ポーカー大会
翌日、ポーカー大会が、無事に開幕した。
昨日の哀れな賊は、取り調べの真っ最中だが、黙秘を続けているらしい。――と、言うよりあまりの恐怖に言葉を失ってしまったようだった。傍から見ると滑稽でも、本人達は余程恐ろしかったと見える。
大会の会場となったカジノシティーの大ホールには、二百人からなる大会参加者と、それを上回る見物人とでひしめいていた。
大会は三日間をかけて行われる。参加者は二十五Gのチップ代と、一Gの参加費を払って勝負に望む。
それぞれ、四、五人一組でテーブルに着き、ゲームを繰り広げ、手持ちのチップが無くなった者から抜けて行って、最後まで残った者が優勝ということになる。
優勝者には、ゲームで稼いだチップ全額は勿論、賞金として一千G、副賞には幸運を呼ぶと言われるファイア・オパールの指輪が贈られる。
巽は三日目の最終戦まで出番が無いので、見学者に混じって観戦する事にした。
「幸星、あれ」
同じ様に見学していた王が、そう言って目線を流した。その先には、先日王をいかさま呼ばわりした男が笑っていた。結構勝っているらしい。
大会ルールは、ジャックポットと呼ばれる、ドロウポーカーの一つで、最初に賭けるオープナーは、ジャックのワン・ペア以上の手役を持っていなければいけない。誰もそれに該当しなかった場合には試合は流れるが、賭けてあるアンティはそのまま持ち越されるので、何度も流れるとそれだけでチップが溜まってくる。
かなり溜まってから勝つのが、おいしいやり方だ。
一戦終えた後、休憩時間に王は先日の男に声をかけられた。一足先に行った巽を追って、レストラン街に移動する所だった。
「先日は失礼しました、ミスター。貴方は参加なさらなかった ようですね。まさか先日私が誤解したことを気に病んでいる訳ではありますまい?」
小太りの男はそう言ってにやついた。
「いいえ、そんなことはありませんよ」
王はすっと目を細め、微笑みの形に口元を歪めた。
艶冶な流し目とはこれだ、と言わんばかりの形相だ。わざとやっている。
顔を赤らめて、慌てて目を逸らした男に
「どうぞ、お気になさらずに」
と、優雅に会釈をしてその場を後にした。
俯く男が勝ち誇った笑いを漏らしたこと等、気にも留めなかった。
二日間の予選を勝ち抜いて、最終日の決勝戦に残ったのは三人。ブロンドの巻毛が印象的な美人と、白髪白髭の紳士。そして、例のいかさま騒ぎ親爺も意外な健闘をみせた。
そして最終日。
最終決戦のディーラーを務めるべく、巽は早めに楽屋入りを済ませた。既にディーラー達や、運営スタッフが準備に忙しく働いている。
総支配人が、巽達を見つけて慌てて走り寄った。ただ事ではない様子だった。
「大変です、巽! 幸星さんが、お父様がどこにもいないんです!」
「父さまが?」
最終日には、表彰式で優勝者へ賞品を授与するため、プレゼンターである巽の父は、先にこちらへ来ている筈だった。
「総支配人と打ち合わせがあるからって、先に出たんですけど」
「ええ。こちらにいらしたのは判っています。その後何処かへ消えてしまったんです!」
「落ち着いて、支配人」
傍らで聞いていた王がそう宥めてから
「私が捜してきましょう」
と、何故か天井の隅を睨みながら言った。
「ああ、ミスター・ウォン。そうして貰えると助かります。色々面倒をおかけしてしまって、申し訳無い」
「いいえ、いいんですよ。表彰式までに戻ればいいですね?」
言いながら、まだ天井を睨んでいる。一体何があるというのだろう。
「それから、ブルックボンド男爵もまだいらしていないので……」
「ああ、それなら心配いりません。……幸星はここにいて」
ついて行こうとする巽を留め置いて、王は人ごみの中へと消えてしまった。
「ブルックボンドって? 最終プレイヤーの一人ですか?」
「いいえ、主催者の一人ですよ。一千Gの賞金を提供して下さった、スポンサーです」
そうですか、と頷きながら、巽は気になって天井を見上げたが、やっぱり何もなかった。
「巽。ちょっとお話が」
総支配人は言いながら巽を控室へと招き入れた。
部屋に入った途端、何かがおかしかった。
いやに天井が高い。
いや、床が近い。しかも冷たい。
そして、段々と暗く重くなっていく頭の隅で、自分は倒れたんだな、と巽はぼんやりと思っていた。