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リチルとプアール(3)

 プアールの一家は、上級神、それも、この神の国のとてもエライ最上級神ゼウィッスの家である。そのゼウィッスの108番目の娘としてプアールは生を受けたのである。本来であればお金持ちの家である。そんな彼女が、なぜ、路地裏でパンの耳をほお張っているのであろうか。まぁ、子供が108人以上もいると、家督の継承権もありもしない。それどころか、一番下っ端すぎて家では誰も相手にしてくれない。常にほったらかしのプアールは、好き勝手に生活していた。好き勝手に生活していたらから勘当されたのかと思うでしょう。そうではないんです。108番目だから、もう、その存在そのものが忘れられていたんだ。107番目と108番目の違いなんてもう、誰にもわからない。子供の数を数えるにしても、どいつもこいつもじっとしていないものだから、80を超えたあたりから分からなくなってくる。それでも出来のいい子は、自分なりの立ち位置を見つけて生きていく。でも出来が悪いプアールは、それができなかった。そのためプアールの存在なんて誰も気にしない。というか、空気そのもの。どんくさいプアールは、兄や姉にすべて横取りされる始末。教育どころか、食事もろくに与えられない。要は不器用、超不器用な奴! 誰かに話しかけても、同様に見られたくないのか無視されていた。


「お前いたの……って、誰だったっけ?」

「不器用な奴がいてくれてよかった。私がおこられるところだったわ」

「あんた生きてて楽しい?」

「いてもいなくても一緒だな」

「お前にやる飯はねぇ!」

「………………プイ!」


 つねに孤独だった。孤独の上にさらに襲いくる日々の空腹。空腹に耐えかねたプアールは、自分の命は自分で守ると決意した。

 そう決めたプアールは、野良犬のように街をさまよっていた。土砂降りの雨の中、プアールは食べ物を探して、ゴミ箱の中に顔を突っ込んだ。

――今日は何もないなぁ……

 ため息をつくプアールの肩を誰かがトントンと叩く。

 顔をあげ振り返るプアールの鼻先にパンの耳が押し付けられた。

 雨でぬれてフニャフニャになっていくパンの耳

「あげるよ」

 一人の女の子がパンの耳を突き出し笑っていた。

 そう、それがプアールとリチルの出会いであった。

 しかし、リチルは、プアールと違い、孤児であった。小さい時に父をなくし、母一人で育てられていた。しかし、母も、リチルが5歳の時に病気を患い、あっという間に父のもとへと旅立った。両親を失ったリチルは一人で生きる。いや、生きるしかなかったのである。路地裏で、ごみをあさり、その日その日を懸命に生き延びていたのだ。

「ココのパンおいしいよ」

 自分の命の綱であるパンの耳を惜しげもなく差し出すリチル。

 プアールはそのパンの耳を受け取ると、むしゃぶりついた。

 プアールの目には涙なのか、雨なのか分からないが、大量の水が流れ落ちていた。


 プアールは、何も食べていなかった。

 数日ぶりの食事である。

 でも、それが嬉しかったのではない。

 永らく忘れていた自分に向けられる笑顔。

 自分を人として接してくれるその瞳。

 そして、優しい人のぬくもり……


 ――私は、生きてていいんだ……

 


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