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パンツァーヘクセ ~魔法使いが戦車で旅する末期感ファンタジー~  作者: 御佐機帝都
一章 金色の断末魔(Battle of Colony)」
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12 炭鉱街

 森林の縁に陣取ったロイス達は、野営準備の傍ら周辺の様子を伺う。


 大規模な戦闘が起きた痕跡は無いが、今朝のパルチザンといい先程ミネル戦車といい、この辺りがミネル石軍の勢力下にあることは間違いない。


 ベンゲルフもミネル石軍の占領下にあと思われるが、問題はその規模だ。


 もしベンゲルフに敵の大軍が駐屯している場合は撤退もやむを得ない。


 時間がたっぷりあるわけではないが、とにかく慎重に行動すべきだ。


 ロイスは山の稜線に伏せながら、遠方にベンゲルフを望む。


 田舎の炭鉱街だ。産出した石炭を運び出すための線路が東西に通っている。


 詳細はもっと近づいてみないとわからないな。


 そう思ったロイスはブルーノ軍曹を呼び出す。


「ご用命ですか。エンデマルク少尉。」

「第二小隊からベンゲルフ付近まで偵察を出せ」

「ミネル石軍がいるでしょうな」

「適任はいるか?」

「何人かフィールドウォッチングが趣味の奴がいます」

「もしかして元密猟者か?」

「へい。まぁ何かの観察が得意なのは間違いありません」

「敵の数と位置が知りたい」

「了解でさ。それにしても、あの土の魔法も凄いですな。土が操れるなら偵察にはうってつけなのでは?」

「そうでもない。連続使用できないからな」

「なぜです?」

「熱が出る。病原である災菌が活性化するからだ」

「はぁー、良いこと尽くめはないもんですな」

「時間が無い。すぐに行動を開始して、零時に報告しろ」

「了解でさ」


 ブルーノ軍曹と別れた後、ロイスは第一小隊の野営地に向かった。


「エンデマルク少尉。連隊本部から入電。飛行艦二隻、銃砲を搭載し呪林への移動を開始」

「こちらの状況はどう伝えた?」

「ベンゲルフに到着。当該区域はミネル石軍の占領下にあり。現在調査中」

「ミネル石軍撃破のため、列車砲にベンゲルフへの発射準備を依頼。完了次第連絡」

「了解」


 マルクル曹長が返答を聞いてロイスは戦車の元へ戻り、レーネに状況を伝える。


「敵が高射砲を持っている場合、蟲の群れを誘導している飛行艦を守るため破壊しておく必要があります。列車砲を使うことになるかもしれません。ミネル石軍に列車砲の位置を知られる危険と、死神に作戦がバレる可能性があるのでやりたくはないですが」

「同感だな。あくまで奥の手だが、準備しておこう」

「ええ。飛行艦を長時間孤立させたくないので、早ければ明朝にも列車砲を発射するかもしれません」

「判断は任せる。私が許す」

「わかりました」


 戦車の近くでは、ミラが昼食の準備をしていた。


 すり潰したジャガイモと刻んだ玉ねぎ、人参、缶詰のベーコンを鍋に入れ、ブイヨンと塩コショウで味を調える。


 じゃがいものポタージュだ。


 スープができ上がる頃、ウィルが起きだしてくる。


「いい匂いがするな」

「体調は戻ったか?」

「ああ。腹が減ってきた」


 ロイス達は三脚に吊るした鍋の側に防水シートを敷いて座る。


 ミラはウィルの飯盒にはニンジンを入れないよう取り分けていた。


 昼食の後、ロイスは戦車の整備をすることにした。


 まずはクリーニングロッドで砲身内部の煤を取り除く。異物がこびり付いていると腔発の原因になるため、清掃は欠かせない。


 次に、履帯の張り具合を確認する。


 履帯は一枚一枚をピンによって接続して一体物としているが、戦車が走り続けるとこの接続部が磨耗してくる。そうなるとピンが通っている部分の隙間が大きくなり、それが履帯全長の伸びとなって現われてくる。


