激闘! 新井さん(2)
カエルの舌が巻き戻るのと共に、アイちゃんの体は路地の奥へとスピードを上げていく。
アイちゃんはプアールに助けを求めるかのように手を伸ばす。
しかし、勢いをあげて離れていった。
「アイちゃーーーーん!」
プアールは、叫んだ!
助けに行くのかプアール。アイちゃんを助けに行かねば!
えっ! ……無理。
プアールは、何事もなく歩き出す。そして、そのまま優子の元へと駆け戻ってきたのだ。
だって、カエル大きかったんだもん。
そりゃ無理だ!
って、ことになるかい!
優子は怒鳴った。
「アンタ! アイちゃん見捨ててどうするのよ!」
「だって、新井さんデカかったんですよ!」
「アイちゃんをお母さんのもとに返すって約束したじゃない!」
「もしかしたら、アイちゃんのお母さん、新井さんのお腹の中にいるかもしれないじゃないですか!」
「だったら、お前も挨拶してこんかい!」
「なんで私が!」
「こんなアイちゃんは、決してゾンビではありません! って懇切丁寧に説明して来い!」
「そんなぁ……」
「とりあえず、戻るわよ!」
「いやぁぁぁぁぁ」
優子はプアールの手を掴むと、思いっきりUターンした。
その反動で、プアールの体が宙を舞う。
勢いそのまま、優子はプアールを新井さんのいた路地へ投げ飛ばした。
「一緒じゃないんですかぁァァ!」
路地へと飛んでいくプアールは叫んだ。
「一緒だと、私も食べられるでしょうが!」
「そんなぁ、殺生なぁぁぁ!」
飛んでいくプアールは、空中で必死にカエル泳ぎをした。しかし、そこは空中、前に進むわけはない。
プアールの健闘むなしく、その体は路地の中へと転がり込んだ。
いたたたた……
プアールはお尻をこすりながら立ち上がる。
そして、恐る恐る振り返る。
そう、先ほどまで新井さんがいた路地奥をゆっくりと覗いた。
ひいぃぃいぃい!
プアールの目は引きつった。
そこはまさに地獄絵図。
食い荒らされた肉体が、血しぶきをあげて飛び散っていたのだ。
ムシャムシャと何かを食らう音が、路地の建物に反響して、大きな音のように聞こえてくる。
時折響く悲鳴のようなものが、より一層、プアールの恐怖を掻き立てた。
小刻みに震えるプアールは、もう立つことができなかった。
膝が崩れ落ち、その場に座り込んでしまう。
そんなプアールに、やっと、優子が追いついた。
ぴちゃ
優子の足が、水たまりをけった。
プアールのスカートの下から、液体が漏れだしていたのだ。
「もしかして……漏らした?」
優子が意地悪そうに口に手を当て笑った。
「ゆ・ゆ・優子さん……」
プアールが路地の奥を指さした。
その手は小刻みに震えている。
その指先に視線をずらす優子。
「なんじゃこりゃぁぁぁぁ!」
優子は叫んだ。
その先には山のような黒い影。
しかもその山の上には、一つの別の影が立っていた。
うがぁぁぁぁぁ!
その山の上の影が吠えた。
両手に肉塊を持ち、顔中を血で染めた少女。
天に向かって、吠え狂う。
うがぁぁぁぁぁ!




