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第6話 慟哭

 その瞬間が、スローモーションのようにフミトには思えた。

 アリューナが杖を振るい、魔法障壁を展開した。

 アリューナとフミトはフィールドに覆われ、ドラゴンの灼熱の業火から守られた。

 だが、5人のデパガは直撃を受けた。

 HPゲージがフルからイエロー、オレンジ、レッド、バイオレットへとミリ秒単位で削られ、N(ノーマル)4人はグレーまで一気に持っていかれゲージが砕けた。

 スポーツ売場、私服警備員、アクセサリー売場、時計売場のおねえさんは燃えて灰になり、一瞬カードに戻ったが、そのカードも燃えつきて消えた。


 灼熱の業火(ドラゴンブレス)がやんだ時―おそらく実時間で1秒足らずだったが―、その時その場に立っていたのは、無傷のフミト、魔法障壁を展開しきる僅かな間ダメージを受け肩で息をしているアリューナ、そしてHPゲージが紫となり焼け焦げた生活雑貨のおねえさんだった。

 フミトからはおねえさんの背中しか見えないので、炎が直撃した前面のダメージはわからないが、ステータスはすべてのパラメータがマイナス値で真っ赤だ。


『重いやけど:LV3』


 状態(ステータス)異常も生じていた。ダメージが継続されHPがじわじわ減っていく。


「デッキ交代!UMEDAデッキ!」


 フミトが悲痛な声を上げた。

 UMEDAデッキの三人が実体化し、生活雑貨のおねえさんがカードに戻り手元に帰ってくる。


 フミトは愕然とした。


 絵柄が、焼け爛れた髑髏(ドクロ)になっていた。

 綺麗な肌も髪も、鼻も耳も筋肉も焼け落ちて、眼球すら蒸発し、真っ黒な眼窩とぞろりとした歯列がむき出しになっていた。

 これが、あのおねえさんの姿なのか!

 ちょっと幼さが残る、優しいおねえさんの美貌を連想させるものはどこにもなかった。

 カードに戻ったことでHPの減少は止まったが、ステータス異常は治っていない。


「フミトどの!ぼーとしてる時じゃないにゃ!また攻撃が来るにゃ!」


 呆然としていたフミトは見た。ドラゴンが再び業火を吐くのを。


 防災用アルミシートを松坂さくら:SR(スーパーレア)が展開し、福島ミカゲ:R(レア)がアイスボックスから大量の氷を撒く。

 だが、灼熱の業火(ドラゴンブレス)の方が強力だった。

 多少軽減できたのであろうが、さくらもミカゲも中山みね:R(レア)もブレスに焼かれ弾き飛ばされた。

 HPゲージがイエローレベルに下がる。


 強化不足。

 フミトは思った。

 RPG系のゲームでレベルの低い時につい遠出をしてしまい、高難度の敵に出会い頭で瞬殺される、というのはままある。

 自己の最大HPより敵からのダメージの方が大きいため、一撃死してしまうのだ。

 キャラを成長させないとここから先には進めませんよ。もう少しクエストをこなしてくださいね、という制作者(ゲームメーカー)の意図だ。

 ゲームバランスというものはそういうものだ。

 そしてクエストとレベルアップが自然に一致している―意識しないでもいつの間にか強くなっていて、冒険のフィールドが広がっていく―ゲームは良ゲーだ。

 このエクスアーカディアはイマジネーションの世界。

 フミトの固有能力(ユニークスキル)にフミト自身の経験やゲームの知識が反映されるのは、当然のことだろう。


 N(ノーマル)レベル1の最大HPを超える攻撃が中ボスから来るなんて、当たり前じゃん…

 アリューナからこのフロアには中ボスがいるって聞いてたのに!

 俺が強化をためらったからだ!

 スポーツ売場、私服警備員、アクセサリー売場、時計売場のおねえさん、ごめんなさい。

 生活雑貨のおねえさん、助かって。


 お願いします。


 フミトの目からボロボロと涙がこぼれた。

 あれ。

 そういえば、俺ずいぶん涙なんて流していない…。


(フミトくん…)


 声が聞こえた。

 生活雑貨のおねえさんのカードからだ。


(ありがとう、フミトくん。わたしたちのことを想ってくれて)

(でも、いいのよ、わたしたちはフミトくんの力。その力が強くなるなら、嬉しいわ)

(それに、わたしたちが消えてなくなってしまうわけじゃない。わたしたちは、わたしたちの仲間に力を貸すの)

(わたしたちは、わたしたちの仲間と一緒にフミトくんの力になるのよ)

(わたしたちは、いつもフミトくんと一緒よ。ありがとう、フミトくん。今はわたしたちの仲間を助けてあげて)


