表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/13

拉致・監禁・救出



 ……幸星。

 頭の中で声がする。いや、遠くで、か。それともすごく近いのか。

「……幸星、幸ちゃん」

 体を揺すられて、巽は漸く目を覚ました。

「んん、とーさま……?」

「幸ちゃん、起きた?」

 背後から声をかけられ、振り向こうとして動けない事に気付いた。見れば誰かと背中合わせにして、手足を縄で縛られている。

 背後にいるのは、声からして父親だろう。同じく囚われの身に違いない。

「あれ、俺、どうしたのかな?」

 ぐるりと首を巡らせると、見覚えのある部屋だった。黒い壁は焼け焦げ、高層階にも拘わらず、窓も壁もない拭き晒しの部屋。先日の火災現場ではないか。そこかしこに立ち入り禁止の黄色いテープが張り巡らされている。巽親子がいるのは、かつて寝室だった場所だ。

 部屋の向こう、ドアがあった辺りに、知った顔がいた。

 髭面は情けない声でこう言った。

「すみません、巽。貴方達の命を守るためには、仕方なかったのです。許してください」

「総支配人、どういう事なんですか?」

「あの人達は賞金が欲しいだけなんです。それと、指輪を」

 総支配人はおろおろしながらそれだけ言い、逃げるように何処かへ行ってしまった。

「なんだか良く判らないねぇ?」

 巽の父はのんびりと感想を口にした。

「見張りはいるのかな?」

「さっき、二人見たよ。出入り口の方にいるんじゃない?」

 張り巡らされたテープが死角になっていて、その姿は確認出来なかった。

「窓から出れるかなぁ?」

 息子の問いに、父は首を伸ばして窓の方を見た。壁も窓も壊され、ベランダもない。地上三十階の絶壁では、逃げられよう筈もないだろう。

「うーん、飛び降りてみる?」

 本気か? 親父。

 その時、ひらりと何かが上から降ってきた。

 何か、白っぽい塊に見えたそれは、音もなく滑るように、部屋の中へと入り込み、人の形をとった。

 絹糸のような艶やかな髪。白地に白い糸で龍の刺繍が施された裾の長い中国服を身に着けた、青い目の美貌の青年。

「ジェミーちゃん!」

 やっぱり、ちゃん付けはやめて欲しかった。

「シーッ」

 王は苦笑いを浮かべ、指を唇に当てて静かにするよう二人に促した。

「二人とも、怪我は?」

「ううん、平気」

 小刀で縄を切って、二人を解放し、窓の傍まで招く。遥か下の方に、人や車が小さく動いているのが見えた。

「降りるの?」

「いや、昇るんだ」

 そう言うと、王は巽親子を両脇に抱え上げ、ふっと外へ飛び出した。

 何処にも支えが見当たらないのに、三人は空中に浮いていた。

 まるで見えない風船の中にでもいるみたいに、ふわり、ふわり、と空へ昇っていく。

 黄色いテープの波の向こうで、誰かが何か叫んだのが小さく聞こえた。

 あっという間に屋上に着いた。途端に、重力を感じて巽はよろめいた。

「銀月、あんた、一体……?」

 聞きたい事は山ほどあるのだ。

“月”(ムーン)だね。ジェームズ」

 巽の父は訳知り顔でそう言った。王はふっと微笑してみせる。

「ええ、貴方がたを守る為に来ました」

「ムーンて、何?」

 一人置いてけぼりをくった巽は、不満そうな顔をしている。

「後で説明する。少し離れていて」

 目線は既に、屋上に続く階段のドアに固定されている。危険を察知したのか、父は子を庇うようにして、排気ダクトの裏に隠れた。

 すぐに荒っぽくドアが開かれ、数人の男達が走り出て来た。原色に近い、派手なスーツやシャツを着て、サングラスで顔を隠した、いかにも、な連中だ。

「やぁ、いらっしゃい」

 王はにこやかに両手を広げてみせた。

「なんだ、お前は?」

「こいつ、人質を何処にやった?!」

 すぐに銃を構える所は、多少訓練された者の動きだ。だが、そこに既に標的はいなかった。

「上だ!」

 言われて振り仰いだ男の顔面に蹴りを入れ、一斉に上に向けられた銃を一旋で蹴り落とし、ムーン・ソルトでぴたりと着地する。

「このやろう!」

 手首や顔面を押さえていた男達が、次の瞬間一斉に襲いかかった。

 攻撃を紙一重で除けながら、弧を描くようにして手刀を繰り出す。

 まるで優雅にダンスを踊っているかのように。流れる水の如く、時に滑らかに、時に力強く。

 ものの数秒で男達はその場に倒れてしまった。

 王は、素早く階段に続くドアを開けて、巽達を手招いた。

「幸星。早く会場に行って、いつも通りディールするんだ。お父様は支配人を捕まえて下さい。彼は何かを知っているようですから」

「判った。君は?」

「彼等を連れて警察に。さ、早く」

 促されるままに、二人は階段を降り、会場へと向かった。

「さて、と」

 二人が無事にエレベーターに乗り込んだのを、透視()届けてから、王は警察へ連絡する為、携帯を取り出した。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