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竜とエルフと異邦人  作者: 瑠璃色はがね
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世紀末を生き抜いた蛮族

 俺の名前は佐倉さくら 竜人りゅうと

 東京都23区内に暮らす男子高校生の17歳。


 住居は東京都千代田区神田あたり、分かりやすく言えば「秋葉原」近辺で生まれ育った生粋の都会っ子だ。

 別にアキバが地元だからといってIamオタクです! というわけでもないんだけどね。

 勿論ゲームもするし、アニメもみるし、漫画も読みはするけど、モンハンやったりジャンプ読んだりする程度の、いわゆるライトユーザーと呼ばれる分類だ。

 友人に自らを「オタクの終着点デッドエンド」と自称する人物が居るため、知識だけは彼経由で結構あるとは思うのだけれど、まぁその程度のふわーっとした奴と思ってくれ。

 どちらかといえば二次元より三次元の女の子が好きだし、モテたいと思って楽器をはじめたり、モテたいと思ってオシャレもしたりする、本当にどこにでもいる高校生の一人だ。

 

 まぁまぁ俺のプロフィールはこのくらいにして。


 事の始まりは西暦2018年の冬。というか元旦。

 同級生達と初詣ついでに新春セールでも行こう!と言う事で、仕度をして家の玄関を出た所、見慣れた家の前の道路ではなくこの酒場?に突然出てしまった今現在。

 来た道というか出てきた扉から自宅に戻ることも適わず、途方にくれているわけで。


「こういう時、マジでどうすればいいんだ……」


 多分この状況は終着点デッドエンド氏が言う「異世界召喚キター!」というやつなのだってのは、俺でも何となくわかる。

 もしかしたらゲームの世界に召喚されました、みたいなパターンかもしれないけど、まぁぶっちゃけどちらも大差ないと思うんだよ。

 だってここが日本じゃないのだけは間違いないのだから。


「とりあえず、だれかに声をかけてみるべき…………なのか?」


 店内……でいいのかな? 目の前に広がる景色を改めて眺めてみる。

 向かって右手のテーブルには、鎧を着た外国人っぽいマッチョなお兄さんが3人ほど食事をしており、左手のテーブルでは頭に動物の耳みたいなのが生えた男女入り混じった4人が食事をしている。


 いやいや、このどちらにも声をかける勇気なんて俺にはないよ。

 そもそも何て声をかければいいんだ? まさか普通に「すみませんここ何処ですか?」と聞けばいいのか?

 ていうか言葉がそもそも通じるのかも分からないじゃないか。

 あ! こういう時はスマホにある翻訳ソフトに話しかけてもらえば何とかなるのかもしれない。

 

