第5話 強いぞ!駅前デパートデッキ!
ボスは何故かたいていダンジョンの一番奥にいる。
というわけでフミトとアリューナは第三層の奥へ奥へと進む。
これってリアルだと変だよな。だいたい洞窟の奥は暗くて狭くてジメジメしていて空気悪くて、不潔だ。
なんでそんなとこを偉いはずのボスが居場所にしてんだよ?
狭くて暗くて臭いとこが好きなのか?ひきこもりかよ!
おまえがゆーなフミト、という天の声が聞こえてきそうだが、自分のことは棚に上げるのが人間の性。
第三層転移直後と比べると、随分天井が低くなってきた頃。
「来るにゃ」
「みたいだな!」
前方の暗闇に影がうごめいた。
「デッキ展開!いのちだいじに!」
フミトは駅前デパートデッキを実体化させた。さらに今後の連戦に備えてHP温存策を包括指示した。
駅前デパートの生活雑貨売場のおねえさん:UC。
女子高生と言っても通用する幼い系にして癒し系、青い制服の美少女店員さんだ。フミトがデパートファンになるきっかけを作ったキャラクターだ。
ガチャではなく、フミト自身が生み出した唯一のカードでもある。
駅前デパートのインフォメーションのおねえさん:UC。
ホワイトとイエローのチェック柄のワンピースとお揃いの帽子、白いボレロが制服の駅前デパートのインフォガールだ。
ちょっと濃い目のお化粧がピシッとした所作と制服のデザインとあいまって気品を感じさせる。デパガの鑑だね!
駅前デパートの外資系化粧品売場のおねえさん:UC。
ディオール、イブ・サンローラン、ランコム、クリニーク等々世界に冠たるブランドの売場を率いるコーナーマネージャーだ。
本人はナチュラルメイクのすっぴん美人。
駅前デパートのアクセサリー売場のおねえさん:N。
常に白手袋を着用するブラックスーツのおねえさんだ。触っただけで14金か18金か24金かわかるらしいぞ。すごいね!
駅前デパートのスポーツ用品売場のおねえさん:N。
トレーニングウェアが制服の肉弾系美女だ。上腕二頭筋がしっかり盛り上がっているぞ。まるで格ゲーのキャラみたいだ。
10年早いんだよ!
ハルピュイアの群れが出現した。やはり20体ほどだ。
洞窟の天井が低くなっているからハルピュイアはあまり自由に飛び回れない。低空飛行でほぼ一直線に向かってくる。
生活雑貨のおねえさんが前衛に立ちカトラリーボックスを広げた。
「当売場一番人気の商品でございま~す」
射出!
スプーン、ナイフ、フォークが敵の群れを襲う。
ハルピュイア自体のスピードもあってかなり深く刺さるが、オークの時と違って拡散しているので1匹あたりのダメージは少ない。
カトラリーを避けたハルピュイアもいて、群れのスピードが落ちない。
おねえさんがふたつ目のカトラリーボックスを構える。
「在庫はまだまだございま~す」
2撃目射出!
今度は3体ほど叩き落とされる。だが大半は勢いが衰えずそのまま突っ込んでくる。
生活雑貨のおねえさんは後衛に下がり、インフォのおねえさんとスポーツ用品売場のおねえさんが前衛に立つ。
「本日は駅前デパートに足をお運び頂き誠にありがとうございます」
インフォのおねえさんが30度の礼をしながらそう言うと、ハルピュイアの群れの前にエレベータのケージが出現した。
勢いのまま避けられず7、8匹がケージに飛び込んだ。残りは旋回して逃げたが…。
笑顔で片手を指し示しながら言う。
「お客様を天国にご案内いたしま~す」
ケージの扉が閉まると、そのまま急降下した。
ぐしゃ。
地面に激突して、ケージは中のハルピュイアごとペッシャンコになった。潰れた瞬間中から叫び声が聞こえたが、それっきりだった。
しばらくして、壊れたケージの隙間からドロっとした赤いものが漏れてきた。
こわいよこの技。
てか、天国じゃなくて地獄だろこれ。
旋回して逃げた残り10匹のハルピュイアが体制を立てなおして再度迫る。
しかしすでにスポーツおねえさんがサッカーボールを10個、地面に並べ終わっていた。
そして端からシュートしていく。連続フリーキック。すごい早さだ。
キレイに放物線を描きハルピュイアの群れに吸い込まれていく。
ポコポコポコ。
ハルピュイアたちはサッカーボールに次々撃ち落とされていく。
だが、地上に落としただけで倒したわけではない。
最初にカトラリーで落とした3匹もまだ健在だ。翼をやられたらしく飛び上がれないが、ハルピュイアは鋭い鉤爪と脚力がある。
地上戦でも危険なモンスターだ。
気を抜いちゃだめだぞ、フミト!
スポーツおねえさんと生活雑貨おねえさんが残存ハルピュイアに向かう。
スポーツおねえさんは木刀、生活雑貨おねえさんは堺包丁二刀流だ。
HPのみならずMP節約も考えているので、スキルに頼らない物理攻撃で攻める。
13対2。数では不利だが…。
化粧品売場のおねえさんがパフ・デ・チークを取り出し、空中に顔があるかのようにポンポンとメイクを始めた。
空間を超えて、スポーツおねえさんと生活雑貨のおねえさんのほほに綺麗なグラデがのる。
一段と顔色が明るく美人になったな!
