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冒険者ギルド

 ゼッツブールの街。

 ストーンデールの街から東に存在するここは、ブリスペル共和国では二番目に大きい街だ。そして、首都から歩いて二日程度という近さでもあるため、その文化は大きく変わりない。街の外には広大な農地が広がっているし、穏やかな気候だ。

 そして、大きな街には大抵一つある、住民たちからはあまり歓迎されない施設。

 それが、冒険者ギルドである。


「ここが冒険者ギルドなんですかー?」


「ええ」


 扉が開放されている、木造の建物。

 その扉の周りには、僕と同じように刺青を彫っている強面の戦士や、ぱっと見は盗賊かと思われるような大男、煙草をふかしているアウトローなど、まぁ明らかに近づきたくない人種ばかりである。

 この状態こそが、住民たちから冒険者ギルドが歓迎されない理由だ。


「さ、とりあえず入りましょうか」


「はい!」


 幸い、チェリルは気後れしていない様子ではあるが、大抵初見の者は冒険者ギルドに入ることを躊躇うものである。

 何せ、ここに集まっているのは大抵がはぐれ者だ。簡単に言うと、一般の仕事に就くことができない人種が、最後に行き着く場所が冒険者なのだ。そして、魔物と戦うことを主たる仕事としているため、相応に力が求められる。

 つまり、街の住民たちからすれば、武器を持った厳ついアウトローばかりが集まる場所ということだ。


 開いている入り口から入ると、むわっとした酒気が襲ってくる。

 冒険者ギルドというのは、大抵ライセンスを持つ者だけが利用できる、安い酒場が隣接されているのだ。冒険者が魔物を討伐し、小銭を稼いで、それで酒を飲む。その循環により、冒険者ギルドというのは経営が成り立っているのだとか。まぁ、街の住民たちが「怖い人たちにお店を利用して欲しくない」と言い出したから、などという話もあるけれど、真実を僕は知らない。

 まぁ何にせよ、冒険者というのは嫌われ者である。


「ようこそ、冒険者ギルドへ。ライセンスはお持ちですか?」


「ええ」


 僕は受付に向かい、懐から冒険者ライセンスを取り出す。

 金属の板に名前が刻まれただけの、簡素なライセンスだ。登録料さえ払えば何の証明も必要ないため、世界で最も取りやすい身分証明と言われている。もっとも、そんなザルすぎる身分証明であるためトラブルも多く、大きな取引を行うときなどは、冒険者以外の身分証明の提示を求められることもあるとか。

 まぁ、僕のような住所不定無職にはありがたい存在である。


「はい、ありがとうございます。本日はどのようなご用件でしょうか」


「ええ、依頼をしたいのですが」


「受注ではなく、発注ということですか?」


「ええ」


「……?」


 僕の足元で、僕と受付嬢を交互に見ながら混乱しているチェリル。

 そもそも、僕が冒険者ギルドに行く用件はチェリルに話していない。多分、何か依頼を受注するものだと思っていることだろう。

 折角ウェイデン遺跡に行くわけだから、ついでに魔物の採取依頼を受けておく、みたいな。

 まぁ残念ながら、僕は発注側である。


「ゴブリンの素材が欲しくて」


「取り置きでしたら、奥の倉庫にありますが」


「できるだけ新鮮なものを求めているんです。そうですね……五十体ほど」


「なるほど。でしたら、北のウェイデン遺跡にその程度の数が巣くっているという話ですので、討伐依頼という形では如何でしょうか? 採取依頼よりも討伐依頼の方が、お安いプランでご案内できますが」


「なるほど。では、そういう形でお願いします」


 受付嬢の言葉に、僕は頷く。

 むしろ、そういう形に持っていってくれる方が、僕としてはありがたい。最初から、ウェイデン遺跡の討伐を求めているのだから。


「プランの方を説明いたしますと、採取依頼ですとゴブリンの爪、犬歯を五体分で銀貨二枚となります。今回は五十体ですので、銀貨二十枚となります」


「ええ」


「これをウェイデン遺跡の討伐依頼に変えますと、ウェイデン遺跡全体のゴブリン討伐、ならびに素材の提出を冒険者が行います。ウェイデン遺跡はそれほど難易度が高いダンジョンでないため、銀貨十五枚になります」


「ええ」


「ただし、冒険者ギルドはあくまでウェイデン遺跡のゴブリンの数について、正確な数字を把握していません。もしかすると三十体しかいないかもしれませんし、百体いる可能性もあります。そちらは予めご了承ください」


「なるほど」


 五十体の採取依頼ならば、間違いなく指定の数が集められる。

 ただし討伐依頼の場合、お安く済むけれど指定の数が集まらない可能性もある。

 そして今回の場合、完全に後者だ。ゴブリンの素材など、僕は使うつもりが全くないのだから。


「では、討伐依頼でお願いします」


「はい。それでは、こちらの依頼を受け付けます。ゴブリン討伐で銀貨十枚という形での依頼となりますので、恐らくすぐに受注されると思います。二、三日後にまたギルドの方へお越しください」


「分かりました」


 冒険者ギルド、銀貨五枚も中抜きしているらしい。

 まぁ、今回僕が行ったような、討伐依頼などの発注先がないときは、冒険者ギルドが身銭を切って依頼を出すこともあるらしいし、順当な数か。

 だがこれで、ウェイデン遺跡のゴブリン討伐は誰かが果たしてくれるはずだ。


「さ、ではチェリルさん、戻りましょう」


「あの、ゼノさん? 一体何をしたんですか?」


「ええ。ウェイデン遺跡の討伐依頼ですよ。これで、冒険者の誰かがウェイデン遺跡のゴブリンを全部やっつけてくれます」


「えぇっ!? そんなっ!」


 僕の思わぬ言葉に、チェリルがそう大声を上げる。

 そして、冒険者ギルドに女の子が来ること自体が珍しいため、周囲の男性たちが「なんだぁ?」と視線を向けてきた。

 チェリルが下手なことを言う前に、早く退散しなければ。

 と、思っていたのだが。


「冒険者さんって、そんなに凄いのですか!?」


「……」


「わたし、一生懸命ゴブリンを倒そうと思っていました! ゴブリンってすごく怖いけど、頑張ろうと思っていたんです! なのに、全部倒せちゃうんですか!? 冒険者さんって凄いんですね!」


「……」


 周囲の強面が、ちょっと口元を緩ませていた。

 ぽりぽりと、照れ隠しに頬を掻いたり鼻をさすったりしている。へへっ、と軽い笑みを浮かべる者もいた。

 それもそうだ。

 冒険者は嫌われ者のはぐれ者。こんな風に、素直な賞賛などほとんど受けたこともあるまい。


「よぉし! わたしも冒険者に登録します! わたしも強くなります!」


「……まぁ、別にいいですけど」


 チェリルが嬉しそうに、楽しそうにそう言うのを、アウトローたちが微笑みながら見守る。

 そんな、謎の空間が完成していた。


「登録料、銀貨五枚いりますよ」


「えっ、財布がありませんっ! まさか落としたっ!?」

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