第2話 デッキの力で勝利だぜ!(挿し絵あり)
「ちょっと待てアリューナ」
「どうされました?フミトどの?あ~案外怖がりさんなんですね~ぐふふ」
「おまえのその口調いらつくからちょっと修正。念じてやる!」
って『待て』の意味はそこじゃねーよ。
「…じゃなくて、今の俺の能力見ただろ?あれはRPGじゃなくてTCGだ」
「?」
「RPGは自分自身とゲームキャラが一体のもので、職業を選んだり装備や技能を身につけて能力アップしながら、クエストをこなして経験値を重ねて成長していくゲームだ。だから役割を担うという意味でロールプレイングといわれる」
「うーん、なるほどぅ」
「でも今俺がやったのは、トレーディングカードと俗称されるカードを使って相手を倒す、どちらかというとトランプとか花札、さらには将棋、チェスとかのボードゲームに近いものだ」
「トレーディングカードゲームだからTCGなのねン!」
口調変わったな。今度こそ成功か?
「ああ、その本来の交換するという部分はデジタルゲームではほぼ無意味になっているが、そこはスルーしていい」
「あらほらさっさー!」
あかん、また違うベクトルの残念美人だ。
「…TCGのポイントはカード一枚一枚よりもカードの組み合わせ、デッキの組み立てだ。だいたい5枚1組でデッキは構成される。この組み合わせ方でデッキは強くも弱くもなるんだ」
「早くもご自身の能力の本質を理解されるとは。りゅうせきだねながれいしだね流石だねえ~」
昔わりと好きだったギャグアニメの定番のセリフだが、フミトは無視して続ける。
「今あるのはカード1枚だけだが、これではダメなんだ。カードを増やしてデッキを組まないと」
「え~でも結構強かったじゃないスか青いデパ子ちゃん~。全国の女子高生のみなさ~んも期待してまスよ~」
デパ子って、まあ確かに名前知らないから青いデパ子としかいいようがないけど。
で全国の女子高生がどうしたのよアリューナ。そのネタ知ってるけど。
「アリューナは言ったよな。邪神には剣も魔法も効かないと。さっきの攻撃は所詮は物理攻撃だ。オークは瞬殺だったが、たぶん邪神には効かない」
「なるほどでまんねん」
フミトはつっこむ気持ちを抑えた。いちいち反応していると話が進まない。
「デッキを組み立てる必要がある。そのためには、ガチャだ!」
「ガ…ッチャマン?」
「ちゃうわ!おんなじプロダクションだけどな!」
さすがに無理だった。アリューナのボケっぷりのほうが一枚うわてである。ツッコまざるをえない。
「オークを倒して宝箱ドロップ、貨幣ドロップ、ガチャポイントドロップしているはずだ。戦闘結果見せろ!」
「ヨイヨイサー、今週のびっくりどっきりリザルト、発表!」
アリューナの胸の前に光学的なウィンドウが開いて、戦闘結果が表示された。
アイテムドロップ:両刃の剣LV1 売却価格20クレジット
宝箱ドロップ:なし
討伐クレジット:300
ガチャPT:30
ガチャチケット:SR30%チケット
「おお、思ったとおり!さっそくガチャ引きに行こうぜ!ってガチャどこにあるんだ?」
「あらほらさっ…さ…」
「どうしたアリューナ?」
「ええと、あのですね、今私にもわかったんですが、ガチャスイッチはですね…あのその」
「おまえなに素に戻って恥ずかしがってんだよははあわかったガチャスイッチおまえのおっぱいとかそんなんだな!
まかせろ俺は小学生だおっぱい揉んでも無問題だ」
「いえおっぱいぐらいならぜんぜんOKなんですがあのその…」
ぶっ。
フミトは鼻血を吹いていた。
えっおっぱいじゃないって…あのマジすか。リアル女体接触ないままそんなことになるんすか?