しかもSTRとVITが+20されたぞ。
パフでバフ(ステータスアップ)か。ダジャレだな!
アクセサリーのおねえさんがダイアカットの大きなイミテーションジュエリーをハルピュイアの群れに向ける。
ギラギラとした光がハルピュイアの目をくらます。
さすが贋物。幻惑効果だな。
バフとデバフの応援もあって、しばらくの戦闘の後、13匹を掃討する。
生活雑貨、スポーツの二人のおねえさんも無傷というわけにはいかなかったが、致命的なものはない。服はかなりボロボロになってしまったが。
生活雑貨のおねえさんは制服が裂けてちらちら下着が覗いている。パンストも破れていて、ちょっとフェチっぽくてエロいぞ。
スポーツ売場のおねえさんはどうしたわけかウェアの上着がなくなっていてスポーツブラにスパッツという格好だ。
6つに割れた腹筋がかっこいいぞ。でも、ほぼ下着だけなのに健康的すぎてエロくないぞ、残念だ(何が?)。
勝利!
戻ってきた二人を残り三人がハイタッチで迎える。
お疲れさま!
さすが同じデパートの5人。良いチームワークだ。
フミトは戦闘結果を確認した。
やはりカードのレベルは上がっていない。
クレジットが増えているが、ダンジョン内にはショップがないので現状使えない。
ドロップアイテム含め、ダンジョンクリアした後に街か村に行ってアイテムや装備を整えたらいいんだろう。
生活雑貨のおねえさんが『カトラリー飛ばし』を2回、インフォのおねえさんが大技の『エレベーターガール』を1回使ったのでそれぞれMPが3分の1ほど減少している。
HPは生活雑貨のおねえさんとスポーツ売場のおねえさんが減少しているが、まだイエローゾーンではない。
HPゲージは100パーセントだと濃いブルー、99パーセントから67パーセントが水色、66パーセントから51パーセントがイエロー、50パーセントから33パーセントがオレンジ、32パーセントから10パーセントが赤、9パーセントから1パーセントが紫。
そして0パーセントでグレーだ。
化粧品売場のおねえさんのスキル『メイクアップ』がHP回復もできるので、次の戦闘でオレンジまで下がったら治癒かけよう。
後どのくらいで中ボスなのか、中ボスはどんなモンスターなのかアリューナは教えてくれない。
というより、アリューナ自身にも知らされていないようだ。
まあ、たいがいのゲームでも初見の敵のパラメータは隠されているからな。
一度戦わないと敵の情報はわからない。
そういう索敵スキル持ちもいるんだろうが。
オートマッピングスキルとか敵避けスキルとかも便利だよな。こういうダンジョン系だと。
Nの手持ちは多いのでスポーツ売場のおねえさんを差し替えようかと考えていると、アリューナが警告した。
「また来るにゃ!今度はハルピュイアとメイジコボルトのパーティだにゃ!」
デッキを差し替える間もなく、そのまま戦闘開始した。
飛行タイプと魔法タイプの複合パーティにはかなり手こずったが、幸いモンスターには連携するという考えがないため、辛くも撃退することができた。
ハルピュイアの風にメイジコボルトの火を重ねられたりしたら、こちらも何人か犠牲が出たかもしれなかったが、5人とも無事だ。
生活雑貨のおねえさんのHPゲージがオレンジ、スポーツ売場のおねえさんが赤になっていた。
戦闘途中で何回か治癒かけてこれだった。あぶないあぶない。
化粧品売場のおねえさんがコロンを振りまくと、全員のHPゲージが濃いブルーに戻った。『メイクアップ』スキルの回復効果だ。
ただし、化粧品売場のおねえさんのMPがほぼ0になってしまった。
インフォメーションのおねえさんもMP大量消費スキルのため、戦闘でだいぶ減っていた。
フミトは化粧品のおねえさんを時計売場のおねえさんに、インフォメーションのおねえさんを私服警備員のおねえさん(2枚あるが、最初にゲットした方)に交代させた。
2人がカードに戻り、2人が実体化する。
時計売場のおねえさんも回復持ちである。修理、電池交換おまかせあれ!
敵は必ずしも飛行タイプというわけではないので、私服警備員の体術が役に立つだろう。物理スキルなのでMP消費も少ないし。
UC+N+N+N+N。コスト44の『駅前デパートデッキその2』である。
ノーマル4つというのが戦力的に気になるが、HPはまんたん、新人二人はMPもまんたんだ。
「また来るにゃ!」
デパガたちは実体化していたので、そのままフミトとアリューナの前に立ち後衛/前衛に別れる。
前衛が生活雑貨、スポーツ売場、私服警備員。後衛がアクセサリー売場、時計売場だ。
前衛は物理攻撃、後衛がデバフとヒーラーの攻撃補助タイプという定番の編成だ。中腰になって会敵に備える。
大きな影が現れた。
翼が左右に開いた。
でかい。いやでかすぎるだろこれ!
雁首が持ち上がり真っ赤な赤いひかりが二つ、シルエットに浮かんだ。瞳孔が縦に細い、爬虫類の瞳だ。
ガバッと顎が開いた。
「ドラゴンにゃ!こいつが中ボスにゃ!」
「いけない!デッキ変更…」
フミトが対応するよりも、ドラゴンの口から灼熱の火炎が放射される方が早かった。
デパガ5人も、フミトも、アリューナも一瞬で炎に包まれた。