第三十五話
ポートが使用できる魔石はあと十数個であった。
そのうち、茶の魔石は二個。
これでコカトリスの石化を防げるのは恐らく三分程度であろう。
厄介なことに、このダンジョンに来てからというもの、魔石が補充できていない。
利用できない赤い魔石だけは百を超える数、持っているのだが使えないのでは意味がない。
コカトリスは石化を使うが、その属性は火属性である。
よって、攻撃には水属性の魔石を使いたいが、それは一つしか残っていなかった。
残りの魔石は警報に使用してしまったのだ。
同様に火属性は料理に使用し、残っているのは風属性の魔石だけである。
もし戦うのであれば、風属性は自らの速度上昇に使用し、土属性で石化を防ぎ、水属性の魔槍で切り倒すという手になるだろう。
さすがに厄災級の魔物であるコカトリスがやたら居るはずもなく、コカトリスは階層ボスであり、イスカーダンジョン最下層のように、この階層全体がボス部屋扱いなのだろうと、ポートは予想していた。
コカトリスを倒せば、転移門が出現するかもしれない。
そうすればこのダンジョンから脱出して、イスカーへと戻れるかもしれない。
最下層という特殊な状況で起こったボス部屋階層全体化が、このダンジョンでも起こる可能性は低く、またジャイアントシルバーキラーアントがどこから魔石を得ていたのか――――すなわち他の魔物を倒して得ていた――――を考えれば、そんなことはありえないだろう。
だが、ポートはそんなありえない希望に縋ってしまった。
限界まで精神が追いつめられていたポートは縋らざるを得なかった。
「倒す」
ポートの目は暗い何かに覆われていた。
「あれを倒してイスカーに戻るんだ」
それを人は狂気という。
こうして、ポートは妄想の果てにコカトリスへ戦いを挑んだ。
ポートとコカトリスの戦いは石化を防ぐ三分では決着がつかなかった。
最後の魔石は先ほど使い切ってしまった。
失われている右腕のせいで崩れるバランス。
疲労により石化を避けられなかった左つま先。
この状態で、よりにもよってコカトリスと戦わなければならない。
それはポートにとって絶望とも言える状況だった。
必死に石化の視線を躱しても、それはただ無駄に死ぬまでの時間を延ばすだけとわかっている。
それでも。
それでもポートは避ける、躱す。
「え」
戦っているコカトリスの向こうから飛んでくる、もう一羽のコカトリス。
それを見た瞬間、ポートの心は折れた。
コカトリスの視線から放たれる、石化が直撃し、下半身から徐々に石化していくポートが最後に見たのは更なる絶望。
二匹のコカトリスが、巨大な何かに踏みつぶされる瞬間であった。
そして、ポートは石になった。
やっと、最初のシーンに辿り着きましたので、そろそろこの物語もおしまいになります。




