玄関を抜けると、そこは異世界だった。
玄関を抜けると―――そこは異世界だった。
木造の吹き抜けた店内。
巷でよく見るオシャレなカフェという感じではなく、木造だけど質素といった感じの内装。
天井から壁から床まで全てが木製というのは、現代日本だとあまり目にしない建築物かもしれない。
カウンターの奥にはウエイター? らしき人物が複数人佇み、それぞれに注文を待つ人らしき列が出来ている。
店内と称したのは、1階に相当するであろう場所に円形のテーブルが多く並べられ、各テーブルでは料理を飲み食いしている人物や、そこいらをウエイトレスらしき女性が複数人歩いているのが見受けられたからだ。
異世界と称したのは、視界に映る人々が皆「鎧を着た人間」であり、更には「人間ではない生き物」達も大勢その場にいたからである。
あのステーキみたいなのを食べてるトカゲみたいな人? が特殊メイクや着ぐるみだとも思えない。
出来れば思いたいけど。
「いやいや……なんだよこれ」
ギィィィ……パタン。と、自分の背後で扉の閉まる音が聞こえ、呆然としていた俺の意識が、ようやっと我に返ってくる。
これは夢だ。そう白昼夢だなと決め付けて、今しがた自分が出てきたであろう背後にある扉の取手に手をかけて開く。
ガチャリと勢い良く開いたその先に自宅の玄関はなく、掃除道具などを入れておくのであろう、小さな倉庫と思われる部屋があった。
見慣れた自宅の気配は微塵もなく、薄汚れた箒や木製のバケツが適当に置かれている。
すぅー、はぁー、と一度だけ深い深呼吸をして、俺はゆっくりと開いた扉を閉めなおした。
徐々に、徐々に、手や足がプルプルと震え始めてくる。
受け入れ難い現実が、1秒ごとに俺の脳内を真っ黒に塗りつぶしていく。
「ちょ……まっ…………まって。マジでちょっと待ってくれ…………」
改めてもう一度言おう。
玄関を抜けると、そこは異世界だった。