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初めての壁ドン(2)

「シャンパンタワー行きまーす!」


 優子は、男の肩にまたがって、頂点のグラスからドンペリを流していく。

 もうその表情は女子高生のものとは思えないほどラリっていた。


 ちなみに優子は、シャンパン飲んでないからね! オレンジジュースだけよ! オレンジジュース! だって、女子高生なんですから!


 てっぺんのグラスに満ち溢れたシャンパンは、下のグラスへとこぼれていく。

 10段にまで積み上げられたグラスの塔は、いかんせグラスの数が多い。

 ドンペリ1本では全く足りない。


 優子は叫んだ。


「ドンペリ持ってコーーーーい」


 流れ落ちるシャンパンが、一番下のグラスを満たしきると、男たちの歓声が店の中に響きわたる。

 ついには成金のようにゴテゴテとした床の絨毯をシャンパンは濡らした。


 優子の脳内にあふれ出した幸福なホルモンもまた、優子の下半身へと流れ落ちパンツを濡らしていた。


 もう、店の中は、破格の行いをする、一人の女子高生の貸し切り状態になっていたのだ。


 ホストたちは、満面の笑みで優子をヨイショする。

 しかし、その笑みの裏側では、不安の気持ちが沸き起こっていた。

 おそらく今の支払総額額は、1,000万近くになっているはず。

 前金を差し引いても、残り900万……

 この小娘……本当に金持ってるのか?

 もし、持っていなかったら、誰が、この支払のケツ持つんだよ。


 たしかに、この支払がなされるのであれば、NO.1ホストの道を駆け上るのだろう。

 しかし、逆に、支払いがなければ、その借金を背負わされることにもなる……

 ホストたちは、満面の笑みを浮かべながら、どちらの選択をすべきか考えた。

 互いにけん制しあいながら、腹の中を探り合う。


 そんなこととはつゆ知らず。

 なんか、自分が認められたような気がした優子は有頂天だった。


「ちょっとお化粧直してくるね……」


 濡れたパンツが気になったのか、はたまた、オレンジジュースを飲みすぎたのか、膨れ上がる膀胱を必死に押さえて、トイレへと駆け込んだ。


 ふー

 個室から出た優子は、鏡の前で一息ついた。


 まるで、ここは異世界のよう。

 ここにいる自分は、まるで別人。

 実はココの私こそ本当の私じゃないのかしら。


 鏡を見ながら笑顔を作る。


 トイレのドアを開けると、一人のチョットだけイケメンがさっとおしぼりを手渡した。


「あ・ありがとう……」

 照れながら優子はおしぼりを受け取った。


 そのチョットだけイケメンは、優子が店に入った時に対応したチョットだけイケメンであった。

 そのチョットだけイケメンが前金を支払うならと言って、店長に掛け合ってくれたのである。

 えっ、チョットだけチョットだけってうるさいって? 仕方ないじゃん! 本当にチョットだけなんだから!


 チョットだけイケメンは、頭を下げながらつぶやいた。


「少々お話ししたいことがございます。お時間よろしいでしょうか?」

「えぇ……」

 優子は言われるがまま、廊下をついていく。


 先ほどまで騒がしかった店内が嘘のように静まり返っている。


 あの楽し気なホストたちは酔いつぶれてしまったのであろうか?

 いやいや、おそらくこの下っ端に責任をなすりつけてトンズラこいたに違いない。

 だって、ここは四流以下のホストクラブなのだから。



 優子は、静かな店内が少々気になるものの、チョットだけイケメンホストに従って裏口から薄暗い裏通りに出ていった。


 そこは細い細い裏通り、人ひとりしか通れないような薄暗い路地であった。


「なんでしょうか……」

 急に心細くなった優子はつぶやいた。


 ドン!


 チョットだけイケメンは、優子が背にする壁をたたいた。


 ビクッとする優子

 これが、俗にいう壁ドン!

 あぁ、俺について来いって言われるのね……

 優子の中に熱い思いが込みあがって身を焦がしていく。



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