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プロローグ

突然だが、私はつつじの花が嫌いだ。

赤い花も白い花も鮮やかに咲く様も、花弁が崩れるように枯れる姿も眺めていると吐き気がするのだ。

それはおそらく、私の中の辛い記憶がそうさせるのだろう。

その記憶の中で、私は入学したばかりの高校のセーラー服を着て、校則で指定された白い靴と鉛のように重たい鞄を持っている。その鞄を川に投げ捨て、泳いでる鯉が教科書の破片を食べている姿をずっと想像していた。

当時の私の目には景色は古い映画のような白黒画面に近い色をしていて、まるで現実は夢の中の出来事のようにどこか捉えどころがなかった。ちょうど、ぼーっとテレビを見ているような感覚だ。映像も音も感覚器官は受容してくれているのだが、神経伝達をされた脳がそれを認識することを拒んでいるようだった。だけど、つつじの花の色だけは何故か認識出来て、通学路を彩った。その色があまりにも鮮やかで、色の信号が痛覚として受容された。頭の奥がひどく鈍く痛んで、胃酸は過剰分泌を始め、きりきりと吐き気をもよおした。

私はその脳に追い打ちをかけるように、吐き気と眠気を大量のカフェイン飲料でごまかしていた。

そうして三ヵ月間を過ごしたある日、私の体は突如動かなくなった。

襲ってきたのはカフェインではごまかしきれなくなった眠気。私は丸一日眠り続けた。

そこで回復して次の朝からいつも通りに学校に通えればよかったのかもしれないが、もう悲鳴を上げていた私の脳は外に出ることを恐怖していた。

当然の反応だとは思うが、親は私が学校に行かないという選択を最初は許してくれなかった。正確にいうと行かないのではなく行けなったのだが、それを伝える気力すら私には残っていなかった。


ある日、親にベットから追い出された私は親が仕事に行っている間もベットには戻らず、ソファーの上でうとうととしながら父親が購入したぶらさがり健康器具を見つめていた。近くには小学校まで習っていた空手の緑帯がしまわれているタンスがあった。

あまり何も考えずに私はその帯を健康器具に結びつけて、首を吊った。

気管が押しつぶされる感覚が今でも首に残っている。あと数秒首を吊る時間が長かったら、自分の体重で頸椎を骨折して死んでいたのかもしれない。幸か不幸かあまりの苦しさに耐えられず、私は帯から首を放した。だから、結果として私は生きている。

だけど、時々思うのだ。あのまま死んでいたとしても私は幸福だっただろうと。生きていて良かったと思うことはあっても生まれてきて良かったと思ったことは一度も無かったのだから。

もしも、私が死んだら通夜も葬式もせずに火葬だけして遺骨をゴミとして捨てて欲しいと遺書も書いた。その遺書は捨てた記憶がないので今もどこかにあるだろう。


もしかしたら、当時の私のように苦しんでいる人が現在進行形でいるかもしれない。だが私が今、生きているのは一つの結果でしかない。

私にはどうしても自死が悪いことだとは思えないのだ。辛い状況で選択を迫られたときの選択肢の一つでしかないように思うのだ。

だけど、当時の私と同じ年代の自死のニュースを見ていたましく思うのも事実だ。

自死は悪いことではない。だけど、私は顔も名前も知らないその子に死んで欲しくはないと思う。今は辛いかもしれない。学校が全てだと思っているのかもしれない。だけど、学校に通う期間なんて長い人生の何分の一なのだろうか?

これは大学に入ってから知ったことだが、その大学の偏差値が高いほど色んな人が集まる。一度、他の大学を卒業されてから入学している方もいるので年齢層も様々だ。中には私の親世代の学生もいる。

高校までは狭い世界に押し込められるが、その先は意外と広い世界が広がっている。それを私も信じたいと思うし、信じて欲しいと思う。

私は今でもつつじの花が嫌いだ。いつ子供の頃、花を摘んで蜜を吸った時のように楽しめるようになれるか分らない。だけど、いつかとそんな日がくることを心のどこかで願っている。

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