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パンツァーヘクセ ~魔法使いが戦車で旅する末期感ファンタジー~  作者: 御佐機帝都
二章 操蟲が造る楽園(Battle of Elfenia)
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15 地元民

 ラトネーゼ城に逗留して六日目の朝。ロイスは遠くからの爆発音で起こされた。


「ウィル、起きてるか?」

「起きてるぜ」

「花火じゃないよな」

「砲声だろ」

「来たか」

「本当に交渉したのかね」

「単なる奇襲かもな」


 軍服に着替えたロイスは女子が泊っている部屋のドアを叩き、ガレージ集合を告げる。


 同じく着替えたウィルがロイスに追い付いてきた。


「海の方だ。煙は見えなかった」

「少ないといいな」


 先に戦車に乗ったロイスがエンジンスターターを押して待っていると、少女達もやってきて戦車に乗り込んでいく。


 ただ、エリーゼはカノンとミラに支えられて歩いており、半ば押し込まれるように砲塔へ消えた。


 チョコレートをかじるカノンがハッチから見えたので、ロイスもシリアルバーを口に入れる。


 ここでようやくツナギを着たマフィア達がやってきた。五人揃っている。


「お嬢、お待たせしました!」

「早く暖気に入れ。エリーゼはチョコ食って目を覚ませ!」

「半ば寝てるよ!」

「口に押し込め!」


 三両分のエンジンに交じって、小さくはあるが砲声が聞こえてくる。


 何かと交戦しているのか? それとも単なる破壊が目的なのか。


 ロイスはトラツィオの地図を広げ、改めて地理を確認する。


「全車前進」


 扉のないガレージから三両の戦車が発進した。


 数十分かけてロイス達が街中へ移動すると、砲声も徐々に大きくなる。


 立ち並ぶ家の窓やドアからは住民が様子を伺っている。


 避難勧告などがないため困惑しているようだ。


「砲声が移動していることから相手は戦車とみて間違いない」

「やはり行動不能にするのか?」

「ハサドーネが相手なら、正面に陣取って榴弾で履帯を狙う。炎上させてもいい」

「フォレッティが出てきたらどうするんだ?」

「出会い方にもよるが、撃たれるのは避ける」

「同感だ」


 またしても砲声。


「左側。最低二両いるぜ」


 装填手用ハッチから顔を出すウィルの言葉を信じ、ロイスは左折を指示する。


 そして大通りの一つで、二両の戦車と出くわした。


 緑、茶、黄の三色迷彩。M42『フォレッティ』。


 エルフェニア陸軍の主力中戦車である。


「後退! ひとまず隠れろ!」

「おいベルカン。人民革命党の戦車と見ていいんだよな」

「街中で発砲しているならそうだろう」

「ふははは。フォレッティの戦車砲でアルセリオは抜けんの――」


 エリーゼが言い終わる前に、敵戦車が発砲。アルセリオに直撃した。


「きゃぁ!」


 ロイスはアルセリオを確認したが、車体正面に黒ずみが残っているだけ。非貫通だ。


「一旦射線を切って様子を見ろ!」

「お嬢、やり返しますぜ! 戦車に乗ってりゃお互い様だよな」


 そう言ってマフィアの一人が戦車砲を放つ。


 だが当たらない。敵戦車は後退し建物の陰に隠れた。


「もう一両いるぞ!」

「撃つな! 前の角を左折しろ!」

「とりあえず見逃してやるか」


 マフィアの一人が言った瞬間、敵戦車が発砲。ロイス達の戦車の砲塔側面に掠って跳弾した。


 そしてロベルト達が乗る戦車が左折しようとした瞬間、敵戦車が姿を現し発砲した。


 砲弾はフォレッティの車体側面を貫通。炸裂音が聞こえる。


「煙幕装填。フォレッティは放棄しろ!」


 ウィルが煙幕弾を装填すると、後退しながらミラが発砲。撃破されたフォレッティの周囲に白煙が展開する。


「変速機が壊れた。悪いが逃げさせてもらうぜ」


 前方では銃撃音が聞こえる。敵戦車が機関銃を発砲しているのだ。


「榴弾装填。敵戦車前方に撃て」


 車体前部の変速機に当たったという事は、少なくとも砲塔にいた連中は無事だろう。


 逃走を手助けするため敵戦車を牽制したい。


「余のファミリーに手を出した。許してやることはできんな」

「エリーゼ、そのまま前進して敵側面を通過しろ。近付く必要はない。歩兵の有無を確認する」

「ロイス、なんか、敵が強くないか?」

「おそらく敵は軍人崩れ、いや、現役軍人だ!」


 戦車の戦闘能力は乗員の技量によるところが大きい。


 M42フォレッティの性能に特筆すべき点は無いが、リゼルを正面から撃破可能な戦車砲を持ち、角度と距離によってはリゼルの戦車砲を弾く。


 アルセリオとて側面を撃たれれば撃破される。


 こちらの逃走を許さない程度の機動力もある。


 乗員がプロなら深刻な脅威だ。


「歩兵がいなけりゃ魔法で撃破してもいい。カノン、スピードを出すな。こっちが先に様子を見る」

「カノン、そこを右だ」

「え、壁だよ!?」

「通れる。行け!」

「おい、直進できないのか? だったら離れるように走れ」

「敵戦車の背後を取った。一両のみ」

「なにぃ!? 無茶はするなよ!」

「エリーゼ、早く!」

「重いんだ。肉体労働の担当がいる」

「マフィアにもこっち乗ってもらった方が良かったかもね」

「まぁ、ロベルトが、運転したがって、いた、からな」

「あ、気付かれたみたい!」

「おい、側面は晒すなよ!」

「こっち向こうとしてるよ!」

「問題ない。我々の勝ちだ」


 一拍おいて再びエリーゼから無線が入る。


「敵戦車炎上。砲塔に動きなし」

「すぐに合流しろ!」

「ふはは。エリオ、ジェロディ、仇は取ったぞ」

「どうやって背後を取った」

「この街は余の庭だぞ。道じゃない道も知っている。先ほどは倉庫を通過した」


 ……そうか! エリーゼはこの街の出身者。地理に明るいのは当然!


