壊された秘密基地(ヒューマンドラマ)
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セミの死骸が道を埋め、冷蔵庫にいっぱいだったスイカもあと少し。
夏は過ぎていく。夏休みが終わればキミはまた都会に戻る。
晩ごはんのカレーを食べながら、キミと僕は黙って頷きあった。
逃げよう、一緒に。子どもだけでもきっと大丈夫。
夜は秘密基地で寝れば良い。お腹が減ったら道端のイタドリをかじるんだ。
僕の教えたたくさんの遊び場で、ずっとキミと。
永遠に続く、幸せな二人暮らしのはずだった。
だけど、堅牢な秘密基地は、バリケードを引き剥がした大人達の手で、あっという間に破壊された。
暴れる僕とぼろ泣きするキミの手は、簡単に引き剥がされた。
夢想のお城だった秘密基地の跡を眺めながら、僕はそっと片手を上げる。
あの日ぎゅっと繋いでいた左手の薬指に、銀色に光る輪っか。
僕を見つけて近寄ってきたキミが、僕の肩を叩く左手にも、同じ指輪。
僕の視線を追いかけて、キミは苦笑する。
「スーパーから拾ってきたダンボールじゃ、バリケードにはちょっと弱かったね」
「あの瞬間はね」
僕は、小さな公園の古ぼけたトンネルから視線を戻した。
笑い合う僕とキミの、新しい秘密基地はすぐそこに。
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2018/01/26(土) ジャンル:ヒューマンドラマ




