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パンツァーヘクセ ~魔法使いが戦車で旅する末期感ファンタジー~  作者: 御佐機帝都
二章 操蟲が造る楽園(Battle of Elfenia)
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2 エルフェニアへ

「ロイス、一緒に食事しよう」

「そうですね」

「もう、敬語やめろぉ!」

「癖になってるんだ」


 二人は宿泊しているホテルへと向かう。


 大都市の目抜き通りでありながら、活気はない。


 ホテルやレストランの営業停止や食料の配給制によって外出する理由がなくなったというのもあるが、そもそも街の人口自体が減っている。


 開戦当初、獣人ルクスの徴兵基準は緩かったが、現在はそんな余裕も無くしかも戦場の方からルクスバキア領邦に近づいてきている。


 このままミネル石軍が侵攻すればルクスバキア領邦が戦場になることは確実で、この街も戦時一色となってしまった。


 ホテルでの昼食も、豚肉のローストにザワークラウトの付け合わせ。あとはパンという皇帝にしては質素なものだ。


「ロイスは昨日や一昨日は何をしていた?」

「ウィルと飯食って釣りしてた」

「ウィルと会ってたのか」

「あいつも暇だからな」


 ウィルとしてもルクスバキアに戻ってきた以上は故郷に帰りたいはずだが、ロイスが費用を払って同じホテルに滞在してもらっていた。何かあった時のためだ。


「せめて食事は私も呼べ!」

「呼ぼうとした。そしたらローゼンガルト宰相閣下が陛下は執務中だからと」

「ローゼンガルトめ。ロイスの誘いは最重要だと厳命しておく」

「気分転換に食事くらいと思ったが、そんな時間はなさそうだな」

「一昨日くらいまでずっと事後承認のサイン書いてた」

「行方不明だった国家元首がいきなり戻ってきたらそうなる」

「最初の方は重要な案件だったがだんだん重要度が下がってきて、やっと一段落した感じだ」

「官僚達が予め優先順位を決めておいたんだろ」

「もしエルフェニアの調査が必要になるなら、私達でそれをやろう」

「そう、だな」


 国家元首がやるべき事なのかとは思う。


 とはいえ俺がエルフェニアに行けば、こいつは全権を行使してでも付いて来るだろう。


 ならば行かないという手もあるが、呪林の調査が必要となった場合は俺達が適任であるのも事実。


 まぁ、話の詳細がわからなければ方針も決められない。


「買い物でもしたいところだが、デパートは閉鎖されている」

「現状じゃ適切だ」


 レーネはコーヒーを飲み終えると、席を立った。それに続いてロイスも席を立つ。


「私は事後承認の書類にサインする仕事に戻る」

「散歩くらいしかやることのない俺よりずっと立派だ」

「散歩か? なら私も一緒に歩こう」

「いや、今日は部屋に戻って本でも読んでる。明日も会えるから執務に戻ってくれ」

「うむぅ。仕方ない。明日の朝九時だぞ」


 こうして二人は別れ、ロイスは言葉通りその後は自室で過ごした。


 翌朝。ロイスとレーネは一度ホテルのロビーで落ち合ってから、近衛師団司令部へ赴く。


 予定時刻の前ではあったが、ロイスとレーネが会議室へ入るとオスカーは既に席に座って待っていた。


「ご機嫌麗しゅうございます。陛下」

「情報は整理できたか? 中佐」

「可能な限り。これよりご報告致します」


 そう言うオスカーの目は充血気味で、寝てない表情をしている。


 面倒なことは部下に丸投げな性分だと思っていたが、流石に国家元首からの命令には全力で働いたか。


 それとも異動してきたせいで代わりに働いてくれる優秀な部下がいなかったか。


 オスカーは手元の資料を手に取りつつ、口を開いた。


「エルフェニアに蟲を操るエルフが存在するのは事実です。その男は聖別者と名乗り、革命を謳い、呪林を作り出し、各地で強制連行や虐殺を行っています。被害は甚大であり、エルフェニアの国力を低下させています」

