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初めての敗北

「ありがとう。助かったよ」

 いかさま騒ぎの後、巽はすぐにディーラーを交代して、カジノ内のバーで休憩を取っていた。そこに先程のロイヤルフラッシュの青年が現われた。

「いいえ、当然の事ですから」

「ファジーネーブルかい?」

「は?」

 男が一瞬何を言っているのか判らず、ぽかんと見上げてしまう。男と目が合って、更めて彼が類まれな美貌の持ち主であると分かる。

 男はにっこりと笑いながら、とんとん、とテーブルを指で叩いた。そこには巽の飲みかけのグラスがあった。

「ああ、これ。オレンジジュースですよ」

 ファジーネーブルとはカクテルの名前なのだ。

「ああ、まだ勤務中なのかい?」

「いいえ、今日はもう。単にお酒が弱いだけで」

「そうなんだ。可愛らしいね」

「えっ、そう?」

 女系家族で育ったせいか、巽は可愛いと言われると喜ぶ変な癖があった。

「そう言えばミスター、お名前は?」

「ジェームズ。ジェームズ・(ウォン)。君は……タツミ・コーセー、だね?」

「私を御存知でしたか。何処かでお会いしましたか?」

「いいや。君はたぶん知らないよ。以前マカオで君を見掛けてね。――ああ、ヨシノを頼むよ」

 王はバーテンに注文してから、また話を戻した。

「こう言ってはなんだけど、マカオのディーラーには珍しく紳士的で上品なディーラーがいてね。それが君だよ。一目惚れでね。――今は東京に?」

「ええ、ポーカー大会があるので。貴方も出場するんですか?」

「ポーカー大会? ああ、そう言えばポスターが張ってあったな」

 吉野を飲みながら、思い出した様に言う。彼は大会の参加者では無かったようだ。

「御存知無かったんですか?」

「うん。あまり興味が無いからね」

 ウォッカにグリーンティーリキュールを合わせた吉野は日本独特のカクテルである。ショートグラスの底に揺らめく塩漬けの桜の花を眺めながら、王は囁くように言った。

「私が興味があるのはタツミ、君だけだよ」

「はぁ? ……あのーそれって、変な意味ではなくて。ですよね?」

 若干の牽制も交えてそう言ったつもりだったのだが、彼はしれっとして、言ったものだ。

「変な意味でもいいよ」

「はい?」

「言ったろう。一目惚れだって」

 巽は一瞬倒れそうになったのが自分でも判った。

 つまり、この男は、ジェームズ・(ウォン)は始めからそのつもりで巽に声をかけたのだ。いかさまの嫌疑を晴らしてやった礼を言いに来たのではなかったのだ。尤も今までの一連の会話で気が付かなかった巽もやや鈍いと言えるだろうが。

「私と賭けをしないか?」

 青い瞳が意味ありげな流し目をくれてよこす。

「私が君に勝ったら、私の恋人になってくれ」

「はぁ?!」

 巽は思わず素頓狂な声を上げてしまう。夜も遅いことであり、バーテンがちらりと振り向いただけで済んだのは幸いだったと言えよう。

「じゃあもし、俺が勝ったら?」

「一万クレジット払うよ。どうだい?」

 賭けを挑まれて断るのは勝負師としては本意ではない。巽は少し考えてから、OKを出した。

「俺に負けたら、すっぱり諦めてくれるんだな?」

「ああ……仕方がない。それも星の巡りというものだ」

 そう言いながらもにやりと笑って見せる。何処か悪戯っぽい微笑みに、巽も自信ありげな笑みを返す。

「勝負は何でつける? カード、ルーレット、手っ取り早くコイントスってのもあるけど?」

「ポーカーはどうだい? 一回勝負のドロウポーカーは?」

「いいでしょう。では、テーブルへ」

 巽はジュースを飲み干すと、立ち上がってポーカーテーブルを指差した。Goodを示すように親指を立てて。



 総支配人に個人的な勝負である事の了解を得て、巽と王はポーカーテーブルに着いた。一応、総支配人が立会人となり、巽がシャッフルしたカードを王がカットして、伏せたカードを五枚ずつ宛配る。

 セブンスタッドと違い、ドロウポーカーは最も良く知られたルールのポーカーである。配られた五枚のカードの内、任意の枚数を一度だけ交換できる。

 巽は二枚交換し、王は四枚を交換した。

 既にお互いの賭ける物は決まっているので、ベッティングラウンドは省略する。

「ショウダウン。AとKのフルハウス」

 巽が宣言して、自分の手役を公開する。支配人がおお、と感嘆し、王はため息まじりの微笑みを漏らした。彼の手役が公開される。

「Qのフォーカード」

 フルハウスより上の手だ。

「うそだろ……」

 巽は思わず苦しげな声を漏らした。大きな勝負で負けたのは、これが初めてだった。しかも、よりによって自分の貞操がかかっているゲームで負けるとは。

「ミ、ミスター・ウォンの勝ち!」

 総支配人は、やや興奮気味にそう宣言した。負け知らずの巽幸星が負かされる所など滅多に見られるものではない。とでも思っているようだった。

 王は勝者の余裕でにっこりと微笑んだ。

「私の勝ちだ。約束は守ってくれるね」

「ああ。俺も勝負師の端くれだからね……」

 がっくりと肩を落とした巽は、そう言って深く長いため息をついた。








やっとジェームズが喋ってます(笑)


週一とか言いながら、何週間も経ってしまいました。( ̄д ̄;)

次回はもうちょい早めに上げたいです……(T_T)


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