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火災現場で

 出火場所は巽が泊る予定だった部屋の、それもドア付近だった。真っ黒に炭化した入り口から部屋に入ると絶景が拝めた。消火ロボットが侵入する為に、窓といわず外壁といわず粉砕した結果、かなり見晴らしが良くなっている。

「うひゃぁ」

 巽が変な声を上げながら、消火剤でドロドロになった不安定な足場をおっかなびっくり進んでいく。カジノシティーの総支配人と、ホテルの責任者に続いて、成り行きで付き合わされている王が部屋の中へと入った。 消防士に促され、金庫を確認している巽が目に入る。

 貴重品を仕舞っておく為、各部屋に常備されている金庫は耐火、耐震機能付。表面は黒ずんで形も歪になってはいたが、中の物はどうやら無事だったようだ。

 巽は用意されたシートの上に品物を並べていった。一万クレジットの上限いっぱいに溜まったマネーカードが何十枚か束になったものと、ヴェルベットの箱が二つ。中には小ぶりながら細工の素晴しい宝飾品が数点、どれも無事なようだ。携帯端末やIDカード、パスポート等は持ち歩いていたので問題は無い。

「全部揃っています。間違いありません」

 良く通る声が答えると、支配人コンビがほっと胸を撫で下ろすのが傍目にも判った。

 恐らく損害賠償が相当な額になると恐々としていたのだろう。だが貴重品は辛うじて残ったものの、クローゼットにあった巽の服は全て燃えてしまった。ホテルの支配人は平身低頭しながら、服の弁償と代わりの部屋の用意をすると言った。

「いいえ、そんなに気を遣わないで下さい。こちらは大した損害は無かったのだし。それよりホテルの方が大変でしょう。他のお客様は皆無事なんですか?」

 巽は支配人達を気遣うようにそう言って、王から借りたバッグに貴重品を仕舞った。支配人はしきりに汗を拭きながら答えた。

「ええ。この階にお泊りだったのは巽様だけでしたし、上の――最上階のペントハウスも幸い空室でしたもので。下の階のお客様方は皆様ご無事で。軽い怪我をなさった方が数名いらっしゃる程度でした」

「これだけの規模の火災では珍しい位少ない被害で済んでいますよ。ホテル側の対応が早かったお陰でしょう」

 消防士が感心したようにそう言った。

「ちょっと待て」

 皆が何となく和やかムードでよかった、よかったなんて言っているところに王が水を差す。

「確か原因は放火らしい、と聞きましたが」

「ええ、ドア付近が異常に焼けていて、火薬の燃え残りが見つかったそうです。今、警察が調べているみたいですね」

 総支配人は顎髭を撫でつけながら答えた。

「この階には、幸星しか泊り客はいなかった。という事は、犯人は無差別の愉快犯でない限り、彼の命を狙った可能性もありますね」

 王の言は尤もだ。だが支配人二人は面喰らったような顔をしている。今までその可能性に思い当たらなかったらしい。巽が? どうして? と口々に言い、顔を見合わせている。二人を無視して王は巽に向き直った。

「何か心当たりは無いのか?」

 巽は大きな黒い瞳を宙に彷徨わせながら、さぁ、と呟いた。

「恨みを買うとしたら……例えば夕べのいかさま騒ぎオヤジ、とか? じゃなかったら、俺の持ってる宝石が欲しかったけど、盗れなくって頭にきた強盗、とか?」

「いや……それはどっちも弱いなぁ」

 王は腕組みをしながら呟いた。

「まぁ、そういう事は警察に任せて、とにかく無事だったのだし、良しとしましょうよ」

 総支配人が言い、捜査の邪魔になってもいけない、と四人は現場を後にした。


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