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魔装具シリーズ  作者: 元日
1/1

魔剣

 その魔剣は、折れず、曲がらず、長さ太さも所有者の望みのまま、さらに、亜竜と戦える力を授ける。但し、その所有者は必ず、呪われる。



 「そうか・・・これが魔剣の呪いだったんだ。」

 目の前の女にしか届かないそのつぶやき。暗い部屋の中、男の声は、力なく、絶望に包まれている。彼はようやく、自分の状況が理解、いや実感できたのだ。

 女もまた、呪いを実感している。

 「大丈夫。きっと方法はあるはず。2人で探し出しましょう。」

 言葉で、そして態度で、励ますが、魔剣の前所有者は長い間、呪いに苦しんできた。解決までの道のりは、遠く厳しいものになるだろう。

 「お願いだ!見捨てないでくれ!」

 男には、女がこれからの苦労を想像しているのが分かる。それは、この数日間、前所有者の苦しみを見てきたからだ。

 「もちろんです。これは、貴方だけでなく、2人の愛を試される私達の戦いなのです。」

 まだ、夜は始まったばかり、太陽はまだまだ登らない。



 「ゴブリン、いませんね。」

 「まあ、慌てるな!アレックス。ギルド情報では、奥の湖にゴブリン5匹の目撃例があるんだ。それと、そろそろ警戒のため、無駄口は控えてくれ!」

 「了解です。」

 森の中を探索しながら、パーティリーダーのクライムに声を掛ける。俺は、冒険者だ。といっても、まだ、登録してまだ3日目のFランク冒険者。王都から相棒兼恋人のヘレナと来て4日目だ。登録してから、張り切って2人で、森の中を歩き回ったのだが、魔物どころか、ネズミの1匹も接敵できない。見かねたギルドが紹介してくれたのが、クライム率いるCランクパーティ “ ライオンハート ” だ。 彼らは、ギルドに依頼されて、時々、新人の指導をやっている。探索方法、剥ぎ取り方法等、冒険者のイロハを教えてくれるのだ。王都では、1対1の剣の稽古はやってきたが、そちらは初心者。依頼達成の褒賞は3割引きになるが、クライム達には本当に頭が上がらない。

 

 先行していた斥候役のハミルトンが、無音で戻ってきた。皆に状況を報告する。

 「発見した。ホブゴブリンが2匹。ゴブリンが6匹の計8匹。ホブは剣持ち。ゴブはこん棒持ちだ。こちらが風下になる。」

 「8匹か・・・」

 目撃例より、3匹多い。しかも武器持ちだ。ライオンハートはクライム、ハミルトンに盾役のギデオンの3人パーティ。そこに、俺達が加わって計5人。冒険者は怪我すると、即、食えなくなるので、リーダーとしては悩みどころだろう。

 「クライムさん、俺達は冒険者は新人だが、これでも王都では、名の売れた剣士と魔法使いのコンビだったんだ。人型の魔物相手だったら、まかせてくれ!」

 「クックック ひよっこどもが、生意気なことを言ってくれるぜ。」

 「預かりもののお前達が怪我をしたら、俺達がギルドに叱られるんだぜ!」

 「よーし!やってみるか!ハミルトンはこちら側から1番近くにいるゴブリンを弓で射ってくれ!ヘレナは、ほぼ同時に、ファイヤーボールで真ん中付近にいるホブゴブリンに狙え!ギデオンは盾役だ。アレックスは俺とツーマンセルで、向こう側の森から突撃だ。タイミングは俺たちにあわせてくれ!」

 「ちょっと待ってくれ。向こう側の森は風上だから、ゴブリンどもに、ばれるぞ!」

 「いいんだよ。俺達にゴブリンどもが、注目するほど、ハミルトンとヘレナの攻撃が通るだろう!最初に突撃するのは、俺達だけど、最初に攻撃が届くのは、ハミルトン達だ。多分、ゴブリンどもはハミルトン達に反撃するだろう。ギデオンの盾もずっとは、もたないから、速くゴブリンどもを狩らないと、かわいいヘレナが、こん棒で殴られるぞ!」


 なるほどなー。やっぱり、剣術バカでは、冒険者は厳しいな!クライムと俺は森の中を通ってゴブリンどもの視線を迂回する。クライムは俺とほぼ同じ体格なので、彼の足跡をトレースして移動するのだが、凄いな!足音がまるでしない。それどころか、葉っぱ1枚も揺れない。このスピードで、このレベルの隠形を行いながら移動するのか!勉強になるな! それでもハミルトンみたいな斥候役と違い、ホブゴブリンは、気配を感じ取っているみたいだ。匂いか?移動中の姿は見られていないので、位置の確定はされていない。 俺達はハミルトン達とゴブリンどもを結ぶ直線上の森に到着する。直ぐに飛び出そうとする俺を抑えて、息を整えさせる。ゴブリンどもの配置は、ハミルトン側にゴブリンが2匹、そして、ホブゴブリンが2匹、さらに俺達側にゴブリンが4匹だ。匂いでこちら側を警戒しているのだろう。クライムは俺達側の4匹にA,B,C,Dと仮名をつけ、俺にC,Dがノルマだと指示する。攻撃目標はきちんと設定しておかないとお見合いになって、切られない奴が出るらしい。『残りはヘレナの魔法で分かんなくなるから、後は流れだよ!』と微笑む。うまくリラックスできる笑顔だ。

 「 行くぞ! 」

 俺達が飛び出すと、ゴブリンどもの視線が集まる。ブシュ!ハミルトンがゴブリンを射殺す。少し遅れて、ホブゴブリンにファイヤーボールが命中する。ゴブリンA,B,C,Dは、振り返ってファイヤーボールの火柱に呆然としている。俺達は背後からA,B,C,Dを刈る。狩るではなく、刈る。動かないのだから簡単だ!ファイヤーボールは風下にいた生き残り2匹も少し流れたみたいで、動きが鈍い。ギデオンの盾で抑えられていた2匹にとどめを刺す。


 俺達はゴブリンの耳を切り落として回収していく。ヘレナは死骸の焼却係だ。

 「なんて簡単なんだ!昨日までの3日間が、馬鹿みたいだ。」

 俺とヘレナの探索は、サイレンを鳴らして移動しているみたいなものだった。接敵が出来ないわけだな!

 「段取りがきちんと出来てたら、こんなものだよ。」

 「アレックスとヘレナも想像以上だった。王都で名が知れているというのも本当だったんだな!」

 「ヘレナなんて、ホブの耳まで焼いちゃったもんな!」

 ヘレナは照れくさそうにしているが、皆、責めているのではなく、笑い飛ばしている。気持ちの良い連中だ。後は帰るだけ。楽しい時間はあっという間に過ぎていく。 つまり、あれだ。 油断していた。

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