第八話
ドルスはゴブリンキングに切りかかるが、難なく避けられる。
すでにその剣速は落ちていた。
「たしかに、ゆっくり話もできませんね。さすがにゴブリンキングともなると無詠唱でどうこうできません。それでは」
ポートは一呼吸着くと、構造修飾言語を唱えた。
「火の第四級魔石よ我が呼びかけに応えて力を表せ」
「魔石使いだと!」
驚愕しているドルスが横目で見たのは、ポートの右手に握られた卵大の赤い魔石。
そして、さらなる構造修飾言語が唱えられた。
「魔石よ我が交信に応え剣となり給え」
ポートの手にあった魔石が赤い光を放つ。
それは一本の火柱。
それは炎の剣。
本能によるものか、それを恐れたゴブリンキングが大剣をポートに向け、振り下ろす。
それは一歩引いたポートの前髪を数本散らすに終わり、体勢を崩したゴブリンキングに対してポートが無造作に炎の剣を振るうと、ゴブリンキングは辺りに肉の焼ける匂いを漂わせながら真っ二つとなった。
さらに返す刀で、自らのボスを一撃で倒され、呆然としていたゴブリンたちを二匹葬り去ると、我に返ったゴブリンたちは慌てて逃げだした。
ポートはそのうちの一匹に目掛けて、いつの間にか手にしていた小さな魔石を投げ、構造修飾言語を唱える。
接続は既に済ませていたため、無詠唱で十分だった。
(魔石よ砕けて散れ)
小さな魔石が砕け、巨大な炎となってゴブリンを黒こげにして消えた。
「このゴブリンキング、どうしますか」
我先に逃げ出したゴブリンを追うだけの気力もなく、その場にへたり込んだドルスに対して、ポートが言った言葉だ。
ポートの手にあった炎の剣は既に魔石に戻り、そして砕け散っていた。
ドルスは何の話か怪訝そうな顔をしたが、すぐに報酬と思い至り、ゴブリンキングキングを指しながら言った。
「ああ、いろいろと突っ込みたいことはあるが、それは置いておいて、お前が倒したんだ、お前の物でいい。そのへんのゴブリンもな」
「ありがとうございまs」
「きゃーなにこのかわいい生き物!」
ポートのお礼の言葉はレビテーションを終えた赤いソバージュの女魔法使いに抱き締められたことで遮られた。
「小さーい、髪きれーい、顔もかわいー!」
黒いローブごしにも大きさがわかる胸の間にがっしりと顔をホールドされたポートは必死に逃れようとするが、しっかりと抑えられて逃れられない。
しばらくじたばたともがいていたが、やがてぐったりと動かなくなり、ドルスはそうなって慌てて魔法使いを引きはがした。