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パンツァーヘクセ ~魔法使いが戦車で旅する末期感ファンタジー~  作者: 御佐機帝都
一章 金色の断末魔(Battle of Colony)」
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14 潜入

 雨の降る夜は潜入にうってつけだ。


 ただし、炭鉱街であるベンゲルフは道幅が狭く、場所によっては道路の片側が崖のようになっており慎重を要する。


 前衛を務める兵士が地形を確認しながら進む。


 視界が短い上に雨で足音が消えているのは敵も同じだ。お互いに近付くまで存在を察知できないだろう。


 しばらく歩いていると兵士の一人が大きな音を立てた。水たまりを踏んでしまったのだ。


 暗闇から驚いた声が聞こえる。すぐ近くにミネル兵がいたらしい。


 ロイスも驚き咄嗟に声のした方向に銀製ナイフを向けて魔法を発動する。


 ちらちらと瞬く黒い球体が暗闇を進み、くぐもった悲鳴が聞こえ、人が倒れる音が続いた。


 この事態に複数のミネル兵の声が聞こえた。


 更に、暗闇の中に白い明りが灯る。懐中電灯だ。


 すかさずその光に向けて魔法を放つと、呻き声と倒れる音で命中したことがわかる。


 これにより前方から大声と銃声が聞こえてきた。


 ロイスが発砲炎めがけて魔法を放つと、やはり悲鳴によって命中したことがわかった。


 複数の声と、濡れた地面を走る足音が聞こえてくる。


 こっちの存在はバレた。


 だが、警備が多いということは収容所が近いということ。


 これを機に味方も応戦を始め銃撃戦となった。


 ロイスは移動しつつ懐中電灯をめがけて魔法を放つ。


 更にはウィルが発砲炎を目安に魔法を発動し、隆起した地面によってミネル兵を吹き飛ばした。


 辺りは再び雨音だけが響くようになる。


 やはり接近戦での魔法は強い。


 特に俺の魔法は音も光も殆ど発生しない。


 ロイスの魔法は暗闇に紛れてしまうと自分でも識別は困難で、ちらちらと瞬く光が何とか見える程度だ。


「走れ!」


 こうなっては隠密性より速度が大事だ。


 収容所を目指すロイス達に向かって、周囲から集まってきたミネル兵が発砲してくる。


 高くけたたましい音、ミネル石軍お馴染みの機関短銃だ。


 こちらは一旦伏せ、高所からの半自動小銃による狙撃で動揺を誘い、突撃銃で仕留めていく。


 そして収容所に近づくと、軽機関銃が待ち構えていた。


 銃声からして二挺はある。


 すかさずウィルが魔法を発動。軽機関銃を吹き飛ばして沈黙させた。


 当面の敵を一掃し、夜雨の中を地面と建築物の輪郭を頼りに進む。


 すると目的地は目の前だった。軽機関銃は収容所を見張るために配置されていたらしい。


「ここだな」

「やっとついたな」


 ロイスとウィルはポケットから解熱剤を取り出し口に入れる。


 魔法の連続使用で発熱し気分が悪い。


「ブルーノ軍曹。マルクル曹長。状況報告」

「第一小隊被害無し」

「第二小隊。損失無し」

「よし。ブルーノ軍曹。武装引き渡しの準備をしろ。マルクル曹長は収容所の中へ」


 ロイスに言われ、マルクル曹長は扉の鍵を開ける。


 すると少し軋んだ音がして扉が開いた。


「あんたらは、何だ?」


 ロイス達が中を伺っていると、潜めた声をかけられる。


「ベルカ軍だ。ここの捕虜を解放に来た」

「本当ですか!?」

「ここの人間の協力がいる。リーダーと話がしたい。明かりは点けるなよ」


 見渡してみれば、部屋は暗いものの収容者は皆起きているようだ。


 外であれだけ銃声が聞こえれば当然か。


 あちこちかあら小声の会話が聞こえ、身を乗り出してこちらを確認するような動きも見える。


 一分ほど経ち、一人の男が歩き出てきた。


「私はユルゲン曹長です。捕虜の中では、最も上の階級です」

「曹長。この部屋の窓を布か何かで塞いでくれ」

「わかりました」


 ロイスの声が聞こえたのか捕虜達が速やかに動き、窓に毛布などの布を押し付けて塞いでいく。


 それを確認したロイスは懐中電灯のスイッチを入れた。


 明かりが点くことでこの収容所の様子がわかる。


