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1,これから彼女たちの話をしよう


 運命の赤い糸、などというものを信じるか否かなんてのは、合コンのネタ話にもならないくらい、どうでもいい話だ。


 大抵の人は知識として知ってはいても、本気で信じる割合はごく少数だし、(むし)ろいい歳こいて信じ込んじゃってる手合いには、即座に結婚コンサルか精神病棟をお勧めせねばなるまい。

 言うまでもなくぼくだって、太平洋の海底にムー王国の巨大遺跡群が眠る可能性と同じ程度には、真に受けちゃいなかった。


 しかし一方で――シンデレラだの白雪姫だのの男女逆転版と言うべきか――自分を好いてくれる理想の女の子が恐らくこの世のどこかにいて、いつか運命的な出会いを果たすのではないかという願望は、(おぼろ)げながらも確実に心のどこかにあって、しかも未だに否定しきれていないという事実も、認めざるをえなかった。


 今までこそ音沙汰は無かったが、そのうち理想の女の子がふらりと現れ、きっと自分を迎えに来てくれる……とか、ぼくはあえかに祈っちまってるのだ。

 そんな考えが思い上がり(はなは)だしくも、ついうすら浮かんでしまうのは、世の中にあまた出回る創作作品の影響によるところが大きいと思うね。


 思い浮かべてほしい。

 どんな作品だっていいけれど、よほど硬派な作風でない限り、いかに冴えない主人公にも、彼に想いを寄せるヒロインがいるものだろ?

 それが恋愛ジャンルなら尚更(なおさら)で、中には異常なまでに主人公に執着して、他のものが目に入らないヒロインだっている。いわゆるヤンデレってやつだ。

 愛が暴走するあまり、精神に異常をきたしたり、日常生活すらままならなくなったり、あまつさえ犯罪行為に及んでしまうヒロインもいて……ああ、げに美しきかな、純愛の具現。


 そうした作品をせっせと読み漁ることで、ぼくみたいな思春期少年は、(とぼ)しい人生経験を擬似(ぎじ)的に補っているのだ。

 ある友人は「お前は厨二病か」と評したけれど、あながち間違いでもないと思うね。

 かくして、仮想の恋愛経験だけやたらめったら豊富な童貞野郎が一匹誕生、というわけである。


 そんなこんなでぼくは思うのだ。

 アニメがラノベが漫画がドラマが映画が描く恋愛劇の、なんと魅力的なことだろう、とね。


 ぼくもあんな恋愛がしてみたかった!

 まるで空から降ったように理想の幼女が現れて、ぼくを愛の巣に監禁してしまうような、そんなドロドロした恋愛がしたかった!


 肉親知人友人を捨てて駆け落ちしようと企む小学生妹に拉致されたり、毎朝隠し味の体液が入った料理を幼馴染み小学生に振る舞われたり、神的な謎パワーで世界を何度となく滅ぼしたり再スタート出来る謎チック小学生に脅迫同然に結婚を迫られたり。 

 つまりそんな感じでねっとり感満載の組んず(ほぐ)れつがしたかった!


 ああ、恋愛対象が小学生ばかりである点は気にしないで欲しい。誰だって人には言いにくい性癖の一つや二つ、隠し持ってるものだろう。

 ぼくにとってのそれはロリータ・コンプレックスで、つまり幼稚園の年少さんから中学一年生までの女の子しか愛せないという仕様のオペレーティング・システムが、このちっぽけな扁桃体にプレインストールされているのさ。


 何はともあれ、毎日のように理想的なヤンデレ幼女との邂逅を願うぼくであったが、しかし現実ってやつは思い通りに行かないものらしい。

 実際のところ、妹なんて両親は作る気なさそうだし、歳下の幼馴染みなんてぼくにはいないし、漫画雑誌が紹介する星座を使った恋(まじな)いを試しても、謎めいたマジカル幼女が空から舞い降りてくることはなかった。


 それはそうだ。

 だいたい冷静に考えて、そこまでの偏執的好意を寄せてくれる幼女がいるものか。ましてやこんな何の取り柄もない只のいち男子学生に。

 やはりぼくには主人公たる器なんぞ無いのだと自嘲しつつ、人生のハードモードぶりを噛み締めつつ、退屈な十五年間が過ぎて、中学を卒業した。


 要するに、分相応(ぶんそうおう)という言葉を覚えたんだ。

 高校へ入る頃には、クラスの(すみ)っこでうつうつしている、読書好きの物静かな少年――。

 そんな立ち位置にぼくは収まり、今日も学生生活という名のモラトリアムを漫然と食い潰す。

 交友関係といえば、仲の良い男友達が何人かいるだけ。やる事といえば、そいつらと休み時間に暇を潰したり、忘れた宿題や弁当のおかずをやり取りしたり……。


 レンアイ? ヨウジョ?

 ま、なるようになるだろう。

 巡り合わせが良ければ出逢えるだろうし、そうでなければずっと独りぼっちのままでいい。

 消極的とか退嬰(たいえい)的とか言ってもいい。甲羅(こうら)(こも)る亀だ、独りよがりだと(けな)してもらっても構わない。

 誰だって自分が可愛いのさ。


 きっと明日も、明後日も、このしみったれた日常が続くのだろう。

 それでも構わないとぼくは思っていた――



 ――ふたりの女の子に出逢うまでは。


 確かにひとりはロリだった。

 確かにひとりはヤンデレだった。


 ぼくが十五年の人生を通して、こそこそと積み立ててきた消極的退嬰的スタンスに、しかし彼女たちはNOを突き付けた。

 独りよがりで住み心地の良いぼくの世界に、彼女たちはあっさり侵入を果たし、躊躇(ちゅうちょ)なくぶち壊した。


 女子小学生でありながら孤高を貫き、人生を達観したかのように振る舞ってはぼくを魅了した女の子。

 女子高校生でありながら情愛に溺れ、ところ構わずぼくにくっ付いてはトラブルの種を撒いた女の子。



 ――ぼくが語るのは、そんな女の子たちの物語だ。


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