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パンツァーヘクセ ~魔法使いが戦車で旅する末期感ファンタジー~  作者: 御佐機帝都
一章 金色の断末魔(Battle of Colony)」
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19 覚醒

 死神の魔法が止む。


 ロイスは落下して地面に叩きつけられた。


 痛い……が、身体はまだ動く。他の三人はどうなった。


 ここからでは見えない。巻き上げられたようにも見えたが……。


 今の魔法は、今までにない力だった。


 単に黒い魔法を飛ばすだけでない、更なる能力が加わっていた。


 もう一度撃てば理解できるか?


 仲間がどうなっているかも把握したい。


 今はとにかく攻撃を続け、注意を引く!


「お前のような存在を、神霊が許すはずがない!」

「お前達の宗教は無関係。世界再生は決定事項」


 ロイスの放つ黒い魔法は周囲の大気や砂埃を吸い込みつつ、流動する空間の中をも直進した。


 死神が滑るように移動したため命中こそしなかったが、わかったことがある。


 俺の魔法は死神の空間魔法の影響を受けない!


「その決定は却下だ! 今の胎生人類が否決する!」


 接近しつつ黒い球状の魔法を発動するが、空間の潮流に合わせて移動する死神は速く、直線的なロイスの魔法では捉えられない。


 しかし、空間魔法で防げないという事は、当たりさえすれば確実に撃破できる。


 あと一歩。奴の動きを制限する事ができれば――。


 ロイスがそう思った時、死神の後方から赤黒い金属粒子の奔流が襲い掛かった。


 レーネの龍属性魔法。無事だったか!


「その通り! 胎生人類を救うのが我々の責務なのだ!」


 不安を感じさせない凛とした声。


 魔法も今までとは違う。射程が大幅に伸びている。


 俺と同じく更なる能力が加わったか? ならば、可能性はある!


 それに続いて、山なりに炎を纏った大きな結晶が飛来する。それは死神の頭上で割れるとエアロゾル状に拡散。即座に引火し、大爆発を起こす。


「陛下のメイドとして、火力支援します」


 ミラも無事! あとはウィルか。


 死神は地面を滑るような高速移動で攻撃を躱すと、魔法を発動。空間の竜巻が発生する。


 周囲の物体のみならず、地面すら巻き上げられる。


 その地面は液状化していた。液状化した土が空中に吸い上げられていくのに混じり、ウィルの姿が見える。


「ウィル!」

「悪ぃ。しくった!」


 ウィルは地面に地中にいたらしい。


 自身の魔法に新たな能力が加わったとて、死神の魔法を遮る術は無い。


 逃げる事も叶わず、四人は巻き上げられた。


 宙に流されつつも魔法を撃つが、レーネとミラの魔法は空間の流れによって阻まれる。


 ロイスの魔法だけが、空間の歪み、流れの影響を受けずに直進し、死神に迫る。


 黒い魔法が接触した物質の電磁力、核力、魔力を重力に変換する能力。


 周囲の物質は黒い魔法に向かって落下し、一か所に潰れる。


 こうして発生した超重力は周囲の空間すら黒い魔法に引きずり込む。


 故に空間を操る死神でさえ、防ぐことも軌道を変える事もできない。当たりさえすれば致命打になることは間違いない。


 死神は周囲の空間を操り高速移動することで回避したが、その代わりロイス達への攻撃は止み四人は落下に転じる。


 こいつの正体は先祖が作った呪林の番犬。世界再生の工程管理者といったところだろう。


 今ここで確実に殺す!


 落下する四人の下の地面が抉れ、土が腕のように伸びてくる。


 ロイス達はそこに着地。否。地中に入ってなお沈んだ。


 そのおかげで地面に叩きつけられることはなく、衝撃も緩和された。


 土魔法ということはウィルの魔法。土を液状化できるようになったらしい。


 液状化した土塊から吐き出されるように地面に転がるロイス。


 そこにすぐさま空間の奔流が襲い、三度空中へと吸われていく。


 レーネ、ミラも魔法を放っているが、やはり死神の防御を突破できない。


 レーネの魔法は高威力長射程。ミラの魔法は大火力広範囲だが、空間ごと軌道を変えられては効果が無い。


 死神は俺の魔法だけ警戒していればいい。


 やはり、分が悪い。


 俺達は魔法を使うほどに発熱して体力を消耗し、遠からず戦闘不能となる。


 対して死神は燃料気化爆弾による火傷以降は一切のダメージを受けていないのだ。


 長期戦は敗北と同義。早く攻略の手立てを見つけなければ。


 突破口となり得るのは死神の足元だ。


 死神周辺の空間が流動している。しかし地面については揺らぎや歪みが生じているようには見えない。


 地中の空間は正常と思われる。


 勿論やろうと思えば地下の空間も操作できるのであろうから、不意打ちは必須だ。


 地中を移動するにはウィルの魔法が必須だが、連絡手段が無い。


 死神の周辺は常に空間の竜巻が渦巻いており、合流も困難だ。


 ロイスが何とか隙を見出そうとしている時、死神の足元が液状化した。


 ウィルの土魔法だ。


 半球状に抉れた地面に死神の姿が隠れ、そこにミラの魔法が投射される。


 次の瞬間、灼熱の坩堝と化した地中から死神が飛び出してきた。


 やはり無傷。上昇する空間の流れに乗って飛翔。


 すかさず死神の足元へ走り込んだロイスは黒い魔法を放つ。


 死神の足場に入り込むにはこの手があったか!


