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パンツァーヘクセ ~魔法使いが戦車で旅する末期感ファンタジー~  作者: 御佐機帝都
二章 操蟲が造る楽園(Battle of Elfenia)
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13 マフィア

 エリーゼを先頭に、ロイス達は城へ入る。


「この城の名はラトネーゼ。余の実家だ」


 ラトネーゼ城は中世以前のエルフェニアから続く伝統的なリナシメント様式で建築されており、外壁は薄い灰黄色で、柱にレリーフが彫り込まれている。


 玄関から入るとドーム状の天井があり、三方向に通路が伸びていた。


 玄関ホールにはシャンデリアがぶら下がっており調度品も置いてあるが、通路の内装はシンプルであり、窓からの光が大理石の床を照らしていた。


 城内に入ると執事服の壮年の男が何某かエリーゼに話しかけたが、エリーゼは首を振る。


「いや、余が自分で案内する」


 そしてロイス達は玄関ホール右側の階段から二階へと上り、客間と思しき一室に連れていかれた。


 客間は茶色を基調としたデザインで、エルフらしいアンティーク家具が置かれている。


 ロイス達は皮張りのソファに向かい合うように腰掛けた。


「ねぇ、私が王女だって言ってないよね」


 エリーゼの隣に座るカノンが問う。


「学友だとしか言ってない」

「俺達のことはなんて説明してるんだ」

「ベルカから視察に来た貴族」

「オイラは?」

「ルクスバキア領邦の政治家の息子」

「なるほどねぇ」

「できるだけ俺達は直接会話しないようにするから、エリーゼが適当な設定を考えてくれ」

「いいだろう」


 ここでドアがノックされ、エリーゼが答えると先ほどの執事が入ってくる。そして人数分の紅茶と砂糖のビンを置いて退室した。


「お前本当にマフィアの令嬢なのか?」

「この状況でまだ疑うのか?」

「だが権力が伴っている保証はないよな」

「ある。ソダリータスとは余の組織だ」

「不可解すぎる。犯罪組織がなんで十代の女に従う?」

「血と忠誠。ベルカンにはわかりやすいだろう」

「犯罪組織が世襲制なのか? なんか意外だな」

「多分ソダリータスだけだよ」


 カノンが舌を出しながら言う。紅茶が熱かったらしい。


「知ってるのか?」

「ソダリータスはスマティーヨ家の末裔なんだって」

「……もしかしてソダリータスはスマティーヨの臣下の孫の集まりなのか?」

「その通り」

「じゃあお前はスマティーヨ家の末裔ってことかよ!」

「いかにも。余こそがエリーゼ・スマティーヨだ!」


 エリーゼが胸を張って得意げに言った。


 南北朝時代。そして南北戦争。エルフェニア近代史で最も重要な出来事であり、今でも影響が残っている。南北の経済格差はその後遺症だ。


 エルフと交流を持つなら知っておくべき事象であり、ロイスも士官学校で習った。


 エルフェニア王家は一五〇年ほど前から半世紀にわたって両統迭立で王位継承を繰り返しており、実質的な分裂状態に陥っていた。


 そして二つの王家フェレア家とスマティーヨ家がそれぞれ国王を即位させてしまったことで、この対立は決定的なものとなる。


 その後三〇年に渡り南北朝と呼ばれる時代が続き、南北戦争は最終的にフェレア家が勝利した。


 歴史家の見解によれば、初期の段階でフェレア家は人口の七五パーセントを勢力下に収めており圧倒的に有利だった。


 にもかかわらず南北朝時代が三〇年も続いたのは、フェレア家が味方の有力貴族の勢力をすり減らすため、あえて自軍同士の連携を阻害し損害を増やしていたかららしい。


 そして七〇年前のエルフェニア統一の段階で、フェレア家以外の貴族は全て没落しており、軍部との癒着も含め中央集権化に成功していた。


 唯一の対抗勢力であったスマティーヨ家も、当然一族郎党皆殺しにされた。


 三〇年の停滞と引き換えに、フェレア家はエルフェニアの政治的、軍事的、思想的な統一を成し遂げたのだ。


 そしてフェレア家は工業や商業の発展に尽力し、今のエルフェニアを作り上げた。


 しかしベルカとの交流でもたらされたた工業化は北部が独占することになってしまい、ここ数十年で南北の経済格差は拡大した。


