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契約書の穴

かるく読めるIF日常

「もしも○○が△×になったら」

 山田春香は仕事が休みである日曜日に携帯電話ショップに足を運んだ。目的は壊れたスマートフォンの機種変更だ。店頭に置いてある本物で操作感を確認し、機種変更に入る。

「それでは確認させていただきます。お客様以下の内容にご不満な点が無いようでしたら契約書にサインをお願いいたします。ハイ」

 店員は徹底的に柔やかで低姿勢だ。甲が乙に・・・何語だ?何が書いてあるのがまるで分からないがとりあえず二十四回ローンで支払うことだけ分かった。契約書にサインをする。

「毎度、どうもありがとうございました!」

 店員全員が笑顔で見送ってくれる。儲かるからだ。早速自分のものになった新型スマートフォンに予備バッテリーで充電しながらSNS、無料メール、愛用アイテム課金ゲームアプリをインストールする。早く誰かと繋がっていることを確認して、ガチャを回さないと死ぬ。誰よりも早くつぶやきにイイネ!をしないと!ガチャでいいカード引かないと!

 翌日。春香はコンビニエンスストアのお弁当工場ラインに立っていた。春香の仕事は機械が作ったご飯の固まりを手で伸ばす作業だ。機械が型枠に押し込んで作ったご飯は美味しそうに見えない。人間が手で盛り付けたかのように見せないと売れない。と上司は言う。

 コレが一日中朝の八時から夜の八時まで続く。昨日新型のスマートフォンを買ったからその分を稼がないと。そう自分に言い聞かせ作業に従事する。金さえあれば朝から晩までひたすらスマートフォンでアイテム課金ゲームアプリで遊んでガチャを回してSNSにつぶやいていたいというのが山田春香の野望だ。

 仕事なんてだるいだけ。仕事の生きがいって何?同僚で昭和時代の年寄りパートが昔はあったと言っていたが理解不能だ。仕事に生きがいがある訳が無い。ネットこそ正義だ。

 現実世界ではしがない弁当工場のパート工員に過ぎない春香も、スマートフォンさえ手にすれば、凄腕の美青年剣士を400人召し抱える天下統一目前の戦国武将だ。兼任で世界を滅ぼす大魔王を倒す攻撃力5999の選ばれし勇者と女子高生バンドデビューも同時進行中である。当然パーティーも全員美少年。むさ苦しいおっさんと旅行なんて出来ない。

 昼休み、社食の早くて安いだけが取り柄のたぬきソバを腹に押し込み、スマートフォンに貯まった時間制無料ポイントを消化していると食堂のテレビがニュース番組に切り替わった。

「この法案改正で、今までは二通で良かった契約書が、四通必要になるわけですよね?」

「はい。従来の契約書以外に『ふつうの日本語』で書かれた契約書が新たに加わります」

「この法案に違反する契約は当然無効、無視した業者には罰金&刑事罰が適用されます」

「今、若者の間で流行しているSNSやスマートフォン課金ゲームアプリにあまりにも悪質な契約が多すぎて、国民のプライバシーが悪質な第三者に流れているのを防ぐ目的です」

 仕事が休みの日曜日に、春香はまた携帯電話ショップに足を運んだ。スマートフォンの契約書作り直しのためだ。順番が来て椅子に座ると、机に紙が三枚置いてあった。右側は先週見た内容がびっしり書かれた難しすぎる契約書、左側はほとんど真っ白で三行か五行書かれているだけだ。真ん中にはびっしりと春香の個人情報が書かれている。何だろう?

「え?本名に、住所、年齢、スリーサイズ、どこに行ったかわかるGPS位置情報、勤務先、クレジットカードの借り入れ金額、年収、家族構成、SNSに一日でつぶやいた数、寝ている時間帯、趣味に、好きな声優、ミュージシャン、スマートフォン通販で何を買ったか、ネットで何を検索したかまで全部ネットに流れていたの?ウソ!あの法律が出来なかったら、今頃自室でレイプされていたのかも!」

 店員から説明される。

「契約書は厳密に書いたり、悪用されたり誤解や曲解されないように書けば自然とああいう文章になります。でも今のネット社会で契約を結ぶ人にまず必要なのは『ふつうの日本語で書かれた文章』です」

 山田春香が左側の紙を見る。

「このアプリに入力された個人情報は第三者に転売許可します?ヤダ!でもガチャ引くだけで七万円で、あんなに課金して育てた美青年剣士とお別れしないと駄目だなんて辛すぎる!個人情報を絶対収集しないタダの美青年ゲームアプリは落ちていないの?音楽、画像、アニメ動画、ゲームアプリ、その他の電子データは全部ネットにタダで落ちているのが当たり前なんでしょう?」

 店員はかしこまって言う。

「絵を描く、歌を歌う、小説、ゲームアプリを開発する、保守、運営するのにも、お金がかかるのですよ」

「音声検索アプリを使いたければ位置情報と欲しいもののプライバシーをよこせ?イヤ!」

「イヤだでは駄目です。ネットは確かに自由です。でも、うま味が無ければ誰も何も手に入れることはできんのです。ネットという穴に何の個人情報は入れるか入れないかは自分で決めないと駄目なのです」


ネットで個人情報が絶対守られる保証はない。

勉強しない奴は個人情報を全部抜かれて、利用されるだけ。

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