 言うことを聞けと言いたいところだが、各車の臨機応変さが重要であることも事実。何よりこの街がホームであるというエリーゼの強みを活かさない手はない!


「よし。適宜指示を寄こせ。参考にする」

「ふはは。良いだろう」

「現在三号線を南下中」

「もう一両は余の北側数百メートルだ」


 エリーゼの言葉を聞いた次の瞬間、ロイスの視界を二両の戦車が通り過ぎる。


「中央通りにもう二両。敵は最低四両」


 しばらくして、ロイス達は合流。後方に敵の戦車を視認する。


「奴ら、速いな」

「貴様らの戦車の方が速いだろう。その角を右折。次も右折して最初の角で待ち伏せろ」

「わかった」


 エリーゼの言葉通り、ロイスはレーネに指示を出す。


「砲塔右旋回」


 そして路地の向こうに敵戦車が姿を現すと、ミラが発砲。敵戦車のハッチから炎が上がり始めた。


「一両撃破」

「敵が逃げ始めた」

「誘われていると考えろ!」

「ユンカー達は前進。右折して四号線を直進」

「エリーゼは?」

「後から行く」


 敵戦車が南側へ移動するのと同様、ロイス達も南へ進む。


「三叉路がある。これを右折か」

「そうだ。すぐ通過するぞ」


 だが、数秒経っても敵戦車は現れない。


「敵が来ない。一度合流する」

「読まれていたか。となるとこっちに来るな」

「アルセリオの戦車砲なら角度は気にしなくていい。撃てるか」

「今から装填する」


 アルセリオの戦車砲は口径こそ標準的だが砲身長が長く、強烈な貫通力を発揮する。


 とにかく敵戦車に当てさえすればいい。


 街角から姿を現したフォレッティは急停止。即発砲。


 砲弾はアルセリオの車体正面に当たり弾かれる。


 すかさず後退する敵戦車に向かってアルセリオが前進。


「エリーゼ装填まだ!?」

「やっと、終わった。奴に逃げ場は無い」


 その言葉の通り、敵戦車は後退を止め車体を傾ける。


 しかしエリーゼの放つ砲弾は容易く敵戦車の砲塔正面を貫通した。


「一両撃破」

「カノン、前進しろ!」


 ロイスが指示を出すが、遅かった。


 隣の通りから敵戦車が現れ、走りながら発砲。


 路上に飛び出ていたアルセリオの車体後部に命中し炎上させる。


 カノン達と合流を図ろうとしていたロイス達を前に、敵戦車は足を止めない。


 ウィルが徹甲弾を装填し、ミラが発砲。


 砲弾は敵戦車の砲塔右側面に当たり貫通した。


 しかし、ハッチから顔を出す装填手は健在。


 天板に付いた機関銃を撃ちながら、突っ込んでくる。


 こいつ、撃たれる前に加速しやがった!


 敵戦車はロイス達の右側を通過していく。


 車体同士が擦れあう音が、砲塔に引っ込んだロイスにも聞こえる。


「カノン、エリーゼ、状況!」

「エンジン損傷! 怪我は無い」

「火災は!?」

「火は見えない」

「なら中で待機」


 信地旋回したロイス達の戦車は敵戦車を追う。


 命中箇所からして車長や砲手は負傷した可能性が高い。


 この状況で敵の勝ち筋は……。


 敵戦車は角を右折し姿を消す。


「砲塔六時。直進しろ!」


 ロイス達が通過した直後、敵戦車が後退してくる。


 やはり、体当たり狙いか!


 飛び出してきた敵戦車が正面をこちらに向けようとしているが、こちらの方が早い。


 砲身を後ろに向けたところでミラが発砲。


 敵戦車の車体正面を撃ち抜き炎上させた。


 中から敵が出てくる気配は無い。当面の脅威は去った。


 そう思った時、目前の敵戦車が発砲。砲弾は路面を穿つ。


「まだ生きてるのか!」


 炎上する敵戦車から軍服を着たエルフが這い出てきたのを見て、ロイスは驚愕する。


 敵はロイスを見ると拳銃を向け発砲する。


 二発撃った後、炎上する戦車が爆発した。


 弾薬庫に誘爆したらしい。


「この状況でも投降しないのか」

「前線ならともかく、彼らにここまでさせる理由があるのか」

「こいつら絶対軍人だぜ」

「違いない。人民革命党には軍人が混じっている。それはつまり脱走兵だ。何か事情があるはずだ」


 カノン達を探して戦車を走らせていると、ウィルに呼びかけられる。


「どうした」

「飛行艦だぜ」


 ロイスが同じ方向を見ると、確かにいた。


 中高度を飛行する飛行艦。戦車のエンジン音に紛れていたが、存在に気付いた今は飛行艦のエンジン音が聞こえてくる。


 船体下部に連装砲塔を持つ、軍用飛行艦だ。


 トラツィオ上空に進入してくる飛行艦の尾翼には赤い歯車と工具のマークが描かれている。


「脱走兵は、少なくとも百人くらいいるらしいな」


 ロイスは呟いた。

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