 UMEDAデッキは苦戦していた。灼熱の業火(ドラゴンブレス)を防げずHPが削られていく。

 Rの二人はHPゲージがレッドに落ちていた。


「アリューナ、デパガに魔法障壁をかけろ」


 フミトが泣きながら命令した。


「出来ないにゃ!」

「なんでだ!」

「わたしはフミトどのを守る存在にゃ。デパガじゃないからデッキに干渉は出来ないのにゃ!」


 それは理屈だ。

 しかし理不尽でもある。

 アリューナも、泣いているように見えた。


「UMEDAデッキ、戻れ!」


 3人はカードに戻り、フミトの胸に収納された。


「なにするにゃ!」


 アリューナが慌てる。


「これで俺を守るという大義名分が立つだろ」

「わ、ずっこい!でもドラゴンは倒せないにゃ。そんなことしたら永遠にこのダンジョンから出れないにゃ」

「わかってる。ルールだからな。しばらく時間を稼いでくれ」


 フミトは鼻をすすった。泣いてる場合じゃない。


 しれっと会話したものの、アリューナは本気になればドラゴンぐらいは軽く倒せるということだ。

 SRレベル2+Rレベル1+Rレベル1を軽く凌駕する能力持ちということだな。

 それでも邪神には勝てない。

 邪神てどんだけ強いんだよ。


 アリューナがドラゴンを相手している隙に、強化コマンドを開いた。

 SR:松坂さくらをベースにする。

 UC3枚、そのうちの1枚、生活雑貨のおねえさんのカードはぶすぶすと焼けているが、素材にするには問題ない。

 N8枚。焼けて消えた残り全部だ。

 素材カードを松坂さくらに重ねた。


 ファファーン。

 ファンファーレとともにカードが強化された。


 SR『松坂さくら』

 HP(ヒットポイント):2423/4250 → 2423/5300

 MP(マニューバポイント):123/205 → 123/310

 LV(レベル):2/50 → 23/50

 スキル:アイテム召喚LV1/10→4/10、懐柔LV1/10→4/10

 アビリティ:治癒LV1/10→5/10

 STR(ちから):122 → 164

 VIT(たいりょく):143 → 206

 DEX(きようさ):202 → 244

 AGT(すばやさ):183 → 246

 INT(かしこさ):234 → 318

 LUK(こううん):111 → 132


 最大HPが増え、HPの現在値は変わらないためHPバーがイエローからオレンジに変色した。

 だがしかし。

 松坂さくらにコテージをアイテム召喚させ、パーティーを仮眠させる。


「フミト様、おやすみなさーい」


 ドラゴンがコテージに向かって炎を吐くが、その前にフミトがいるのでアリューナが魔法障壁でブロックする。


「やっぱこれズルじゃないかにゃ?フミトどの」

「チートはダメだが、ゲームシステムのバグをつくのはアリだ。バグに気づかない運営の責任だ」


 ネ廃ニートのフミトの持論である。


 たらたらたらたん。

「おはようございます」


 ほのぼのした音響効果(SE)とともにコテージが消えるとUMEDAデッキの三人が躍りだした。

 HP、MPまんたんである。


 松坂さくらが再び防災シートを広げてドラゴンブレスを防ぐ。

 今度は弾き飛ばされない。

 どころか、逆に押し返す。炎が逆流し、ドラゴンが慌ててブレスを吐くのをやめる。

 その隙を突いて、


「今年の梅雨シーズンのディスプレイモチーフは、カエル!」


 中山みねがそう言うと、大量のカエル人形がげこげこと鳴きながらがドラゴンにまとわりついた。

 顔や顎に吸盤で貼り付き、口を開かなくする。ドラゴンは振り落とそうと鎌首をブンブンと振るがべたりとくっつきびくともしない。

 カエルがブレスを封じているうちに福島ミカゲが足元に走り寄り、マグロ包丁でドラゴンの内ももを削ぐ。

 筋肉を切られ、がくっと膝をつく。

 尻尾や翼を振り回して攻撃しようとするが、福島ミカゲが敏捷に避けつつ、それらの付け根の筋肉を切り裂き無力化する。

 外科医並みに正確だ。肉の扱いはバツグンだなミカゲ!


 さくら、みね、ミカゲはいったんドラゴンから距離を取り、三角に並んで互いの手を握った。

 赤い光が三人を包む。


UMEDA(ウメダ) CONNECT(コネクト)!」


 3人が同時に叫ぶと、赤い光が空中に駆け上り、大きくリング状に広がると、その中から巨大な雪だるま(スノーマン)がゆっくりと出現した。

 身動きの取れないドラゴンが目を見開いて雪だるまを見上げる。

 縦長の虹彩の瞳に浮かぶのは、恐怖。

 雪だるまはゆっくりとドラゴンにのしかかった。

 雪だるまに触れた部分が凍っていく。

 その氷を雪だるまが自重で砕いていく。

 雪だるまはドラゴンの全身を氷像化し、そして砕きながらゆっくりと地面に着地した。

 さくら、みね、ミカゲが手をはなすと、赤い光も消え、雪だるまも消えた。

 あとには細かい氷の破片が残っているだけだった。

 それもしばらくすると溶けて水となり、地面に吸われて消えた。


 勝利!


(フミトくん、おめでとう)


 どこからか生活雑貨のおねえさんの声が聞こえた。

 だが、それは遥か遠く、儚かった。

 フミトのイマジネーションが生み出したまぼろしなのかもしれなかった。


 フミトは涙が我慢できなかった。

 緊張が解け、一筋流れると、次から次へと涙があふれ止まらなくなった。

 しゃくりあげながらおいおい泣いた。

 小学校2年生の姿に似つかわしい、手放しの泣きっぷりだった。

 アリューナが、さくらが、みねが、ミカゲが交代で抱きしめてくれた。

 彼女たちも、泣いているようだった。

成長パラメータ修正しました。

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