 しかし、空間を操る事で宙を不規則に移動し、ロイスに的を絞らせない。


 黒い魔法は全て撃ち損じとなり、死神は自由落下よりも速く黄金の軌跡を描いてロイスの前に着地した。


 それを認識した時、ロイスは既に巻き上げられていた。


 まずい。限界が来ている。


 戦闘中でありながら、高熱で意識が朦朧としてきた。


 魔法を発動できるのは後一、二回。しかしこれ以上の戦術など……。


 進退窮まったロイスの右方から巨大な影が迫る。


 頑丈な装甲に守られた二三トンの鉄塊がロイスに衝突した。


 傍からはそう見えた。しかし実際には間一髪で黒い魔法を放ち、その装甲に大穴を開けて内部へと入り込んでいた。


 暗闇の中でロイスは思う。


 そうか。もう仲間が一両いたじゃないか!


 浮遊から落下へと転じた戦車の中から、キューポラを通じて下方を伺う。


 死神はほぼ真下。空間魔法をいずこかに向けて撃っている。


 まだだ。気付かれてはならない。チャンスは一度。


 地面まで十数メートルまで迫った時、ロイスは魔法を発動した。


 黒い球体はちらちらと瞬く光を伴いながら戦車の砲塔側面を突き破り、大気を、宙を漂う瓦礫を吸い込み、死神へ迫る。


 対する死神は咄嗟に回避しようとした。


 周囲の空間ごと動かし、高速で移動しようとする。


 今までと違ったのは気付くのが一瞬遅れたこと。


 その刹那が生死を分けた。


 死神が存在する空間はロイスの魔法による巨大な重力によって引きずられ、移動は回避足りえなかった。


「いけぇぇぇぇ!」


 その叫び声さえ飲み込んで、黒い魔法は死神へと直撃した。


 直後、戦車とロイスは地面に墜落する。


 ロイスは一瞬死んだと思った。周りが真っ暗だ。


 だが、一秒としないうちに戦車ごと地上へ浮上し、ロイスは戦車から投げ出される。


「ロイス!」


 遠くからレーネの声が聞こえた。


 そちらを見て無事を確認すると、近くにあった死骸を確認する。


 右半身が焼失しているが、焼け焦げた身体から死神で間違いない。


 本当に、倒せたのか……。


「ロイス! 無事なのか!?」


 レーネに腕を捕まれ、ロイスはふらつく。


「お、俺は無事です。陛下こそ、よくぞご無事で」

「本当によくやった! お前のおかげだ!」

「ロイスさん!」

「ミラ。無事だったか」

「やったんですよね!」

「あれで生きてたら、もう諦めるしかないな」

「こんなしんどいのはこれっきりにしてほしいぜ」

「ウィル。おかげで助かった」

「連続キャッチは肝が冷えたぜ」


 ロイスは改めて死神だったものを見る。


「やはり……人間にしか見えないな」

「呪林を広げるための存在が、何で人型なんだろうな」

「自我や人格まであったように見える。こいつは人間として作られたのかもしれない」

「ロイスの話に反応してたからな。戦闘面では枷になってた気もするが」

「もしかすると、宗教的な役目も――」

「ああ、そんな話後です! 血を取りましょう!」

「血……? 忘れてた!」


 魔法を使いまくった反動で高熱が出ている。足取りもふらつく中、戦車から放り出されたガラス瓶を探し出す。


「ビンが割れてます」

「もう薬莢でいい」


 注射器も割れていたので、ロイス達は死神の亡骸から血液を肉片ごと採取し、薬莢に移す。


 辺りに夕暮れが訪れていた。


「目的は……達成したな」

「これで治療薬が作れれば、完璧だな」

「あとは帰るだけ、か」

「そうですが……もう限界なので落ちます」


 そう言ってロイスは倒れた。


「ま、待て! 解熱剤を飲んでからにしろ!」

「そ、そうでした……」


 レーネから錠剤を受け取り、水筒の水で流し込む。


 もしかして俺以外はたいして熱が出てないのか?


 そう思った直後、他の三人が倒れる音が聞こえてきた。


 疲れ切っていた四人はテントすら張らず、それぞれ寝袋に入って寄り添うように眠ってしまった。

Tips:燃料気化爆弾(Brennstoff Luft Explosion)

 元々は呪林を破壊するために開発された兵器。爆薬である液体燃料が瞬時に気化して爆発する。関係者の間では頭文字を取ってBLEと呼称される。

 広範囲で連続発生する高温高圧によって燃えにくい菌樹や蟲を融解させつつ吹き飛ばし、小規模の呪林であれば蟲の群れに反撃の機会を与えないまま一掃できると考えられている。

 ただし広範囲へ均等に相変化を発生させる構造が複雑で、現在の技術では小型化できず、大型砲弾か大型爆弾での実用化に留まっている。

 また製造工程が複雑で気軽に使用できるコストでもないため、戦況が逼迫した現状では敵軍へ使用すべきという結論が下された。

 塹壕や市街地のような閉所で使用した場合は燃焼により酸素を消費しつくして窒息死させる他、液体燃料は毒性が強いため高温の化学兵器としても期待できる。

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