「耳の穴…」
フミトは盛大にずっこけた。
恥ずかしがるアリューナの耳の穴をほじほじすると、パッカーンという効果音とともにトレカが現れた。
SR30%チケットで引いてみたのだが、残念ながらSRは外れ、
Rカード:阪神百貨店地下食品売場のおねえさん『福島ミカゲ』がゲット出来た。
西日本の中心たる大阪。更にその一大ターミナルたる梅田。
梅田はもともと埋田といわれたように川を埋め立ててできた土地である。
江戸時代より舟運の中心地として発達した中之島に代わるターミナルとして開発されたのが梅田だ。
国鉄大阪駅が計画される以前はほんとうになにもない湿田が広がる地であったが、その後は国鉄を始め阪急、阪神、大阪市営交通が鉄道輸送の要の地と位置づけたため急速に商業集積が進んだ。
戦後の闇市の処理問題もあったが、それも駅前ビルシリーズの竣工で近代化され、今は新生なった阪急百貨店、増床した大丸、建て替えを予定している阪神、一時鳴り物入りで出店したが現在は黒子に徹しているJR三越伊勢丹等の百貨店に加え地下街や大型ショッピングセンターが群雄割拠する一大商業集積地である。
そのなかでも、フミトは阪神が好きだった。
セレブに媚びず、普通のひとを真剣に相手にしているのが阪神の魅力だと思われた。
特にイカ焼きを代表とする地下食品売場のテイクアウトグルメは大阪人にとっては絶対の存在で、その旨さ、低価格、販売スピードどれを取っても並ぶものなしと言われた。
と、すらすらと説明できるくらい知識は豊富だが、フミト自身が阪神に行ったことは実はない。
この辺の事情は、後で述べよう。
さらにガチャPT30でノーマルガチャ3枚が引けた。
駅前デパートの私服警備員のおねえさん:N。
駅前デパートの催事場のレジのおねえさん:N。
駅前デパートの青果売場のおねえさん:N。
駅前デパートカードはレアレティ最下位星1つかあ。
しかしまああのお姉さんがUCなのはわかるな。お知り合いだったからその分レアリティ高いわけだ。顧客補正だな。
ふむ、Rだと名前付きになるのな。親近感がぐっと湧くな!
これで5枚。フミトはすべてのカードをデッキにセットした。
4枚と2枚の組み合わせで輝き出す。駅前デパートの4枚が水色に。そして駅前デパートの青果売場と阪神の食品売場の2枚が緑色に光って共鳴していた。
集合や論理式を図形化したベン図のように重なって囲まれている。
「思ったとおりだ。カードの連携でいくらでも強くなる。複合的な組み合わせが効くのはありがたい。アリューナ、準備はできた。次の階層へ行こう」
「も~そろそろだと思っていましたよ。ではポチッとな」
アリューナがボタンを押すようなしぐさをした途端、がくん!と落ちる感覚があった。
回りを見ると、先程より洞窟の色味がやや黄色がかっていた。
そしてすぐにうごめく影を察した。今度は少なくとも3体はいる。
「フミトどの、やっておしまい!」
「言われなくても!」
フミトは5枚のカードに念じた。
フミトの前に展開した5枚のカードは拡大し、輝き、そしてデパートガールたちを実体化させた。
「さあさらっしゃいらっしゃいやすいよやすいよおにーさん方、今日は佐賀牛が特別価格だよ~買ってちょうだい見てちょうだい!」
「…」
「本日の日替わり奉仕あと5つとなりましたー!お急ぎ下さい!」
「山形産のさくらんぼ入荷しました~」
「引き出物ですか~?おめでとうございます~」
モンスターの影は別れ増え、それは8体の実体となって現れた。
メイジコボルト×3。オーク×3。コボルト×2。
こちらのデパートガールは5人。数では負けている。
メイジコボルトたちがファイヤボールを放った。生活雑貨のおねえさんが日本ト○ムの○素水を噴出させ無効化する。
「いろいろご批判もあるようですが、店頭の売り子を責めないでー!」
なんだかよくわからないことを口走っているが、苦情が集中してトラウマになったのかもしれない。合掌。
私服警備員がいつのまにかオークたちの後ろに回っていた。と思った時にはすでにオーク3匹に手錠をはめていた。
さすが私服。ステルス性能半端ないし素早い。ニンジャか。
「被疑者確保!」
青果売場のお姉さんが野菜くずを床に巻く。コボルト2匹がそれに足を取られてステンと転ぶ。
野菜くずって滑りやすいんだよなあ。こまめに掃除しないと年配のお客さんとか転んだら大変だよ大怪我だよ。
催事場のお姉さんが仮囲いをメイジコボルトの周りに張り巡らす。
昔はともかく、近頃は店休日がなくなったから催事の入れ替えの時によく仮囲いがしてある。
催事目当てに行って15時に終了しましたって仮囲いで覆われてて残念な気持ちになったことは一度や二度。
駅前デパートチームの連携で、かくて8匹とも身動きが取れなくなった。
から~んから~んから~ん。
福島ミカゲが鐘を盛大に鳴らす。
「お待たせしました!本日のモンスター解体ショー、只今より開始します~!どうぞお集まりくださいご覧くださ~い!」
福島ミカゲが刃渡り150センチくらいの包丁を取り出した。包丁というよりほぼ刀、いわゆるマグロ包丁だ。
8匹のモンスターを何のためらいもなくさくさくと屠殺、皮や内臓を取り出し血抜きをして部位ごとに切り分け、あっという間にブロック肉に解体する。
さらにステーキ、焼き肉用、薄くスライスしてしゃぶしゃぶ用、もう少し厚めのすき焼き用などに加工、手早くクーラーボックスに分別して保存する。蓋に温度計があり、-40℃と表示されている。業務用だな長期保存もバッチ・グーだ!
