369/514
機織りの蜘蛛(ましのさん)
●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●
蜘蛛の娘は機を織る。
娘の知る、他の何よりも美しいもの。
自らの身体で染め上げた糸を使って。
唇から滴る血をくぐらせた糸は真紅。
くるぶしにのぞく静脈の青紫。
見事な巻き毛の色を写しとった糸は黄金。
織り上がった華やかな布は女神の婚礼衣装となることに決まっている。
娘の手には何も残らない。
それでも娘は糸を紡ぐ。
何よりも艶やかな布を、心に知ってしまったから。
●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●
2019/05/14(火)
まっすぐで、あえかな文章をつづるましのさん。
その指先から生まれる物語のいかに真摯で愛らしいことか。
心を砕いて紡がれる言葉はきっと、誰の為でもなく美そのもののためにあるのだと思うのです。
誰よりも不幸で、誰よりも幸福な、そんな物語の主人公です。