6 少年兵
教会だったと思われる倒壊した建物の前で、三人のエルフが処刑されようとしていた。
側には一二、三歳の少年兵士が三人、銃を持って立っている。
「あれを助ければ良いんだな?」
「そういうことだな」
「一人捕まえる」
ロイスは拳銃を抜くと、人差し指と中指を立ててウィルに見せる。二人倒せという意味だ。
「待て。殺す必要はない」
「いやウィルの魔法で倒すんだよ」
「ふはは。ならば余の魔法を見せてやろう」
「お前の魔法? 生け捕りにできるのか?」
「見よ! 我が闇の魔法を!」
銀製ナイフを取り出したエリーゼは見えを切ると、躍り出るようにして進み、魔法を発動した。
地面から湧き出るように深紫の液体金属が現れると、帯状に伸びて少年兵に襲い掛かった。
瞬く間に二人を叩き伏せると、残り一人が叫びながら発砲。しかしエリーゼの魔法は穴すら開かず、吹き飛ばして気絶させた。
「おお。よくやった」
「余の闇の魔力は――」
「すぐに熱が出る。解熱剤を飲んでしばらく休んでろ」
錠剤を渡したロイスは、広場に歩み出て衆目に告げる。
「俺達はこの街を助けに来た。共通語がわかる者は協力してほしい」
この言葉に住人達はにわかにざわめきだしたが、すぐに一人のエルフが歩み出てきた。
何やらお礼を言っているのはわかるが、エルフ語はよくわからない。
「共通語がわかる奴って言ったろ」
「にゃー。それ自体通じてないんじゃねぇの?」
「状況的にわかるだろ」
「ふはは……田舎は共通語など……解さぬぞ」
顔を赤くしたエリーゼが壁にもたれながら言う。
「じゃあやっぱり通訳が必要じゃないか。勝手に魔法撃ちやがって」
「余の力が知れて良かっただろう」
「今である必要はなかった。エリーゼの熱が下がるまで待つか」
それから十数分ほどして、エリーゼの呼吸が落ち着いてきた。
「余は既に回復した」
「歩けるか?」
「問題ない」
「ならその人について来るよう言ってくれ」
「ふはは。その人は町長らしいぞ」
「なら丁度いい。話が聞きたい」
そう言ってロイスは歩き出し、ウィルやエリーゼだけでなく数十人のエルフが後ろに続いた。
戦車の側に戻ると、レーネが右手を振って出迎える。
「ロイス! 様子はどうだった?」
「人民革命党による公開処刑を阻止し、少年兵を三人拘束した」
「なんで処刑されそうになっていたんだ?」
「司祭であったことがバレたそうだ。人民革命党は宗教を否定しているらしい」
ロイスはエリーゼの通訳によって得た情報を話す。
「他に少年兵はいなかったのか? 彼らはどこから来た」
「少年兵は街外れの修道院で暮らしているらしい。この街の子供も、どこかで少年兵になっているのかもな」
「街の様子は?」
「宗教関係者や地主は処刑された。それと、今後この街はバジルだけを育てるから、今の農作物は全て収穫するよう強制されて、逆らう者は殺されたとか」
「狂った組織だな人民革命党は。バジルだけ育てて食べ物はどうする」
「芋や小麦を育てている街と交換すると説明されたらしい」
「連作障害起こすだろ」
「民のことを考えているとは思えない。今後人民革命党と衝突することがあっても、住人の理解は得られそうだ」
「そうだな。……この後はどうする?」
「待っていれば魔法使いの方から来るかもしれない。そしたら話を聞こう」
「修道院は無視、か。それがいいだろうな」
方針を決めたロイスはエルフ二人に声をかける。
「少し移動して様子を見る」
そうしてロイス達は街と駅の間の畑が広がる一帯に移動し、建物が遮蔽物になるよう戦車を停めた。
「ミラ、食事の準備を頼む」
「承知しました」
「ねぇ、これって朝ごはんに昼ごはんになるの?」
「敵の出方による」
「ふはは。ブランチは好みだ」
「生け捕りにする以上魔法で戦うことになるが、エリーゼとカノンはどんな魔法が使える」
ロイスの質問に、エリーゼは待ってましたとばかりに右手の甲を顎に当てる。
「余の魔法は紫闇鉱を操る。余はこれを闇属性と名付けた」
「私の魔法は漂素を操るから漂属性かなぁ」
「漂属性ってのはどうやって攻撃する?」
「そこらへんの漂素を固めて飛ばすよ」
「なるほどなぁ」
二人とも魔法の殺傷能力は低そうだ。
デュアルスキルは発動させないこともできる。故にロイスとウィルの魔法も生け捕り向き。
逆にレーネの龍魔法は人間に当たれば木っ端みじんになるし、ミラの炎魔法も重傷は免れない。
敵が多いようなら銃撃で牽制して、殺傷能力の低い魔法で仕留めるか。
「食事の用意ができました」
