第四話
前回の話
片腕を切り落とされ、バグベアーの前に放り出された赤子の前に現れたのは老人だった。
老人はバグベアーをあっさりと倒し、赤子を救う。
それから十五年ほどの月日が流れた。
「じっちゃん、今日は猪だよ!」
腰まで伸びたために後ろに縛った白髪が跳ねるほどの勢いで、その子は玄関の扉を開けて中に飛び込んだ。
小さな小屋の中はごちゃごちゃと色々な物が所狭しと置かれており、その2つあるベッドの一つに老人が横たわっていた。
「じっちゃん、早く元気になって!」
「ポート、すまんが水を」
ポートと呼ばれた子供は慣れた手つきで青色の石と木のコップを手に取り、その金色の右目で石を見つめる。
すると石から清水が湧き出た。
その水をコップに溜めると、老人の枕元へと向かい、片手で老人を抱き起こし、コップを老人の口へと運ぶ。
老人がコップの水を二口飲んで目で合図すると、少年は残りの水を自ら飲み干し、コップは洗い場へ投げ入れる。
「じっちゃん、今から食事の支度するからね」
子供は手慣れた様子でエプロンを被り、背中の紐を結んだ。
「ポート、聞いておくれ」
庭に吊るした猪を取りに戻ろうとしたポートだが、老人に呼び止められ、そのいつもと違う真剣さに立ち止まった。
「ポート、わしはもう駄目じゃ」
「じっちゃん、そんなこと言わないで。猪の…………」
「ポート、お前もわかっておるじゃろ。わしの命が残りどのくらいなのか。老いには勝てぬのじゃ」
ポートにもわかっていた。
自分を十五まで育ててくれたこの老人の命の灯が残り少ないことを。
ポートの右目の魔眼、金色の異色虹彩が、それを捉えていた。
老人の生命力の最大値はもはや僅かしかないことを。
「ポート、聞いておくれ」
老人が、枯れて皮と骨しかないような手を伸ばし、棚を指さす。
「その棚に手紙が入っておる。この日が来たときのために書いておいたものじゃ」
ポートの黒い左目から涙が溢れる。
「その手紙をイスカ―のセフィリアに渡しておくれ。お前の力になってくれるはずじゃ」
そこまで言うと、老人の手が力なく垂れさがった。
もはや腕を上げるだけの力も残されていないのだ。
「お前にはわしの全てを教えた。これからは魔石使いのポートと名乗るがいい」
「やだよ、死んじゃやだ!」
老人の口元に笑みが浮かんだ。
「初めてじゃな、お前がわしに嫌と言ったのは。十五年前、お前を森で拾ってから初めてじゃ」
ポートは老人の言葉を聞き逃さぬように涙をこらえる。
「ポート、わしからの願いを聞いてくれぬか」
「…………なあに?」
ポートは無理矢理笑顔を作って、応える。
「わしはもう一刻も保たぬ。わしが死んだら家ごと葬っておくれ。この家で必要なものは持っていって構わん。特に魔石は全て持っていけ。頼んだぞ」
今度は応えない。
「ポート、お願いじゃ。わしの最後のお願いじゃ。聞いておくれポート」
「…………わかったよじっちゃん」
「そうか、わかってくれたか。わしは色々と無茶をしたが、最後にお前を立派に育てられてよかっ」
老人の言葉は最後まで語られることはなかった。
大魔石使いマール・マクリルはその生涯を閉じたのだ。




