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ジェームズ・王という男

 一連の成り行きから、ポーカー大会が済むまで、巽は王のホテルに一緒に泊ることになった。これは不幸中の幸いと言うべきか、一難去ってまた一難と言うべきか。

 巽は王の服を借りて着ていた。着替えは全て焼けてしまったし、先ほどの現場検証で一張羅は汚れてしまったからだ。カンフーの練習着みたいな服は元々ゆったりした作りの所為か、王より一回り小さい巽にはぶかぶかだった。

 命を狙われているかも知れない、等と王が言い出したものだから、総支配人は気弱になったらしく、巽に大会が終るまで部屋でおとなしくしているように言った。ホテルの被害も予想外に少なかった事もあって、ポーカー大会は予定通り明日開幕されるらしい。

 結局、王には助けられたのだ。それが彼の意思かどうかはともかく、夕べあのまま向こうのホテルに予定通り泊っていたら、今ごろ巽は丸焼けになっていたに違いない。結果的にはここに泊ったことは正解だったのだ。

 これも星の巡りというものだろうか。

 占を生業とする家に生まれた所為か、巽は良くこういう言い回しをする。神の思し召し、と同じ様な意味合いに当たる。だが、そういえば王もこんな言い回しをしていた。見た目は如何にもキリスト教圏の生まれのような顔をしている癖に。

 母親が華僑だと言っていたから、その影響なのかも知れない。

「はぁぁ……」

 トランプの一人遊びにもいい加減飽きて、巽はつまらなそうにため息を吐いた。そこへ漸く、買い物に出ていた王が帰って来た。巽の着替えを調達していたのだ。だが、王は何故か服の代わりに男を連れて来た。

仕立て屋(テイラー)だ」

 彼の言葉に、巽は唖然とした。どうして服を買いに出て仕立て屋の親爺を連れて来るのだ。いや、方向性は間違ってはいないが、急遽着替えの服が欲しいというのに、今から採寸をしてどうするのだ。

 しかし呆気にとられる巽を他所に、仕立て屋は持って来た機具を組立て始めた。フラフープみたいな輪っかに細いポールを何本か通して、ポールが垂直になるように円盤上に立てる。貧弱な円柱を思わせるその機械が、採寸装置なのだ。

「服を着たままで結構ですよ」

 仕立て屋はそう言って、巽に円柱の中に入るよう促した。有機体にのみ反応するというスキャナーで、巽の肢体がミクロン単位で採寸されていく。誤差が無い様に何度か計測してから、今度はデザインの打ち合わせをする。

 仕立て屋の持って来た端末を覗き込みながら細かく注文を付けて、契約を交し、スキャナーを片付けてそれでは、と仕立て屋が帰っていくまで、三十分と掛からなかった。

 しかもその間、王はといえば、ホームバーのミニキッチンで湯を沸かし、お茶を煎れて優雅に寛いでる始末である。

 高そうな白磁の茶器を手にソファで寛いでいる王を見ながら、巽は不満げに呼びかけた。

「ちょっと、銀月?」

「ん? ああ、お茶にするかい。金木犀のお茶だけど、砂糖は入れる?」

「うん。――って、そうじゃなくって。服を買いに行ってくれたんじゃなかったの?」

「そうだよ。だから仕立て屋を連れて来たじゃないか」

「だからって、今更注文して、いつ出来上がるって言うのさ?」

「半日もすれば出来上がるさ」

 王は事も無げに言って、茶を入れたカップとシュガーポットを差し出した。金木犀の香りが漂っている。巽は砂糖を何杯も入れて、それを一気に飲み干した。

「それじゃあやっつけ仕事なんじゃないのか?」

「そんな事は無いだろう。全て手縫いと言う訳にはいかないだろうけど、一流の職人を揃えているんだから、そこいらの既製服(プレタポルテ)より質が劣るという事は無いさ」

 おかわりを出してやると、またも巽は何杯も砂糖を入れ始めた。王はその様子を驚いたように見つめながら、甘くないのか? と呟いた。

「そういえば銀月って、何者なの?」

 甘いよ、と答えてから、巽はそう疑問を口にした。

 そういえば何も聞いていない。

「何者って?」

「仕事とか、何してるの?」

「仕事……かぁ、そうだなぁ……」

 何故、簡単に答えられないのだろう。

 彼は暫く視線を宙に彷徨わせてから、徐に口を開いた。

「主な収入は、株……とか、不動産……とか、かな。このホテルも株主だし」

「株主!」

 巽は大きな瞳を更に大きく見開いて驚いた。思わず声が大きくなってしまう。

「そう、ホテルグループの。筆頭株主だから、オーナーって事になるのかな?」

「はぁ~~そうなんだぁ。それでこんな部屋に泊ってるんだな?」

「いや、そういう訳じゃない。他にキッチンの付いている部屋が無かったものでね」

「キッチンって、普通こういうホテルには付いて無いんじゃないの? 自炊するの?」

 そういえば今も王は自分で茶を煎れていた。何かこだわりでもあるのだろうか。

「自炊と言う程でもないけど。まぁ、この部屋はホームパーティー位開けるように、バーとキッチンが誂えてあるんだよ。お望みとあれば、何かこしらえるけど? どうせ外に出られないのだし」

 そう言って王は身を乗り出してにっこり笑った。


サブタイトル悩みますね。

ムーンライトノベルズの方にも同じタイトルの同じ話があります。思うところがありまして、いづれあっちに移動しようと思っていますが、完結するまではこちらにも連載します。ムーンの方も、何卒よろしくお願いします。m(_ _)m


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