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テッド(1)

 ヤドンは、少し考えた。

「うーん、それならばドラゴンの姿に戻ってからになるな。それからでもいいか?」

「えっ! ドラゴンに戻ってから……それは、それでいいかもしれませんね……えへえへっへへへへ」

 ムンネの顔がにやけていく。


「ちょっと、おバカやってないで、早くしてよ、皆行っちゃったじゃない!」


 ハッと、気を取り戻したムンネが両手を突き出した。

「旦那様! ちょっと離れていてくださいね! エイヤァ! 見えました!」


「どこどこ!」

「そこです! そこにアンデッドの気配が!」

 ムンネがひっくり返るプアールを指さした。

 その先には、プアールの頭に噛みつくアイちゃん。

 確かにアイちゃんもアンデッドだね。

 もう、一手先どころか、目先も見えとらん!


「使えねぇ……」

 優子とヤドンは白い目でムンネを見つめた。


「そんな目で……私を見ないで……」

 力なく地面に崩れおちたムンネの上半身が腕に支えられ斜めに流れた。

 放置決定!


「とりあえず、歩いてみるか」

 ヤドンは、ムンネを無視して歩き始めた。


 暗い街の中に参加者の足音がこだまする。

 何やら向こうの路地奥から叫び声が聞こえる。

 これは戦闘の声

 どうやら、参加者たちがテッドか新井さんのアンデッドと遭遇したようである。

 先を越されたか!

 優子たちの足が早まった。


「そこの角を曲がったところみたいね」

「早く行きましょう!」

 アイちゃんを背負うプアールの心は早まった。

 早く行かないと誰かに先を越されて倒されてしまうかもしれない。

 明日は、水道代の引き落とし日、せめて水だけは確保したい。

 そろそろシャワーを浴びないと、タダノ課長に食器用洗剤で徹底的に洗われてしまうではないか。いや、それならそれで風呂代が浮くか……


 路地に駆け込んだ先には異様な光景。

 両側に二階建ての石造りの家々が並んだ細い路地。

 その真っ暗な石畳の細道がまっすぐと、さらに真っ暗な暗闇の中に消えていく。

 その道の上に黒い塊がところどころに転がっていた。咄嗟の事なので正確な数は分からない。おそらく十数個はあっただろう。


 足元の塊を見る優子

 人!

 どうやら大勢の参加者が倒れ込んでいた。

 きゃっ!

 優子が叫んだ。

 ひっ!

 プアールもおののく。


 後から遅れて角を曲がってきたヤドンがその塊にぶつかり、つぶやいた。

「おっ! これはさすがに死んでるな……」

 転がる体を足でつつく。

 反応がない。


「なぁ、これもったいないから食べていいか?」

「いいわけないでしょ!」


「なんでだよ。もう死んでいるんだから、構わないだろ」

「あんた崇高なドラゴン様なんでしょ! 死体食べていいんですか!」


「うーん。そういわれればそうだよな。死体よりかは生きた肉の方がおいしいしな。それも女……」

 優子を見るヤドンの目が怪しい。

 口からよだれが滴り落ちる。


「ちょっとまったぁぁ! 今、私を食べようと思ったでしょ! 約束はどうなっているのよ! 約束は!」


「いやいや、そんなことはないぞ。やっぱりこれでも食っとくか……」

 ヤドンはうんこ座りで死体をつついた。


「もう、勝手にしなさいよ!」


 しかし、さきほどからプアールが静かだ。こんな時は、放っておいても騒がしいというのに、何もしゃべらない。お腹でも壊したのかしら?

 優子は気になって側に立ち尽くすプアールに目を移した。

 カタカタと小さく震えるプアール

 それに伴ってアイちゃんも揺れている。

 腹痛じゃなくて風邪かしら。いやいや、バカは風邪ひかないって言うし。


「プアール。どうしたのよ。そんなに震えて」

 プアールがゆっくりと前の暗闇を指さした。


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