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幸運の女神は潔い者に微笑む


 その日の夜、巽はポーカーのテーブルに立った。

 本番を前に、少し腕を慣らしておきたいのだと彼は言った。

 夜も更けて遅い時間でもあり、カジノにいる客達は常連や、ポーカー大会に出場するために早々と現地入りしている連中が殆どだった。巽もテーブルに着くまでに、何人かの顔見知りに声をかけられる。彼がディーラーを務めると知って、何人かが早速席を移した。

 楕円形のテーブルの中央、少し窪んだ位置にディーラーが立つと、早速ポットと呼ばれるテーブルの真ん中にアンティ(ゲームの参加料)が支払われる。

 セブンカードスタッドと呼ばれる、多くのカジノで扱われているポーカーのルールは、一組のトランプのジョーカーを除いた五十二枚のカードを使い、七枚づつ宛配る。

 まず始めに各プレイヤーに二枚目迄のホールカード(伏せ札)と三枚目のアップカード(表向きの札)が配られた。計った様にプレイヤーの手元でぴたりと止まり、綺麗に揃う。彼等は各々のホールカードを確認し、最初のベッティングラウンドに挑む。三枚目のオープンカードを比較して、最も順位の低いカードのプレイヤーがオープナーと呼ばれ、テーブルに掲示されているミニマム賭金を支払う。

今回のオープナーは恰幅の良い紳士だった。

 他のプレイヤーは順次同額の賭金を支払う『コール』か、更に賭金の額を引き上げる『レイズ』を選択するか、又は今回の勝負を放棄する『フォールド』を宣言する。

 紳士の隣に座った妙齢の夫人が早速レイズしたので、他のプレイヤーは夫人と同額を支払わなければならない。一人がゲームを降り、一人が更にレイズする。二巡三巡して、降りたプレイヤー以外の参加者が全員同じ賭金になるよう調整された所で、四枚目のカードが、アップカードで配られた。今度は表になっている二枚のカードの役か数位が高い者がオープナーとなる。

 こうして五枚目、六枚目とアップカードが配られ、その都度プレイヤーの駆け引きが行われる。表になった四枚のカードは他のプレイヤーにも見えているのでそこから相手の手札を予測し、勝負を賭けるかどうか決めていく。

 セブンカードスタッドルールでは、あまり低い手役でのはったりは通用しないのが特徴だ。

 そして最後に、ここまで残った勝負師達に最後のカードが伏せて宛配られ、最後の駆け引きが行われる。

 眼鏡の男がオープンベットし、ブロンドの女がレイズすると、一人が降りて、男女二人の勝負になった。

 眼鏡の男が女と同額になるようコールしたところで、澄んだ良く通る声が高らかに宣言する。

「ショウダウン」

 勝負を賭けた女の手札が開示される。持ち札七枚のうち、五枚を選び手役を作る。女の手役はクィーンとジャックのフルハウス。眼鏡の男は肩をすくめて見せ、持ち札をテーブル中央に押し出した。手役が低かったのだろう。これで負けが宣言されたことになり、女の勝ちが決まった。

「ユー・ウィン!」

 ディーラーはブロンドの女性の勝利を宣し、ポットの賭け金全てを計算して、コミッション――カジノ側の取り分(サービス料)――を差し引いたチップを勝者に引き渡す。

 こうして一ゲームが終了し、新たにカードがシャッフルされるとまた次のゲームが始まるという訳だ。

 ポーカーは駆け引きのゲームである。ブラックジャックやルーレットの様な、客対カジノ側という勝負ではなく、客同士の戦いであり、いかに相手に多くチップを出させて勝つか、が腕の見せ所だ。そして、ブラッフといわれるはったりをかますことで、相手にプレッシャーをかけて、自分の手役が弱くても勝つという場合がある。

 尤も、セブンカードスタッドでは相手の手役もある程度読めてしまうので、過度のブラッフは大損の元になる。

 何ゲームかしてブラッフ好きの若い男が、遂にチップを全て失った。彼の去った後に新たに参加した男に、ギャラリー達は一斉に感嘆の声を漏らした。

 男は目にも鮮やかな刺繍を施した、中国服らしき衣装を身に纏い、髪はプラチナ色、瞳はさわやかな秋の空の様なブルー。という、東洋と西洋のいいとこ取りといった趣の若者だった。ふと目が合った巽に軽くウィンクする様も道にいっている。

 ――かなり遊んでるな。

 巽はそんな印象を受けたが、勿論顔には出さず微笑を返して、すぐに仕事に戻る。

「アンティ・アップ」

 巽の通りの良い声と共にゲームが再開された。

 中国服の男は、かなり腕のいいポーカープレイヤーのようで、勝負に出るときは必ずと言って良い程勝ちを収め、手役が来そうに無い時は早々にゲームを降りてしまう。十ゲーム程したところで、既に男の前には高額のチップが積まれていた。

 そろそろ深夜になるという時間でも、客は跡絶えるどころか巽の立つテーブルにどんどん集まってくる。強いプレイヤーがいるというので、ポーカー大会の参加者達も偵察に来たのだろう。

 遂に最終ベッティングラウンドに来て、男のオープンカードはハートの8、J、Q、K、と出ている。もしホールカードにハートがあればフラッシュ。10、9とあればストレートの可能性もある。対抗する小太りの紳士は、既にJのスリーカードが見えている。もしワンペアが隠れていればフルハウスだ。

 紳士は男がブラッフを仕掛けていると踏んで、最後の勝負に出たのか、手持ちのチップを全て出してレイズする。男も勝負に乗り、ショウダウンの時間が来た。

 レイズの紳士は、JとQのフルハウスだった。ところが、男のカードには、ハートの10とAが隠れていたのである。

「ロイヤルストレートフラッシュ」

 落ちついた柔らかな声で男はそう宣言した。ポーカーの中で最も長い名前の、最も強い手役の宣言は、数多くのプレイヤーが一度はしてみたいと夢に見る代物である。

 テーブルがどよめきと感嘆の声に包まれた。

「いかさまだ!」

 突然小太りの紳士が激高し立ち上がる。

「ロイヤルストレートフラッシュなんて、そう簡単に出来るものか! きっとカードをすり替えたんだ」

 言われた男は呆れた様子で肩をすくめて見せるだけ。仕方無く巽がその場を引き取る。

「では、全てのカードをチェックしましょう。もしすり替えが本当にあったなら、重複するカードがある筈ですから」

 勿論、いかさまなど無いと判っていたが、巽は紳士を納得させる為にこのゲームで使ったカード一組を、綺麗にテーブルの上に並べて見せた。

「重複するカードはありません。こちらのお客様は、全くの幸運によって、ロイヤルフラッシュになったということです。ご納得いただけますか?」

 だがまだ何か言いたそうな紳士に、巽はにこやかに微笑んで、更に付け加える。

「幸運の女神は潔い者に微笑むもの、今日のところはお引き取りください」

 紳士はこれ以上食い下がることが出来なかったのか、無言のまま去ってしまった。





やっと相方が出てきました。

名前まだ出てませんけど。それは次回てことで。( ̄▽ ̄;)


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