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パンツァーヘクセ ~魔法使いが戦車で旅する末期感ファンタジー~  作者: 御佐機帝都
二章 操蟲が造る楽園(Battle of Elfenia)
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17 救出作戦

「エリーゼは私達を助けるために私のふりして捕まったんだよ!」


 昏倒状態から復帰したロイスは、エリーゼと聖別者の会話を聞いていたカノンから事情を聞く。


「お前よく割って入らなかったな」

「だって、気が付いたらエリーゼ出ちゃってたし、私が出たら台無しになりそうな気がしたし……」

「それは正しかったと思う」

「助けに行こうよ! エリーゼはそういう作戦なんだよ!」

「ああ、方法を考える」


 ロイスとしても、助けられるなら助けたい。


 話を聞いた限りではすぐに殺されるということはなさそうなので、時間的な猶予はある。


「行先はデナリウスだと思うが、確証が欲しい」

「飛行艦は目立つ。目撃情報を集めれば行先はわかるんじゃないか?」

「そうだな。とりあえずソダリータスを頼ってみるか」

「ラトネーゼ城は無事だと良いが」

「生きてる人がいれば、他の街の構成員と連絡取れるよね」

「そうか。どこの街に行くにしても、支援は欲しいな」

「じゃあ一度ラトネーゼ城に戻ろう!」

「まずヨゼフィーネが動くかだな」


 ロイスは横転した戦車の状況を確認する。


 大破していた。車体底のサスペンションが何本か折れている。


 その部分の転輪は取ってしまうという手もあるが、一つや二つじゃないので、満足には走れない。


 修理はできないにしても、可能であればラトネーゼ城までは持っていきたい。


 聖別者の魔法で路面の舗装が砕け散り、所々地面がむき出しになっている。


「ここまで壊れまくってるんだ。ウィル、魔法でヨゼフィーネを起こしてくれ」

「あいよ」


 ウィルの魔法で地面は砕けたアスファルトを捲りあげるように隆起し、戦車を正立させる。


 砲身が折れてるとか、ハッチが外れているとかは最早重要ではない。


 操縦席にレーネが入り、ロイスは車体後方でハンド・クランクを持って待機する。


 だがしばらくしてレーネが顔を出し、首を横に振った。


「変速レバーの手ごたえが無い。索が切れてる」

「ヨゼフィーネをこんな場所で置き去りにしないといけないのか!」

「良い戦車だったな」

「俺達は今一人の戦友を失ったのだ……」

「ねぇ早く移動しよう!」


 戦車に敬礼するロイスにカノンが言った。


 五人は人気の無くなった街を速足で歩き、ラトネーゼ城へ移動する。


 戻ってきたロイス達を、防菌マスクを着けた執事が出迎えた。


「残ってたんですかピエールさん」

「皆様のお戻りをお待ちしておりました。しかし、何故マスクを着けていないのですか? それにお嬢様はどちらに?」

「エリーゼは人民革命党に捕まった。俺達は災菌感染しない。エリーゼもな」

「捕まっただとぉ!? お前達だけ帰ってきた理由を説明しろ!」


 温厚な仮面をかなぐり捨て激怒するピエールに事の次第を説明する。


「俺達もエリーゼの救出を最優先に考えている。力を貸してください」

「お嬢様が無事に戻らなかったら、組織の全力を挙げて殺しに行くからな」


 事情について理解したピエールはマフィアらしい脅し文句を吐きつつ仲間との連絡を図る。


 ラトネーゼ城には防菌マスクを着けた構成員が何人か残っていたが、城内はひっそりと静まりかえっていた。


 一時間ほどして、ピエールが戻ってきた。


 飛行艦の行き先はやはりデナリウスらしい。


「予想通りだが、厄介だ。蟲が跋扈する呪林にどうやって潜入するか」

「どうやって移動したらいいのかな。列車なんかしばらく来ないよね」

「それについてはあてがある。ピエールさん。ガレージの黒い車を貸してください」

「いいでしょう。お嬢様とセットで返して頂きます」

「これで足はなんとかなるな」

「当然私も付いていきます」

「それは助かりますが、あれ四人乗りですよね」

「別の小型車があります」

「じゃあ、すぐに出発しましょう」


 ロイス達はガレージへと移動した。


 黒い車とは、ロイスがさっき城内を散策していた時に目をつけたエルフ製高級車の事だ。


「レーネ、これは俺が運転する」

「私は助手席だな」

「ロイス車運転できんのか」

「当然」

「最後に運転したのは?」

「一年前」

「安全運転で頼むぜ」


 ロイス達は高級車に乗り込み、ピエールはその奥の二人乗り小型車に乗り込む。


 小型車の方はエルフェニアの自動車普及に大きく貢献した大衆車であり、ベルカでも見かける事がある。


 出だしは我ながら危なかったが、放置してきた戦車のもとに着く頃にはだいぶ勘が戻ってきた。


 食料や燃料を回収し、ロイス達は郊外に出た。


 五人乗っている事もあって過積載のはずだが、アクセルを踏むとどんどん加速していく。出力に余裕がある活き活きとしたエンジンは流石高級車といったところだ。


