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苦い薬はよく効く薬だ(2)

 尻もちをついていたおまわりさんが、腰をこすりながらやっと立ち上がった。

 おまわりさん、こう見えても、見た目以上の年なのだろう。もう、無理はしなさんな……


 しかし、その表情がみるみると険しくなった。というのも、いたいけなアイちゃんの口に優子が笑いながら小瓶を突っ込んでいるのである。

 あふれ出した蘇生薬が口角からぼたぼたとこぼれ落ちている。

 どう見ても、笑い事ではない。

 おまわりさんは、咄嗟にアイちゃんの口に突っ込んだ蘇生薬を取り除こうとした。


「何をやっているんだ! 君たち! その子苦しんでいるんじゃないのか!」


 その言葉に、プアールと優子はアイちゃんの顔を覗き見る。

 苦しそうと言うより、どう見ても死んでいる。

 口から蘇生薬がこぼれているのは、自分で飲み込めないからに違いない。


 やばい……やばい……

 咄嗟に優子は、アイちゃんの体を引き起こし、蘇生薬が体内に入るように勾配を付けた。


「ちょっと、その子を見せなさい!」

 おまわりさんが手を伸ばす。

 咄嗟に体でアイちゃんを覆い隠す優子。

「大丈夫ですって! ちょっとした栄養補助食品ですから!」


 プアールもおまわりさんの手にしがみつき叫ぶ。

「そうです。タウリン1000グラム オロナインジーですから!」


 おまわりさんが怒鳴った。

「タウリン1kgも取ったら、過剰摂取だ! 今すぐやめさせろ!」


 プアールがどぎまぎしながら言いつくろった。

「嫌ですね……1000グラムも入っているわけないじゃないですか! ただの宣伝ですよ宣伝! 誇大広告というやつですよ」


 そんな押し問答が続いていく。


 優子の膝の上でアイちゃんの指がピクリと動いた。

 そして、アイちゃんの手がゆっくりと上に上がっていく。

「生き返った!」

 プアールと優子は満面の笑みを浮かべ、顔を見合わせた。

 これで殺人犯じゃなくなる! 大丈夫!

「アイちゃん! 大丈夫!」

「どこか痛くない!」

 二人は懸命に話しかけた。


 アイちゃんが何かを言いながらゆっくりと上半身を起こした。

「あ……あぁ……あぁ……」

 あれ?

 さっきの明朗快活なアイちゃんとはどこか違うような?

 優子は一抹の不安を感じた。

 プアールは転がる蘇生薬の小瓶を取った。

 注意書き

 この蘇生薬は、腐った死体も生き返るほどの強力な物でありますが、これは、あくまでも使用者の感想です。

 どういう事?


 二人と揉みあっていたお巡りさんは、アイちゃんに手を伸ばす。

 少々顔色が悪いが、目はまん丸と見開いている。

 少々瞳孔は開いているが、目玉はきょろきょろと元気に動いている。

 少々体温が低いようであるが、一応、動いているようだ。

「君、大丈夫かね……」

 アイちゃんは両手をだらんとし、体を微動だにしない。首だけがゼンマイ仕掛けのおもちゃのようにゆっくりと回転すると、その見開いた目がおまわりさんを見つめた。

「あぁ……」


 ヒィ!

 咄嗟にお巡りさんはのけぞった。

 どう見ても、普通じゃない! これはヤバイって!

 だけど、動いているんだから問題ないよね。

 うん、問題ない! 事件性なしってことでいいんじゃない。



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