ミラの言葉に、一同は分隊ストーブを囲む。
「私魔法を使ったこと一回しかないんだけど、凄い熱が出るんだっけ」
「ふはは。結構辛い」
「使えば使うほど悪化するうえに長引くからな。多人数相手には向いてない」
「じゃあ敵がたくさん来たらどうするの?」
「銃を使う」
「でも相手子供でしょ?」
「ふはは。我らの腕の見せ所だ」
ここでミラが各自の飯盒にアイントプフを配り終わる。
「わーい。食べよー」
カノンがそう言った瞬間、遠方の街で轟音が響いた。
咄嗟にそちらを見ると、巨大な水球が建物を薙ぎ払うように蠢いている。
「戦車、エンジン始動!」
ロイスはソーセージを一本だけ口に押し込むと、戦車に向かい砲塔から双眼鏡を取りだす。
「え、あれ魔法!?」
「水属性といったところだろう」
「なんかでかくないか?」
ウィルの言う通り、魔法の規模が大きい。
ロイスはあそこまで大規模な魔法は発動できない。
それに水の振る舞いも変だ。飛沫が見えず、寧ろゴムみたいな挙動をしている。
ロイスが様子を伺っていると、隣のアルセリオが走り始めた。
「ちょっと待て!」
「早く助けにいかないと!」
無線からカノンの焦った声が聞こえる。
「暖気の時間は取れ!」
「少しくらい大丈夫だよ!」
「おびき寄せるから止まれ!」
ロイスの隣ではウィルが榴弾を装填し、レーネはエンジンの回転数を上げていた。
当たり前だと思っていた光景に有難みを感じる。
「ミラ。撃て」
「了解」
ロイス達の戦車が発砲。街の手前で土煙が上がる。
「次弾装填。エリーゼも撃て!」
「余は車長だ。装填手ではない」
「いないんだから仕方ないだろ!」
「だがこの砲弾は重すぎる」
「ミラ。水を狙え」
そう言ってロイスはキューポラから顔を出すと、機関銃の引き金を引く。
銃弾に続いて砲弾が遠方の水球に飛び込むが、信管が作動することもなく弾き返される。
だが無意味ではなかったようで、水魔法は焼失した。
「何とか装填したというのに、目標が無くなってしまったな」
「こっちの存在に気付いた可能性がある」
ロイスの言葉通り、リクアーノの街から一人のエルフが姿を現した。二十代半ばほどの男だ。
その周辺を十数人の少年兵が固めている。
「カノン。戻ってこい」
そう言いつつ、ロイスは相手の様子を見る。
リーダーと思われる男は緑褐色の軍服を着て、片刃の刀剣を持っている。
「あれは、グロスメッサ―か?」
「エルフェニア語だとファルシオンだな」
ファルシオン。昔使われた刀剣で、取り回しの良さから似たような形状の刃物が今でも農作業などで使われている。
あれが俺達にとっての銀製ナイフ。魔力の増幅器なのか?
「近付いてくるぞ」
「半クラッチを維持。カノンもだぞ」
ロイスもいつでも頭を引っ込められるよう準備していたが、大人のエルフは十数メートル離れたところで止まり、口を開いた。
「何故ベルカンが我々の邪魔するのか。ベルカはそのような方針となったのか」
共通語であったことに、ロイスは若干驚いた。
野蛮な連中だと決め込んでいたが、学があるのかもしれない。
「同盟国としての視察だ。攻撃を受けたため、やむなく反撃した」
「我々は新たな理想郷のため活動している。ベルカに戻りそう伝えるように」
「報告のため、その目的を詳しく知りたい」
「全ての胎生人類が平等に暮らす社会を作るためだ」
「つまりは王政の打倒か?」
「それだけではない。人民公社による集団農場で農作物を大増産し、持続可能な世界を実現する」
「この街にオリーブばかり育てさせるのもそれが理由か?」
「各街は一つの作物に特化し、都市間で交易を行う。これが一番全体での効率が良い」
「でも街の人達は嫌がってたよ! それに教会の人を殺したのも悪いことだ! そんなことしても皆怖がるだけだよ!」
ここでカノンが声を上げた。相対するエルフはそちらに視線を移す。
「宗教は民衆のアヘン。それに加担する者はこれからの時代に不要だ」
「そんなのただの人殺しだし、何を育てるか強制されるなんて聞いたことないよ!」
「大人でないお前達ならばわかりあえると思ったが、伝統的な社会を支持するなら排除するしかない」
「私はただ、この街から出ていってほしいって言ってるだけだよ!」
「フェレア家の王政は労働者からの搾取だ。理想社会のため、我ら委員会の管理が必要になる」
「違う! エルフェニアのまほろばは王道楽土で実現する!」
「腐りきった伝統の亡者どもが。朽ちて消え行け! 古きものよ!」
――デュアルスキル『水素結合強化(Aqua Crasher)』




