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観覧車の商談

同人誌でずっと書いているシリーズのエピソード的には最初の話。


週一くらいのペースで投稿出来たら御の字です。(汗)


 巨大なルーレットが闇に浮かんでいる。昔、テーマパークとして作られたそこは、大戦後一大歓楽地として発展した。現在はラスベガス、マカオ、モナコ等と肩を並べる、巨大賭博市場がある。


 ルーレットに模した観覧車、大きな地球儀を掲げてそびえるガラスの城は、かつてはTV局が入っていたという。最終戦争後の混乱期に放置された物を、何度か改修して今の形になった。方舟のような建物には、遊園地やショッピングモールが併設され、アジア最大と言われるギャンブル場がある。湾に張り出したような地形を活かした、水上レースがここの最大の見世物だった。

 色も形も様々なレース用ボートに乗って、水面を滑走する様は目にも涼しい。


 本日のメインレースはドラゴンボートと呼ばれる細長い手漕ぎのボートを数人で漕ぐもので、オートメーション化が進んだこの時代でも、風情を好む粋人達の間で人気の高いレースの一つである。色とりどりの電飾で飾られた船が、ライトアップされた海上を疾走していく。力業だけで進むもの、チームワーク を活かして整然と漕ぎ続けるもの、レースの行方に一喜一憂する観客達。


 ざわめく興奮と、高揚感。ライトの強い光だけではない、人が生み出す、熱気。


 巽 幸星(たつみ こうせい)はゆったりと廻る観覧車に乗りながら、遥か下界のそんな様子を眺めていた。今や世界の何処にいても、携帯端末から勝舟投票券が買える時代である。千を超す衛星チャンネルからネットを通じてレースの様子を見ながら、こんな風にのんびり過ごすことも出来るのだ。


 結果は予想通り、一番人気の『火竜(ファイアードラゴン)』が征した。二番手には人気薄の『桃色火吹竜(ピンクサラマンダー)』が意外な健闘を見せたので、本命が勝者にもかかわらず、連番のオッズは高額になったようだ。


「さすがですな」


 ここ、東京カジノシティーの総支配人は、巽の端末を覗き込みながら感心した。


 巽の強運は本日も遺憾無く発揮されていたので、今のレースを終えたところで、既に三百クレジット稼いでいた。一C(クレジット)が一G(ゴールド)に あたり、一Gあればちょっとしたディナーなら二人分。煙草なら五カートンは買えるだろう。三百Cとなれば、一般サラリーマンの年収にあたる。


 巽幸星は強運のギャンブラーとして、業界では名の知れた人物である。一見すると少女と見間違える様な美貌の持ち主で、二十一歳という年齢よりも幾らか若く見える。

中世の貴族のような、細かい刺繍を施したショートジャケットに、レースがひらひら付いた丈の長いシャツを着て、まるでマイセンの陶器人形(ビスクドール)の様だ。


 煌く夜景を眼下に見下ろす巽の横顔に、総支配人はこっそりと感嘆した。


 彼がこうして巽を接待しているのは、何も個人的な理由からではない。巽は負け知らずのギャンブラーであると同時に、腕のいいディーラーでもある。それ以上に彼には人々に幸運をもたらすという不思議な運命の持ち主であった。科学の進んだこの時代にあっても、殊、ギャンブラーという人種は縁起を担ぐ連中が多く、それは主催者側の人間でさえ、例外ではなかった。

「それで」

 形の良い唇が言葉をなぞると、澄んだ水音を想わせる声がそれを音にした。

「私に何をしろとおっしゃるんですか?」

「引き受けて下さるんですか?」

 総支配人は安堵の笑みを顔中に刻みながら言った。

「引き受けなければここにいませんよ」

 巽は人懐っこい笑顔を見せ、小首を傾げる。

「ただのディーラーでいいんですか?」

「いいえ!」

 総支配人は慌てて首を降った。

「あなたも御存知でしょう。明後日から始まるポーカーの大会を。あなたには是非決勝でディーラーを務めて頂きたい」

 ポーカーの大会とは、毎年ここで開かれているもので、世界中のポーカー好きが一堂に会する大イベントなのだ。ギャンブラーの中でも特にポーカーには一家言ありという連中ばかりが集まるのだから、例え、ただカードを配るだけのディーラーであっても、人選には万全を期したいのだ。と、総支配人は熱っぽく語った。それに世界各地を渡り歩いた巽ならば何かトラブルがあっても、言葉の壁もなく問題をクリアできるであろう。という計算もあった。

「まあ、色々やる奴も出て来るだろうからね」

 彼の心の内を見透かしたように巽の繊手がひらりと舞う。

 手には4枚のエースのカードが納まっていた。

 白髪まじりの顎髭を撫でながら、総支配人は念を押した。

「本番ではやらないでくださいよ」

 当然、と巽は胸を張る。

「これは相手の手口を知る為に手に入れた技術です。私には必要ありませんよ」

 一流のディーラーは、いかさまの手口にも精通しているのだった。

 尤も、本来腕のいいディーラーや、この様にカードトリックの出来る者は、何処のカジノもあまり採用したがらない。ディーラーが客と組んでいかさまをする可能性も無きにしもあらず、という訳である。カジノは信用第一。もしいかさまをしていたと発覚すれば、直ちにそのカジノは閉鎖され、経営権を没収されてしまう。だから巽を招くカジノ側は、彼に高額の賃金と、VIPに匹敵する厚待遇を用意している。客と共謀して小金を稼ぐなど馬鹿らしく想える程のVIP待遇である。

 何故そうまでして、巽をディーラーとして採用するのか。といえば、一つには巽が非常に客受けが良いという事。その少女とも少年ともつかない美貌にファンは多く、その中には政界財界のトップクラスの人々も少なくないという。そしてなにより、巽幸星は幸運の持ち主である。不思議と彼と彼に関わる人々には幸運が(もたら)されるという伝説が、この業界では今も数々の逸話と共にまことしやかに語られている。勿論、ディーラーとしても、客としても、巽がいかさまをしたという話は一度もない。なにしろその伝説を信じるなら、彼にはそんな小細工など必要ないのだから。

 それ故、何処のカジノも彼を信用し、更に幸運の恩恵に(あずか)ろうと、こうして巽を歓待するのだ。


ケータイだけ改行というのをやってみましたが、ケータイユーザーのためPCで確認できないという罠( ̄□ ̄;)!!


不具合があればお知らせください。m(_ _)m


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