な仕上げが印象的だ。


 生産性は悪そうだが品質面では信頼できる。


 エルフェニア製の銃など撃ったことはないが、弾はベルカと同じ九ミリVTO弾なので使い勝手は似たようなものだろう。


 弾倉はポケットからはみ出る形でいくつか携帯する。


「ねぇ私も持ってきたんだけど、これって簡単に撃てる?」

「撃つだけなら、後側の引き金を引けば連続で弾が出る。とりあえず敵に向けて弾をばら撒け」

「この照星で狙うんだよね」

「後ろの照尺も使う。が、どうせ当たらんから気にせず撃て」

「難しいんだね」

「カノンの場合弾が切れても魔法がある。お前が撃ち切ったと思って突っ込んできた敵に魔法をぶつけてやれ」

「わかった」



 車両の中で準備を終え、列車はデナリウス駅に到着する。


 懐中電灯を点けたロイス達がプラットホームの様子を確認している間、先頭のディーゼル機関車が機回し線を使って進路を転換した。


「俺達は自転車でトレミア駅に向かいます。機関車はすぐに出せる状態にしておいてください」

「何としてでもお嬢様を救出してください。お願いします」


 ピエール達と別れたロイス達は、懐中電灯の明かりを頼りに構内を移動する。


 そして環状線のプラットホームに出ると線路を自転車で進み始めた。


 次の駅まで慎重に走ると、大きな黒い影が見えてくる。


「……これは、列車か」


 デナリウス駅の隣駅には列車が停まっていた。


 扉は開けっ放しになっており、当然ながら乗客はいない。


 街に胞子と災菌が降り始めたことで、鉄道は運行停止。乗客は列車から降りて逃げ出したのだろう。


 地下の路線からデナリウス駅を経由してアレンセ方面へ走れば、脱出できたかもしれない。


 ロイス達はプラットホームから列車の内部を伺う。


「……機関車のようだな」


 レーネの言う通り、屋根にパンタグラフがない。


「燃料さえあれば動くかもしれないな」

「さっきやり方を訊いていたが、実際動かせるのか?」

「進んで止まるくらいならできるかもしれない」


 ロイスは先ほどの鉄道員から言われたことを思い出しつつ、見よう見まねでボタンを押す。するとエンジンはかかり、ライトは点灯した。


「お、いけそうか?」

「少し暖気する」

「電線があるのに電車じゃないんだね」

「非電化路線との乗り入れのためじゃないか? それか電力不足か……お前の国の首都の話だぞ」

「今度お父さんに聞いてみる。……アレサンドラの鉄道なら詳しいんだけどなぁ」


 それからしばらくして、ロイスは操行レバーを倒す。列車はゆっくりと走り出した。


「動いたか」

「このまま徐行する」

「結構簡単に動くんだな」

「これモーターで動いているからクラッチとギアがない」

「そんなやり方があるのか」


 詳しい操縦方法はわからないので、モーターの回転数は上げずにゆっくり進む。


 一時間ほどして、ベネトリア宮殿の最寄り駅、カセル通り駅に到着した。


 ロイスが操行レバーを戻すと機関車は動力を失い、慣性に従ってゆっくりと停止した。


 正規の停車位置とはまるで違うが、機関車はプラットホームに差し掛かっていたのでロイス達はそのまま下車する。


「自転車はどうする?」

「地上ではやめておこう」


 カセル通り駅は大きな駅ではなく、ロイス達は直ぐに地上へ到達する。


 構内図の類が見つからなかったので、ベネトリア宮殿の方向がわからない。


 仕方がないので、周囲を警戒しつつカセル通りを進む。


 雲が月を隠しており、停電した街は漆黒に包まれていた。


 大きなもので二〇メートルほどの菌樹が黒くそびえ立っている。


「蟲は見当たらないな」

「黒い機械で操られているから、どこかで待機しているのかもしれない」