ってこんな高性能なクーラーボックスあるんかいな。よく見るとHOSHIZAKIというマークが入っていた。
「ご試食いかがですか~」
焼肉用に切り分けた肉が電気コンロで焼かれて美味しい匂いを立ち上らせた。
「タレはエバラも晩餐館も金龍も叙々苑も焼肉たむらもありますよ~。塩ダレネギダレサムギョプサルダレお好きなモノをどうぞ!」
駅前デパート青果売場担当が山盛りの野菜を持ってくる。
「チシャをたっぷりご用意しました。熱々のお肉を巻いて召し上がれ!」
フミトはじめ、アリューナ、5人のデパガもその辺りの岩に適当に腰掛けてもぐもぐ食べ始めた。
「おお、これは美味」
「命は大切にね。おいしくいただいてこそモンスターも浮かばれます。うふ」
さすがレアカード福島ミカゲ。食品に対する愛を感じる。
ふと、戦闘終わって冷静になってみると、
口を開くと残念だが見た目は超絶美女のアリューナ。動くたびに薄衣の下で胸がバインバインしてるし。
まだ女子高生の面影を残す癒し系制服美少女の生活雑貨のおねえさん。
元気いっぱい肉体労働派のキツ目エプロン美人福島ミカゲ。
無口で少し影が薄いけど意外に武闘派、クールビューティーな私服警備員のおねえさん。
テキパキと無駄のない動き、できるキャリア女性タイプの催事場のレジのおねえさん。
ほかの5人より少し年上しっかりタイプの青果売場のおねえさん。
美女6人に囲まれる俺小学2年生…これっておねショタハーレムじゃね?
うへへへ。
ちょっと顔に気持ち悪い笑みが浮かんでいるぞフミト!
「あっ」
肉をばかすか食べてたら肝心なことを忘れていたことに気がついた。
「アリューナ、今の戦闘リザルト」
「あらほらさっさー」
もういいよそれ。
アイテムドロップ:モンスターの肉大量 売却価格15000クレジット
宝箱ドロップ:強化の書LV1 3枚 売却不可
討伐クレジット:3300
ガチャPT:120
ガチャチケット:SR30%チケット 2枚
「よし、ガチャするぞ!今回はPTガチャからな!」
ほじほじほじ。アリューナがプルプル震えながら、12連続でガチャを排出した。
パッカーン、パッカーン、パッカーン、パッカーン…
駅前デパートの婦人靴売場のおねえさん:N。
駅前デパートの紳士肌着売場のおねえさん:N。
駅前デパートのスポーツ用品売場のおねえさん:N。
駅前デパートのインフォメーションのおねえさん:UC。
駅前デパートの外資系化粧品売場のおねえさん:UC。
駅前デパートの食品集中レジのおねえさん:N。
駅前デパートの時計売場のおねえさん:N。
駅前デパートの進物サロンのおねえさん:N。
駅前デパートの銘菓銘品売場のおねえさん:N。
駅前デパートのアクセサリー売場のおねえさん:N。
駅前デパートの催事場のレジのおねえさん:N。
駅前デパートの私服警備員のおねえさん:N。
うーん、PTガチャは星1つか星2つか。星3つ以上は出ないのかな。
にしても低レアリティのカードは駅前デパートだらけだな。一番よく行ってた百貨店だからかなあ。
カードもダブってるなあ。上限突破させてもいいけど所詮NだしなあここはやっぱりR以上のカードの餌に…
え?
フミトはお肉をまだもぐもぐしている駅前デパートチームを見た。
おねえさんたちは、生きてる。そんなおねえさんたちを強化の餌にしていいのか?
って、おねえさんがおねえさんを食べるのか!?
そんな猟奇的なこと…
フミトの背に冷や汗が流れた。