 当然履帯が外れやすくなっている状態であるため、調整が必要だ。


「ウィル。誘導輪の調整手伝ってくれ」

「誘導輪の調整?」

「履帯がたるんできたからな。誘導輪を動かして調節するんだ」

「誘導輪ってどっちだっけ」

「リゼルは後輪駆動だから、誘導輪は前側」

「こっちね。で、どうするんだ?」

「誘導輪を固定しているボルトをレンチで緩める」


 ロイスはレンチをナットに引っ掛けると、ハンマーをウィルに手渡した。


「思いっきり叩いていいぞ」

「あいよ」


 そう言ってウィルはハンマーを思いっきり叩きつける。


 金属音が響き、レンチが地面に落ちる。


 その際に、ナットが半時計周りに動いたのが見えた。


「よし。あとはゆっくり緩めていく」


 ボルトが緩んだところで、誘導輪を前側に動かし、再びレンチを取り付けて時計回りに回す。


 最後にウィルが思いっきりハンマーでレンチを叩き、ボルトを限界まで締めて固定する。


「これを反対側もやるわけか」

「ああ。履帯が大して伸びてなくてよかった。誘導輪の位置で調整できなかったら一度履帯を外さないといけないからな」

「枚数を減らすのか?」

「そういうことだ」

「減らしても長かったら?」

「全交換になる」


 戦車の整備を終えると流石に疲労を覚えたため、ロイスは上半身をテントに入れて横になる。


 しかし寝付いてからさして時間も経たないうちに、雨が降ってきてしまった。


 水滴に手や脚を叩かれて目を覚ますと、黒い雲が頭上を覆っている。


 戦車の近くまで戻ったロイスはウィルに声をかけた。


「ウィル。防水シート」

「あいよ」


 ウィルが車体後面下部の牽引フックに括り付けられた防水シートを取ってくる間、ロイスは運転手ハッチを開ける。


「陛下――」


 中ではレーネが煙管をふかしていた。


 ロイスは何も言わずにハッチを閉じると、砲塔に登って中に入り、ベンチレーターを回す。


「ロイス! いきなり開けるな!」

「陛下それ今日三本目ですよね。控えてください」

「今日は休憩の日だろうが」

「せめてハッチは開けてくださいよ。匂いがこもります。……雨が降ってきたので防水シートを被せますよ」

「はぁー、わかった」


 どちらかというとため息はこちらがつきたいところだったが、我慢する。


 戦車の上から防水シートを被せ、風で飛ばないよう石を乗せておく。


 その間にレーネは操縦席から出ていったので、代わりにロイスが操縦席で仮眠した。


 夕方になり、ロイスが起きると他の三人はテントの中で焚火を見つめていた。


 パップテントの強みは、雨天であっても片側の幕を跳ね上げてタープ形式にすればその下で焚火ができることだ。


「少し雨脚が弱まってきたな」


 近付いてきたロイスにレーネが言う。


「ええ。しかし晴れそうな気配はありませんね」

「今のうちに薪を集めてきます」

「俺も行こう。ウィルは水を汲んできてくれ」

「あいよ」


 簡単な夕食を済ませた後、レーネとミラ、ウィルは睡眠に入る。


 寝られる時に寝ておくのが軍隊生活の常識だ。


 昼のうちに仮眠していたロイスはツェルトを被り、稜線越しに炭鉱街の様子を伺う。


 渓谷沿いの建物に明かりが灯っている事から敵軍が駐屯している事はわかるが、人数は推定できない。


 やはり詳細は偵察からの報告を待つしかない。


 戦車に戻ったロイスは砲塔の中に入り、まんじりともせずベンゲルフの地図を眺めていた。


 午前零時、予定通り戻った偵察員とブルーノ曹長を連れ、ロイスは第一小隊の野営地に向かう。


「状況を報告しろ曹長」

「ベンゲルフはミネル石軍の占領下にあります。兵力は多くて五百程度。その他戦車が最低三両います」

「T-40か?」

「いいえ。戦車砲が二つ付いてるやつです」

「右側にでかい大砲がついていたか?」

「そのようです。こっちから見て右側には砲塔が載っているとのこと」

槍騎兵ウーランだな」

「槍騎兵とは。突き出た主砲が槍ですか」

「そうだ」

「手強いんで?」

「装甲は厚いが鈍重だ。ウーランは砲兵科所属のはずだから、砲兵がいるな。敵の規模は一個大隊と推定する」


 ミネル石軍は歩兵中隊に砲兵や戦車を付属した諸兵科連合大隊を編成することがある。


 主な役割は機動力を重視した威力偵察や辺境拠点の防衛。今回は後者だろう。


 兵力が五百程度という情報とも一致する。


「高射砲陣地は?」

「見当たりませんでした」

「そうか。大隊規模であれば持っていないだろう」


 高射砲は師団レベルでの運用になるため、存在しないと考えるのが妥当だ。


 相手が一個大隊と想定すると、兵力差は約五倍となる。


 こちらの武装も考慮すると、戦わず伝激染に巻き込んでしまった方が得策だろう。


「石軍の様子はどうだ?」

「あまり警戒している様子はありませんな。割と奥まで入り込めたようです」

「辺境の街だからな。主戦場からも遠い」

「友軍の捕虜がいるので、その監視を重視しているのかもしれませんぜ」

「なに!?」

「同胞が街の建物に収容されています。炭鉱での労働に使われているようで、夕方に収容所に戻ってくるのを見たと」

「何という事だ! 最悪だぞ!」

「ええ。救出してやらんといけませんな」

「死神を誘き出すなら必須だ。捕虜の様子は?」

「捕虜は炭鉱で労働し、夜は収容所にいると思われます。半日の偵察では詳細はわかりませんが」

「もう一日様子を見ている時間は無い。既に飛行艦は伝激染の準備をしている。俺は陛下にご意見を伺いに行く。各小隊は全員起床。戦闘準備」

「了解」


 そう言い残しロイスは天幕から出た。

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