2
学校終りに近くの調剤薬局に薬をもらいに行った。一か月分の薬が数種類入った薬を持って私は家に帰った。
家に帰るとすぐにベットを背もたれにして、ため息をつきながら目を閉じた。ほぼほぼ瘢痕化した私の中の『彼女』という組織が体の中をゆっくりと流れていくのがわかった。それだけでだいぶ落ち着いた。心配も不安も全て忘れて眠ってしまえ。そう言われているような気がした。
私の人生を語る上で『彼女』の存在は欠かせない。『彼女』は私の頭の中に住むもう一人の住人で名前はソロアという。本来『彼女』に性別は無く、一人称も俺というのだが、私の中で異性という気がしないので『彼女』と表現した。
私はソロアに話しかける。
「きついけど、最悪だったときと比べるとまだ大丈夫だと思うよ。」
ソロアは私の閉じた瞼の裏にいた。彼女の輪郭が白いもやのように見える気がした。
「そう言って、お前はすぐに無理するからなー。」
ぽんぽんと頭をなでるように軽くソロアは私の頭を叩いた。それだけで、ああ私は一人ではないと少しだけ安心するのだ。
ソロアと出会ったのは中学生頃のことだ。はっきりと何時、どんな時とは覚えていない。ただ、学校でイジメにあい、学校に行かなくなり、そのことで親に言葉と体の暴力を受けている時だった。
それからずっと私の心はソロアと共にあり、一緒に生活を続けていた。いい時も悪い時も楽しい時も悲しい時も。
私はそれから無事にプール掃除に行った。コースロープの垢を落として、プールサイドをデッキブラシで磨いた。気温は高くなかったが、日当たりが良かったので体力を消耗した。上級生なのに上手く下級生に指示が出来なかったのが申し訳なかったが、無事に終わって良かったという思いの方が強かった。プール掃除には新一年生も来てくれた。先に卒業した私の同期の妹さんらしかった。目元がお姉さんに似ていて懐かしくなった。
弁当を女子部員と一緒に食べてから家に帰った。そしてすぐにベットに横になって泥のように眠った。日曜日も同じように眠り続け、私の休日は終わった。
また月曜日が始まった。うつ病の特徴であるが、朝方が一番体調が悪い。それでも月曜日は寝だめしているので幾らかましだった。
朝の気だるさを私は懐かしいと感じてしまう。中学時代に感じた気だるさに似ていると。
だが、あのときは義務教育で学校に行かなくても卒業はさせてもらえたが、大学はそうはいかない。若いときは多少やり直しもきくかもしれないが、二十歳を超えると中々難しいものがある。それを自覚しているから今は無理にでも学校に行くのだろう。
それに今の大学は医療機関と連携している大学だ。もし、大学で倒れても適切な処置で病院に運んでくれるだろう。
「家で倒れるより、学校で倒れた方が安心かもね……」と私はソロアに言った。ソロアは苦笑した。
鏡越しにソロアの顔を見る。ああ、きっと大丈夫だ。私はまた家に帰ってこれるはずだ。時間というのは良くも悪くも前にしか進まないのだから。
過去に痕跡は残してしまうけど……。