 俺は上着のポケットからiPhoneを取り出すとSiriさんを起動しようと試みるが、まぁうんそうだよね、圏外だよね当然。

 画面には「Siriは使用できません。インターネットに接続してください」という無情な表示。

 むしろこの場面でスマホ使えたらそれこそ混乱してしまいそうだ。

 改めて画面左上の「圏外」という表示を確認し、スマホをポケットにしまったのと同じタイミングで。


「おい兄ちゃん―――」


 突然、ふっと視界が暗くなり、上のほうから男性らしき声が聞こえてきた。


「…………えっと、俺?」


 これは、目を合わせたり応じない方が良かったかもしれないと後悔しても、後の祭り。

 恐る恐る視線を声がした方角、つまり俺の頭よりも上の方へと向けていくと……


「他に誰がいるってんだ。アンタだよ派手な服の兄ちゃん」


 身長は恐らく2メートルに到達しているであろう、ムキムキマッチョで真っ黒な鎧を身に着けた―――モヒカン頭の巨人がそこに居た。


「俺お金なんて持ってないですよ!」


 咄嗟に出た己のチキンっぷり満載な台詞が悲しくなりそうだったが、今はそれどころじゃない。

 やばい、死ぬかもしれない。 俺にどんな奇跡が起こっても目の前の世紀末を生き抜いた蛮族みたいな人に勝てる未来が見えない。

 今すぐ胸に七つの傷とか作っても絶対に勝てない。

 俺の実家は一子相伝の格闘術なんて伝えて無いし、経絡秘孔の一つすら知らない凡人だ。

 指先一つでダウンさせられそうな外見してるのに、今ここでダウンさせられる側なのは間違いなく俺。

 それくらい圧がすごい。ていうか顔が怖い。怖すぎて漏らしそう。

 この人に絡まれるなら新宿に居る強面のお兄さんとかに声をかけられる方がまだマシというくらいに怖い。


「ほんとマジ勘弁してください!」


 思わず一歩、二歩と後ろに下がりながら、俺は世紀末モヒカンから距離をとる。

 とにかく今は、この人ヤバそうな人に絡まれてしまったという状況を打破するのが最優先。

 生きていてこその人生! 水とかガソリンとか着ているものを差し出すくらいで命が繋げられるなら迷わずそうしよう!

 また16年しか生きて無いのに無惨に飛び散るわけにはいかない!

 水もガソリンも今持ち合わせないけど!


「ちょっとザック! その見た目でいきなり声をかけるんじゃぁないよ。怯えてるじゃないか」


「ん? あぁ! そうだったスマン…………つい、いつもの癖でな」


 あぁもうこれは漏らしたかな。最悪脱糞までいくかもしれない等とテンパりにテンパっていた俺の耳に、やんわりとした女性の声が聞こえてくる。

 目の前の巨体が、その声のする方へと顔を向けてなにやら話しているが、俺には何がなにやら分からないままだ。

 どうやらこの世紀末モヒカンの名前がザックというものらしいというのは分かったのだが、名前が分かっても俺の生命の危機は変わらない。

 誰でもいいから助けてくれるならマジで早く助けて! と祈っていると、ザックの後ろから一人の女性が顔を覗かせてきた。


「ごめんよ坊や、こんな人を殺すのが趣味みたいな悪人面にいきなり声をかけられて怖かっただろう?」


 「うん!マジその通りっすわ!」と言いたくなる台詞を投げかけてきたのは、思春期の男子高校生には刺激的な紫色のチャイナドレス?みたいな服を着た、赤い髪をしたセクシーなお姉さんだ。

 こんな状況でも思わず前かがみになってしまいそうなほどに、そう、なんていうかもう日本に居たら間違いなくグラビアとかにスカウトされそうなエッチすぎる格好のお姉さんは、長い赤髪をふわっとかき上げながらザックと俺の間に割り込むようにしてこちらへと来る。


 あ、めっちゃいい匂いする。胸の谷間が半端ない。

 揺れた! めっちゃ揺れた! なんだこのエッチが服着て歩いてるみたいなお姉さん。


「アタシはベアトリーチェ。ベアトって呼んでおくれ」


「あ、はい」


 1mもない至近距離で、にっこりと笑顔でそう告げるベアトのおかげで俺はいくらか冷静さを取り戻せたようだ。

 その代わり、思春期の男子高校生が備える本能エロパワーの方が冷静さを失いつつあるけど。

 多分いま俺、顔真っ赤なんだろうなぁ。

 数秒前とは全く違う意味で鼓動が早くなってるのが自分でも良くわかる。

 へっ! 男っなんてこんなもんだよ!


「フフフ……赤くなっちゃって可愛い」


 ほらやっぱり真っ赤なんじゃん!

 仕方ないでしょう! こんなエッチなお姉さんが目の前にいるんだもの!

 地獄から一転して天国! みたいな状況に喜びそうになってる自分の単純さのおかげか、もう一段階俺は冷静になれつつあった。

 何度か軽い深呼吸をして、俺はようやっと最初に考えていた言葉を口にする事ができそうだ。


「あの、ベアトさん? ここって……何処なんでしょうか?」


 そう。まずは現状の確認をする。

 今の俺がやるべき事はそれなのだ。

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