「エルフでありながら卵生人類に与しているのか?」

「卵生連合との繋がりを示す情報は入手できませんでした。しかし災菌を全く恐れていないようで、完全な抗体を持つ可能性があります」

「もし抗体を持つなら、その血液は胎生人類の救世主になるな」

「はい。エルフェニア軍も情報を統制しつつ討伐を試みているようですが、災菌によって阻まれているとのことです」

「まぁ、難しいだろうな。しかし聖別者か……」


 レーネが呟くように言葉を切る。


 聖別とはエルフェニアやランドワーフの宗教で物質を神に捧げるために浄化する行為を指す。


 ベルカの宗教だと禊ぎに近いと言われるが、ロイスは詳細を知らない。


「その男は聖職者ではないのだな?」

「ただの軍人だったようです」

「ならば一体、誰がその男に加護を与えたのだ」

「より上位の存在がいるとお考えですか?」


 オスカーが問う。


「エルフの宗教感で言えば、聖体を自称するなら仕える神が必要だ」

「同感です」

「他に重要な情報はないのか?」

「王都デナリウスの周辺は呪林に没してしまっており、物流は完全に途絶しているようです。レオナルド王の生死も不明です」

「公にできない情報ばかりだな。よくやった中佐」

「光栄であります」


 オスカーが敬礼で返すと、レーネはロイスへ視線を移す。


「現地調査が必要だな」

「それは、そうでしょうね」

「しかも、それは呪林に入れる人間でなければならない。私達の出番だ」

「陛下自ら行かれるのですか!?」


 ロイスが口を開く前に、オスカーが驚いた声を上げた。


「公に軍を動かすわけにもいかんし、小手先の規模では呪林に阻まれるだけだ。それなら災菌に対応できる私達の方がいい」

「そうですが、ロイスとあのルクスを改めて雇って先行させる方が安全です」

「いや、それだと戦車の乗員が足りない。私と、ミラも必要だ」

「乗員は他の戦車兵でもよろしいかと」

「そいつらは災菌で死ぬだろう」

「それはそうですが……」

「成功すれば今度こそ治療薬が作れるかもしれない。治療薬の作成は急務だ。失敗は許されない。ならば、私達四人で行くべきだ」

「話し合いで入手できる可能性もあります」

「それなら私が交渉をまとめて見せる。ロイスもそう思うだろう?」

「まぁ、交渉になるなら適任だとは思います」

「その通りだ」

「陛下が国を空けられて、執務の方はよろしいのですか?」

「ここ一年以上、私は政務も軍務も承認のみ行っている。ローゼンガルトに全権を任せれば意思決定は一本化できる。ロイスも私がいなくても大丈夫だと思うだろう?」


 レーネは同意を求めてロイスを見た。


 この展開について、ロイスは昨晩考えて結論を出していた。


 レーネの言動が無責任であることは間違いない。


 国家元首である以上、執務室に座って臣下の上申に判断を下すべきだ。


 今日まで続く貴族制の根幹は、常に国家を発展させるために尽力する事にある。


 ただ、レーネは数万、数十万の犠牲を伴う決断を下し続けた結果メンタル崩壊してしまった。


 レーネを一個人として見るならば、絶対に療養した方がいい。


 それには俺達と外国を旅する事も有効だろう。


「問題はないと思います。それに蟲を操るエルフが災菌を克服しているならば、そいつの血は絶対に入手すべきです」

「よし! ならば決定だ。私達はエルフェニアに向かう!」


 レーネはビシッと南側を指さした。


 エルフェニア王国。ネラス山脈を挟んでベルカの南側に隣接するエルフ国家。


 先の大戦でもベルカと共に卵生連合と戦っており、ベルカとの繋がりは深い。


 エルフの国民性も真面目で神経質な傾向があり、ベルカンとは気が合う。


 また頑固な性格やこだわりの強い者も多く、それが芸術の国と呼ばれる多様な文化を生み出した。


 著名な産業は何と言っても農業であり、胎生枢軸、特にベルカの重要な食料供給源となっている。


 戦時下では贅沢は難しいだろうが、食糧事情はベルカよりマシだろう。


 インフラも、特に北部は充実している。


 不安なのは燃料事情だが。


 まぁ、予め補給地点を決めてベルカから持ってこさせるなりやりようはある。


 ロイス達は旅の準備を始めることにした。

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