「生け捕りなどと生易しいことは言わないが、聞きたいことは腐るほどある。ユリシーとかいう存在と接触可能か。大量の旧暦時代の遺物をどこから持ってきたか」

「ユリシーが与えたのが直接的な兵器でない点も気になるな。蟲を操れるというのは強力だが迂遠だ」

「そもそもユリシーってのがなんで脱走兵に力を貸したのかも謎だよな」

「そうだ。革命を起こすというのが本当に聖別者の意志なのか」


 呪林に没した王都を歩いていると、ウィルの耳がピクリと動く。


「エンジン音だ。車がいるぜ」

「数は」

「多分一両。あっちだぜ」


 ウィルの指さす方向を進むと、明かりの点いた建物があった。


「あれがベネトリア宮殿か?」

「多分」


 ひとまずロイス達は地面に伏せ、様子を伺う。


 宮殿の敷地内だけは街灯が周囲を照らしている。


 通りを挟んで正門と柵があり、その向こうに芝生。その先に宮殿がある。


 宮殿の前には乗用車が停まっていた。ヘッドライトが点いており、運転席に人影あり。


「あの宮殿にエリーゼがいる可能性はあるな」

「裏口から行った方が良いかな」

「二手に別れる。ウィル、悪いが頼む」

「あいよ。手榴弾もくれ」


 ウィルは受け取った手榴弾をベルトに差す。


「五分経ったら俺が正面の窓を割る。ウィルは側面から宮殿に侵入。エリーゼを探してくれ」

「部屋を一つひとつ見ていくしかないか」

「敵の数は不明だ。無理だと思ったら引き返してくれ」

「そうだな」

「俺とカノンで宮殿から出てくる敵を倒す。聖別者さえいなければ折を見て俺達も突入する。聖別者がいた場合は……戦いながら駅まで後退。地下までおびき寄せる。エリーゼの回収はその後だ」

「じゃ、行ってくるぜ」


 ウィルが離れた場所まで走って行くのを見て、ロイスは銀製ナイフを取り出す。


 すると、一分も経たないうちに宮殿から人影が姿を現した。


 数は三人で、全員防菌マスクを着けている。


「暗くて聖別者かどうかもわからない」

「貸して」


 カノンに言われ、ロイスは双眼鏡を渡す。


 すると双眼鏡を覗いたカノンが声を上げた。


「お父さんかもしれない!」

「なぜわかる」

「服装」


 そう言われ、似たような服を着た人間は何人もいるだろうと一瞬思ったが、考えてみれば人民革命党の連中は軍服か作業着を着ている。


 しかし中央の男が着ているのは宮廷服の様にも見える。


「ねぇ助けて!」


 エリーゼ救出が最優先だったとはいえ、見つけた以上助けないわけにはいかないか。


「俺が敵を倒す。カノンは国王を回収。行くぞ」


 ロイスは魔法を発動。黒い球状の魔法を両側の人影に当てると、宮殿へ走り、車から出てきた人間も倒した。


 カノンは真ん中で立ち尽くしている男に駆け寄り、目隠しを外し始めた。


 どうやらエルフェニア国王、レオナルド・レ・フェレアで間違いないらしい。


「国王陛下。助けに参りました。ご息女の指示に従い地下鉄駅に避難を願います」

「あの宮殿には恐るべき魔法使いがいる」

「聖別者ですね?」

「そう名乗っている。私は逃げる。足手まといにはならんぞ!」


 そう言ってレオナルドは走り出した。


 飲み込みの早さ。流暢な共通語。単独行動も辞さない精神力。謀略と駆け引きでエルフを統一したフェレア家の当主だけある。


「カノン、国王と行け! エリーゼも助けておく!」


 カノンは頷き、父親の後を追って走る。


 おそらくこちらの攻撃はバレてしまった。だったらもう屋内に入った方がいいか。


 ロイスがそう思った時、遥か頭上で青白い光が見えた。


 天属性魔法の発動色。


 次の瞬間、轟音と共に宮殿の周囲へ巨大なエアロダイトの球体が四つ落着した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