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新たなる世界(3)

 スクールバックから手を出した優子は、ふと思い出した。


 ――私のうさちゃんのお財布はどこ……あの中には私の全財産、カクカワガムの当たり券2枚入っているのよ……


 もう一度、スクールバックの中を急いで探す。

 しかし、なぜかうさちゃんのお財布は出てこなかった


 ――まだ、新しいガムと交換していなかったのよ……


 優子は、後悔した。

 どうして、私はあの時、ガムとの交換をためらったのだろう。


 駄菓子屋さんのにこやかなおばあちゃんの顔が、涙でにじんだまぶたに浮かぶ。

 だけど、その時、駄菓子屋さんのおばあちゃんの手にはコーラガムがのっていた。


「ごめんよ……もう売り切れちゃってね……また、おいで」

 駄菓子屋さんのおばあちゃんのかすかな声が耳に残っている。


 そう……私はソーダガムがよかったのだ……


 ――と言うか、私のうさちゃんのお財布はどこ行ったのよ!

 しかし、見つからない。

 ひとしきり探した優子は、あきらめ、がっくりと肩を落とし、うなだれた。


 ――はぁ、また、無一文からスタートか……

 優子は、スクールバックを肩にかけると、力なく立ち上がった。


 夕焼けがまぶしい川の土手をぽつりぽつりと歩いていく。


 土手の向こうから母親と子供が手をつなぎ楽しそうにやってきた。

 夕日に親子の赤い服がよく映える。


「今日も、一人で、お留守番偉かったね」

「お母さん、今日のご飯は?」

「アイちゃんのすきなものよ」

 ツインテールの少女の頭が楽しそうに揺れる。


「やったー! カエルの丸焼きだ!」

「明日、パイオハザーのお家に帰るからね」

「はーい! お母さん! 大好き!」


 ――お母さんか……

 母の姿を思い出す優子は、涙ぐむ。


 ――お母さんに、会いたいな……

 優子から伸びる長い影が、徐々に薄暗い闇の中へと姿を消していった。


 ぐぅぅぅ

 優子はおなかを押さえた。


 そういえば、この世界に転生してから、何も食べていなかった。


 一体、どれだけ歩いたのだろう。

 あたりは、暗くなっていた。

 一人ぼっちの優子を慰めるかのように満月が優しく優子を照らしていた。


 無気力な優子は、ふと顔をあげた

 道の先に街の明かりが見えた。


 夜だというのに、このアッカンベエル町は騒がしい。

 人々の賑わいの中、優子は一人寂しく歩いていた。

 食べ物のおいしそうなにおいが、優子の鼻をかすめていく。

 そのたびに、お腹の虫が何か寄こせと催促した。


 しかし、現金を持たぬ優子。

 お腹を押さえ、とぼとぼと歩くことしかできなかった。


 弱った野良犬のような優子は、すれ違う男たちと肩がぶつかった。

 よろめく優子は、体を支えられずに力なく倒れ込んでしまった。


「姉ちゃん悪いなぁ。こんな夜更けに一人歩きか? 何なら、俺たちが送って行ってやろうか?」

 男が近寄り手を伸ばす。

 優子はその手を払いのける。

 男の表情が厳しく変わった。


「このアマ! 調子に乗るなよ!」

 5人の男達が、優子を取り囲むように集まってきた。


 優子はスクールバックの中に手を突っ込んだ。


 そして願った。


 このクソどもをぶちのめす大きく! たくましく! 立派な一物がほしいと。


 ゆっくりとスクールバック中から引き出されていく手は、ものすごい大きな業物わざものを掴んでいた。


 それは、もしかして! どこぞの狂戦士が使徒どもをぶち殺すために使っていたという幅広の大剣か!

 優子が掴んだ柄は異常に大きい!

 こんな大きなもの優子は、使えるのか?

 一応、女子高生だぞ!

 徐々に引き抜かれるその大きな柄は、何か太い筒状の接合部にしっかりと食い込んでいた。


 スクールバックから引き出されていく筒状の大きなモノ。


 しかし、その筒状のものは、いつまでたってもスクールバックから抜けきらない。


 優子は、ついに両の手を使ってスクールバックから一気に引き抜いた。


 オリャァ!

 ついにその全貌を見せたそのモノを、優子はとっさに男たちに向けて構えた。


 男たちの表情は、驚きに変わった。


 「まさか! お前! それを使えるというのか!」

 それは長さ2.5m幅80cmもの大きな業物!


 だが、残念なことに、期待した大剣ではなかった。


 まぁ、大剣だったら、重すぎて優子は、持つこともできないだろう。


 そう、それは大剣ではない!


 それは、大きな大きな『ピンクのコケシ』であった。


 柔らかそうなコケシの頭がポロンと頭を垂れると、何かヌベーっとしたものが頭のてっぺんからたれおちた。

 大の男でも扱うことが難しそうなコケシである。


 扱うって、あんた! 一体どうやって!

 えっ? それは内緒よ内緒!


 どう考えてもレベル1の優子が装備できるとは思えない代物であった。

 いや、レベル99の女戦士でも装備は絶対に不可能であろう


 しかし、優子は、コケシを正面に構え、男どもをにらみつけている。

 その柔軟なコケシと同様に、優子の体もユラユラと柳のように揺れている。

 何かのスキルであろうか。

 その体からは何も感じられない無の気配。


 まさか、達人か!

 男たちは生唾を飲み込んだ。

 互いに顔を見合わせた男たちは恐怖におののく。


「覚えてろよ!」

 唾を吐き捨てた男たちは、優子に背を向けて、町の喧騒の中に紛れていった。




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