お母さん! ただいま!(3)
ヤドンが母親の持っているビニール袋を取り上げて、中を匂った。
「おい……これ、伝説の猛毒ポックリノストキンだぞ」
「いやいやそれはただのチョコレート菓子だから」
優子が否定する。
「なら食べてみろよ!」
ヤドンがビニール袋を突き出した。
全力で拒否する優子。
チョコレートとは言ったが、アイちゃんの母親の様子を見ると、ヤドンの言ったこともあながち嘘じゃないかもと思ったのだ。
「本当にそれ伝説の猛毒ポックリノストキンなの?」
「ドラゴンの俺が食べても下痢するぐらいの猛毒だぞ」
「下剤ですか!」
「いや、人間が食べたら、こういう風に即死だぜ」
ヤドンは泡を吹く母親を指さした。
――えっ……死んでるの?
どうしてチョコレート菓子が毒物になったのだろう?
優子はいろいろ考える。
賞味期限が切れた……まだ、そんなに日は経っていないよね。
もしかして、アイちゃんの唾液? いやいや、それなら頭をかじられているプアールもとっくに死んでいるはず。まぁ、あいつなら、別に死んでもいいけど。
よくよく考えると、アイちゃん、あのビニールの中でなんか混ぜてたよね。ヤドンの体液がついたビニール袋で。
たしか……優子が買ったmegazonオリジナル洗顔セット、megazonオリジナル化粧水、megazonオリジナル保湿クリーム、megazonオリジナル日焼け止めクリームを全部開封しビニール袋の中にぶち込んで、色とりどりのチョコレートと共にガサガサとシェイクしていたよねアイちゃん。
今思い出したら、それぞれのパッケージに混ぜるな危険って書いてあったような……。だけど、猛毒ができるって書いてなかったんですけど。まぁ、いいっか。
チャイ子ここに死す。最後の人生は《《悲愴》》いや、《《悲壮》》なものであった。悲しい中にも、最後に見せた母親の片鱗。それをどうしてもう少し早く……悔やまれても仕方ない。って、誰が悔やんでいるのかって? 優子とプアール? ない! ない! あの二人に限ってありえない! うーん……誰だろう? もしかして、これを読んでくれているあなたなのかもしれない!
「優子さん……これ、どうします?」
プアールが泡をはくチャイ子を見下ろしながら尋ねた。
「うーん、きっと寝ているのよ。大丈夫」
「その内、ホストが帰ってきて、王子様のキスで目覚めさせてくれますよね」
「そうよ。それで二人できっとこことは違う夢の国の続きを楽しむはずよ」
「もう、夢の国は既に燃えおちて、さながら地獄になっていますけど……まぁ、私たちはお邪魔ですから、退散しておきましょう」
「そうね、プアール。それがいいわ」
優子はアイちゃんの手を引き、いそいそとその場から離れようとした。