 この辺りはフェレア家の南部に対する微妙な感情によるのかもしれないが、実情として南部は一次産業頼みの貧困地帯であり、失業率も高い。


 そうした困窮から来る人心の荒廃こそが犯罪組織の温床になっている。


 ロイスはそう教わったが、話はそう単純でもないらしい。


「実はスマティーヨ家は滅んでおらず、残党がマフィアを作ったというわけか」

「そうだ。祖父は地元の人間の手引きで潜伏できた。処刑されたのは別の人間だ。因みにマフィアの元々の意味は犯罪組織じゃないぞ」

「ありそうな話ではある。だがなんで犯罪組織になった」

「元々は故郷を失った残党による相互扶助組織だったそうだ。南部であれば先祖がスマティーヨ家の家臣だったという人間も多いからな。すぐに勢力は広がった。先立つものがいるから非合法活動に手を染めたが、今は合法的な活動が大半だ」

「結局違法な活動もしてるんじゃねぇか」

「矜持もあるぞ。ソダリータスは売春と麻薬はやらない」

「何故だ?」

「貴族の誇りだな。それと抗争の際に大義名分を得やすい」

「ヴァーティミアスは偽名か。変な苗字だとは思っていたがな」


 レーネが紅茶を飲みながら言った。


「……そういえば、お前の王になるとか支配者になるとか戯言だと思ってたが、スマティーヨ家の末裔なら話が変わってくるじゃねぇか」

「余は冗談で言っているわけではない」

「もしかして私から王位を奪うってこと!?」

「そもそもお前は継承者に過ぎないだろう」

「酷いよ! エリーゼ友達だよね!?」

「カノン落ち着け。実際のところ、人民革命党とソダリータスに繋がりはあるのか?」

「ない」

「本当だろうな」

「神に誓おう」

「じゃあソダリータスとは利害が一致していると考えていいのか?」

「さっきも言った通りだ」

「人民革命党によって商売を邪魔されているとか、そういうことか?」

「人民革命党の暴虐は目に余る。そして奴らは南部の支配者は労働者代表であるべきと宣っているが、それは違う。もし南部が誰かのものであるのなら、それはスマティーヨ家に帰属するはずだ」

「もしかして反社会的ってだけじゃなく反政府組織か? 悪いが俺達はカノン、というかフェレア家に付くぞ」

「いいや。ソダリータスとして国家転覆を図る気はない。不可能だからな」

「なら、王になるというのは裏社会から牛耳るという話か?」

「余は国家と戦う気はない。余は体制の頂点に立つのだ」

「王様になるのは私だし、頑張ろうと思ってるんだから邪魔はしないでよね!」

「ふはは。余は天才だからな。良い治世をするぞ。そのためにも人民革命党は邪魔だ」

「まぁ、エリーゼが味方だってことはわかった」

「じゃあさ、エリーゼの欲しい地位をあげるから、王様は私ってことで」

「他人から与えられた地位に意味はない」

「本気でこの国を支配するって言うなら、私だって怒るからね!」

「カノン。私はエリーゼに悪意はないと思うぞ。もしカノンを排除するつもりがあるのなら口には出さないし、今までにチャンスはたくさんあったはずだ」

「まぁ、そうだけど」

「ふはは。余としても今すぐにとは思っていない。まずは聖別者を倒す。それまでは共同戦線だ」

「カノンにはお父さんがいるんだ。心配ないだろ」


 頼むから喧嘩しないでほしい。ロイスは思った。


 その後遅めの昼食が振舞われ、ロイス達はラトネーゼ城に逗留することに決めた。


 城だけあって客室が複数あり、二人ずつに分かれて泊まることになった。


「オイラ城に泊まるのって初めてだぜ。中はホテルとあんまり変わらないな」

「作りも新しいし、城塞というよりでかい家って感じだな」

「ていうかロイスって大貴族じゃん。やっぱお前ん家の方が広いのか?」

「そんなことはない。俺の実家は館だな。城も持ってたけど使ってなかった」

「やっぱすげえな。皇女さんの家は?」

「あれは皇宮だからな。もの凄くでかい宮殿というか。そういった意味じゃこの建物も宮殿だけどな」

「城とは違うのか?」

「塔と堀が無い」

「なるほどなぁ」


 ロイスとウィルが話していると少女達四人が部屋に入ってきたので、ロイス達はエリーゼに案内を頼み城内を散策した。


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