 ハンドリングとサスペンションの動きに加えシートのクッション性も良いところにエルフらしい設計思想を感じられる。


 歴史ある街が多く、石畳や路地を想定しないといけないエルフェニアの国情を反映しているのだろう。


 極度の燃料不足に陥った現在のエルフェニアでは軍用車両すら殆ど走っておらず、ロイスは好きにスピードを出すことができた。


「おい、ピエールさん付いてきてないぞ」

「仕方ない少し止まってやるか」

「なぁロイス、私にも少し運転させてくれ」

「途中で給油するからその時な」

「じゃあオイラは寝るわ。ミラも王女さんも寝てるし」

「心配してた割に寝れるのか。胆力あるな」

「王にはそれくらいの豪胆さが必要かもしれない」

「じゃあ俺が攫われてもレーネは落ち着いていられるのか?」

「……取り乱して仕事にならないだろうな」


 速度無制限とでも言いたげな約八時間の走行に耐え、二台の乗用車はトラツィオに到着した。


 アレンセに着いたのは完全な夜だったが、前回来た時も泊まったホテルにチェックインすることができた。




 翌朝。ロイス達はピエールと一緒にソダリータスの事務所に赴いた。


 目撃情報を確認するため。そして必要ならば物資の提供を頼むためだ。


「言葉が通じない犯罪組織って怖いよな」

「エリーゼ助けに行けるのは俺達だけだからどうこうされることはないと思うが……。カノン、収まりがつきそうになかったらエルフ語で説明してくれ」

「こういうのはエリーゼの方が得意なんだけどね」

「王としてのカリスマ性で補ってくれ」

「いいよ」


 事務所に集まっていたエルフは全体的に人相の悪かったが、事前にピエールが状況を説明してくれていたので紛糾するようなことはなかった。


 まずはデナリウスの地図を用意させ、わかっている呪林の範囲を書き込む。


「エリーゼを探すには広すぎるな。聖別者のいる場所を絞れるといいんだが」

「聖別者が為政者を気取るならベネトリア宮殿じゃないか?」

「そうだな。丁度中心にあるし、可能性としては高いか」


 一応ソダリータスの構成員達にも尋ねてみたが、聖別者の所在など知る由もなかった。


「それか、夜間に入って明かりが付いている建物を探すか」

「どうやって入るかも問題だな。夜間に車で動くならヘッドライトは消すしかないが」

「そうだな。それでも音で気付かれる危険は残る」

「地下鉄は?」

「地下鉄?」

「アレンセからデナリウスは地下鉄があるよ」

「そうか! この路線か」

「うん。今は走ってないと思うけど、歩いて行ける距離だよね」

「中に蟲が住み着いてなければな」

「デナリウスの市街は確実に蟲がいるぞ」

「そうだな。となると、地下鉄に乗って移動するのが上策か」

「動かせるのか?」

「そのためのマフィアだろうが」

「そうなの?」


 地図によれば、地下鉄はアレンセとデナリウスを繋ぐだけでなく、デナリウスを環状に囲っている。


「地下鉄で移動できれば、移動の安全性は格段に高まる」

「聖別者の魔法で生き埋めになる心配はないか?」

「地震にも耐えられるように造ってある……よな?」

「知らないけど、多分そうなんじゃない?」

「いずれにせよ、地上を走るよりは良い」


 方針が決まったところで、ロイスはピエールを廊下に呼ぶ。


「ソダリータスの中に人民革命党のスパイはいませんね?」

「ここにいる人間は準幹部以上です。ありえません」

「地下鉄を走らせる車両をチャーターしますが、その運転手も秘密厳守の必要があります」

「構成員に地下鉄の運転手はいないので堅気を使いますが、血のオメルタがあります。漏洩はありえません」

「血の掟?」

「沈黙を守るという誓いです。相手は一般人ですが、金を受け取った時点で契約は成立します」

「そうですか。まぁ、エリーゼを助け出すまでは監視しといてください」

「当然ですね」

「では、デナリウスに行くまでの車両と、デナリウス内を走る車両のチャーターを」

「今はどちらも止まっています。デナリウスまでは行けるでしょうが、デナリウスの環状線方はわかりません」

「それも、雇う運転手に訊いてみるしかないな」

「では運転手を雇いに行ってきます。数時間かかるので昼食は適当にお済ませください」

「わかりました。それと、武器を用意してください。使えるものがあれば持って行きます」

「用意させます」


 ロイス達は外に出て営業しているレストランを探し、コーヒーを飲みながらデナリウス内の地図を眺め、移動ルートを模索する。


 ここのコーヒーも本物だった。


 国内にコーヒーの産地があるのは羨ましい。


 ベルカでは去年くらいからコーヒーは高級品となり、軍で支給されるのは全て代用コーヒーだ。


 購入を希望したロイスだったが販売はしておらず、手ぶらで事務所に戻った。


 事務所では鉄道員の格好をした男がテーブルに座り、浮かない顔でペスカトーレを食べていた。ソダリータスから提供されたようだ。


「彼は共通語が喋れません。しかし、話はついています。アレンセからデナリウスまでの路線は停電しているため、ディーゼル車を使います。デナリウスに着いた後ですが、直通していないため新たな車両を入手する必要があります。ただ、車庫がデナリウス駅から離れているうえに地上であるため、行きたくないと言っています」