 建物は、収容所と聞いてイメージする通りの縦に長い間取り。一つ向こうの部屋との繋がりに違和感があるので、おそらくは複数の建物を繋げて作ったのだろう。


 そこにベッドが隙間なく並べられている。


 収容者は全員軍服。階級章などはなく、全体的にやつれているのも収容所らしい。


「お前達の所属は?」

「第二一四擲弾兵師団、第一一九九擲弾兵連隊。この街の防御にあたっていましたが、二週間前に壊滅しました」

「生き残りはこれだけか?」

「もっといましたが、ミネル本国に連れていかれたようです」

「お前達が残された理由は炭鉱か?」

「はい。掘り出していた石炭の仕分けと輸送を行っています。貴方がたの所属は?」

「独立旅団の偵察部隊だ。戦線整理のためこの辺りの友軍に撤退命令が出ているが、貴隊の応答が無いので調査に来た」

「そういうことでしたか」

「遅滞作戦のためミネル石軍にも損害を与えるよう命令を受けている」

「状況は把握しました」

「明朝、俺の所属する部隊がこの街に攻撃を仕掛ける。ここの収容者には陽動を頼みたい」

「遂にここから出られるわけですか」

「今から武器を渡す。ブルーノ軍曹」

「捕虜の方々。武器をお持ちしましたぜ」


 そう言って第二小隊の兵士達は手持ちの武装を収容所の床に置いていく。


「対戦車擲弾筒と機関短銃。合わせても全員分ありませんね。我々が今ここを脱出することも可能ではないですか?」

「可能ではあるが、この街の奪回には内部からの陽動が重要だ」

「それはそうかもしれませんが」

「攻撃開始は明朝。その前に石軍が収容所に来たら信号弾を上げろ。攻撃を開始する」

「武器を隠しておく必要はないわけですか」

「夜明けには砲撃を開始する。俺達には戦車もある。お前達は防衛に展開しようとするミネル兵を妨害してくれればいい」

「砲兵に戦車とは頼もしい」

「街の奪回には充分な戦力だが、捕虜の存在は想定外だった。だから、事前に渡せる武器が少ない」

「それでも我々は幸運な方です」

「武器の不足について、落ちている武器を使う事に軍規上の問題は無い。これは我が部隊の見解だ」


 ロイスが回りくどい言い方をした理由は単純で、ベルカ軍において鹵獲兵器の使用は禁忌とされているからだ。


 大戦前期においては自国の高性能高品質な兵器を潤沢に供給される状況で敵の兵器を使うことは、事故や同士討ちに繋がりかねないという合理的な理由があった。


 しかし戦況が劣勢となり物資の輸送が滞るようになった現状では足枷でしかない。


 この風潮の本質にあるのは貴族の誇りだ。


 別に軍規や軍法で定められているわけではないので、ベルカンの士官であっても平民出身なら部下が鹵獲兵器を使ったとしても見て見ぬふりをするかもしれない。


「鹵獲兵器ですか……。それが友軍の役に立つのであれば。ただ、坑道まで行ってダイナマイトを回収する手もあります」

「それで即席の手投げ弾を作る必要は無い。不足分はミネルの武器で補い、この街を制圧したら捨てれば良い。俺達が倒したミネルの武器も回収して渡しておく」

「了解です」


 この捕虜達にしても鹵獲兵器の使用に対する偏見は無かったかもしれないが、捕虜の戦力化のためには鹵獲兵器の活用が必須なので、言及しておきたかったのだ。


「この街を占領しているミネル軍の司令部がどこにあるかわかるか?」

「ここから東側にある役場を使っているようです。地図がありますので持ってきましょう」


 しばらく待ったロイスは役場の位置に印を付けた地図を入手できた。


「敵の司令部を砲撃し、指揮系統を混乱させて機先を制する」

「それが合図というわけですね」

「そうだ。何か質問はあるか」

「いいえ。再び陛下のために戦えることを喜ばしく思います」


 収容所から出たロイスはしばし周囲に耳を澄ます。


 今のところミネル軍が活動している様子はない。


 伝えるべきことは伝えた。速やかに戻るとしよう。


 ロイス達は、闇夜と雨音に紛れてもと来た道を通る。


 ベンゲルフを出たところで雨が止み、明け方には大きな雲もなくなっていた。


 第二小隊が地図を見ながらロケット発射機を準備する中、レーネが戦車のエンジンを始動する。


「戦車前進」


 ロイス達は攻撃を開始した。

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