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月のてのひら(ヒューマンドラマ)
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そのとき私は五歳だった。
だけど、「弟はどこへ行ったの」なんて無邪気に聞けはしなかった。
涙の跡が残る母の赤い目元を、悔しげに引き結ばれた父の唇を、照らす満月。
漠然と、もう会えないと悟った。
三年ぽっちの家族などすっかり忘れ、のびやかに成長したと、両親はそう思っている。
そう思わせておいて、あげたくて。
だからこんな夜は、弟よ。
月を見ると、あなたの小さな手を思い出す。
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2020/04/10(金) ジャンル:ヒューマンドラマ




