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魔法の国の王子さま(ファンタジー)
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君にだけ見せてあげる、と囁いた。
唇にかざされた指先を一振り。
幼い私にとって、彼の魔法は完璧だった。
お人形達は歌い踊り、折り紙の鶴は空高く羽ばたく。
子どもにはタネなんて分からない。
ただじっと見つめていたの。
彼がいなくなって、最初は寂しかったわ。
だって、いつも一緒だったから。
だけど、いつしか思い出も薄れて、諦める気になったの。
彼の魔法は子どもの妄想だったんだって。
もしかしたら、彼自身丸ごと。
――なのに。そのはずだったのに。
はためくセーラー服の裾を押さえた。
足元に、ばさり、巨大な鶴が舞い降りる。
鶴の背中に乗っている背の高い男の子。
こんなに時間が経ってても、すぐに彼だって分かってしまったわ。
成長した彼が「迎えにきたよ」と笑って手を伸ばす。
私も笑ってその手を取って――
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2018/10/09(火) ジャンル:ファンタジー