「まぁそうでしょうね。軌道を走れる車両はないんですか?」

「聞いたことはありますが、うちでは持っていません」

「蟲がいるかもしれないし徒歩移動はしたくないんだが、そこまで歩くなら同じことか……。レーネ、どうする?」

「ピエールさんが乗ってきたあの小さい車を線路の上で走らせるのは?」

「ああ。車幅的にはいけそうだな」

「歩くよりはマシだろう」

「ピエールさんの乗ってきた車を列車に積みたいんで、貨車も借りてください」


 ロイスの頼みに、少し鉄道員と会話したピエールだったが、こちらを向いて首を振る。


「旅客路線なので貨物車はないそうです」

「そうなると現実的じゃないか」

「もう自転車でいいんじゃねぇか?」

「それだ。ピエールさん自転車を五台用意してください」

「承知しました」


 ウィルの意見でデナリウス内の移動手段は自転車に決定。


 音も出ないし、いい考えだ。


「準備ができ次第エリーゼの救出に向かいます。駅までは車で向かうので、ディーゼル車の準備ができたら呼んでください」


 こうして作戦の概要が決まったところで、鉄道員はソダリータスの構成員に連れられて駅へと移動させられる。


 ピエールは何かを紙に書くと、ペンと一緒にそれをテーブルに置いた。


「……なんですこの額は。百貨店でも建てるんですか?」

「今回の件でかかった費用です」

「列車や車を買い取りにしてもこの額にはならないでしょう」

「死んだ構成員の遺族に渡す補償が主です」

「必要性は認めますが、人民革命党の人間を捕まえて徴収するのが筋では?」

「組織として崩壊した後の人民革命党がこの額の支払いは無理でしょう」

「しかし俺達に非はない」

「聖別者との戦いに協力した結果であることは事実です」

「エリーゼに吹っ掛けられた時よりも遥かに多い」

「お嬢様とて貴方がたがしっかりしていれば拉致されずに済んだはずです」

「今サインしなくてもエリーゼの救出にはご協力頂けますよね?」

「勿論です。ただし、戻ってきた後の保証はできません」

「払おうよ。エリーゼ助けられればいいんだしさ」

「じゃあカノンが払うのか?」

「え……桁は合ってるんだよね」


 一国の王としてもポケットマネーでは賄えない額だ。


 ロイスとしても協力してもらった分の費用を払うのは構わない。


 気に食わないのは犯罪組織に法外な費用の支払いを迫られている事だ。


 貴族が無法者の言いなりになるなどあってはならない。


「とりあえずエリーゼ救出に必要な額だけを出し直してください。即日振込みます」

「残りのお支払いはいつに?」

「払いはしますが、額はエリーゼと交渉します」

「ベルカン貴族とはずいぶんとケチ臭いんですな」

「成金とは違うんですよ」


 ロイスの言葉には答えず、ピエールは別の紙に金額を書き直す。


「ではこの額は本日の支払いをお願いします」

「良い値段だ。ベアト、建て替えてくれ」

「うん。ちょっと待って」


 カノンは鞄から小切手を取り出すと指定された金額を書き込む。


「どうぞ」

「小切手ですか。額にお間違いはな――カノン・レ・フェレア!?」

「なんで本みょ、じゃない。冗談書くんだよ」

「あはは。間違いですよ間違い。私の名前はベアトリーチェです」

「書き直すんだ」

「こっちが正しいです」


 名前を書き直した小切手をカノンはテーブルに置く。


 さすがに動揺を隠せなかったピエールも小切手を取り換えると、眼鏡を持ち上げる。


「ま、まぁ間違いなくフェレア家の家紋ですので、どちらでも問題はありませんが。王族の方とは、知らぬこととはいえ失礼致しました」

「大丈夫です。ただの親戚なんで」

「では、諸経費についてはベアトリーチェ様とエリーゼ様の方で別途協議頂くということで、承知致しました」

「では駅に移動します。日没と同時にデナリウスに入りたいので」

「お車は乗ってきたものをそのままお使いください」

「では引き続きお借りしますよ」


 金銭交渉が纏まったところでロイス達は事務所から出て車に乗り込む。


「マフィアって怖いけどちゃんと協力してくれて良かったね」

「物理的に可能なものは全て用意できそうだったな。もっと取り締まった方がいいぞ」

「お父さんも困ってるって言ってたよ」

「助けてやった代わりにソダリータスを解散しろってエリーゼに言ってみるとか」

「エリーゼは了承しなさそう」

「まぁな」


 ロイス達はアレンセ駅に向かい、ディーゼル車と自転車の準備を待つ間に構内のベンチで食事をとった。


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