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お母さん! ただいま!(2)

 だが、何だかアイちゃんが悶えているのは気のせいだろうか?

 大好きなプアールの頭から離されたから?

 それとも、ゾンビだから?

 いやいや、チャイ子がアイちゃんをギュッと抱きしめているからなのだ。

 優子は、見てはならないものを見てしまったような気がした。

 そう、抱きしめるアイちゃんの体が、強い力できしんでいた。

 メキメキとアイちゃんの体が音を立てている。

 恨みがこもったチャイ子の目。

 まさに、今、殺すと言わんばかりの力でアイちゃんを抱きしめていたのだ。

 チャイ子は思う。

 そう、コイツがいきているせいで、私は保険金が受け取れなかったのだ。

 占い師のババアが言っていた。的中率は100%! なにが100%だ!

 目の前には娘がいきているではないか!

 ならば、私の手で確実に!

 さらに、その手に力を込めていく。


 あああああぁ……

 締め付けらるアイちゃんは、苦しそうな声を出す。

 しかし、その瞳には、どこか、嬉しそうな輝きが宿っていた。

――お母さんただいま……

 なんか、そういっているような気がした。

――お母さんの言いつけ通り買ってきたよ……

 ぎこちないアイちゃんの手がゆっくりと上がる。

 アイちゃんが袋に入ったチョコレート菓子を母親に渡そうとした。

「アイ……」

 その瞬間、チャイ子の目に涙があふれた。

 チャイ子はアイを優しく抱きなおした。

「ごめんね……ごめんね……ごめんね……ごめんね……」

 何度も謝るチャイ子。

 アイの頭を優しくなでながら、何度も謝る。

 先ほどまでとは違った優しい瞳。


 アイちゃんは、ビニール袋をチャイ子に押し付けた。

「アイ……許してくれるって言うのね」

 涙を流すチャイ子。


 優子ももらい泣きで、目頭をおさえていた。

――やっぱり親子の愛って、簡単に断ち切ることってできないのよね。


 チャイ子は、アイちゃんの顔を見ながら微笑んだ。

「これ、買ってきてくれたんだね」

 ビニール袋に手を突っ込んで、一つのチョコレート菓子をつまみあげた。

「ありがとう」

 嬉しそうなチャイ子は、そのチョコレート菓子を口の中に放り込んだ。


 うげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!


 瞬時に喉を押さえるチャイ子。

 チャイ子の顔がみるみる青ざめていく。

 口から泡がどんどんと噴き出してきた。


 ついにばたりと倒れるチャイ子。

 感動が覚めあらぬ優子とプアールは、訳が分からない。

 さきほどまで、感動の親子の和解だったはず。

 それが、いまでは母親が泡を吹いて倒れているのである。

―― 一体何がおこったの?

 優子とプアールはお互いの顔を見合わせた。

 一方、アイちゃんは、プアールの頭に噛みつくとガシガシとかじり始めていた。


 お母さん! ただいま絶命中!



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