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第14話 原子怪獣現わる

 広島型原爆(リトルボーイ)


 人類史上初めて実戦投入された核兵器である。

 比較的大型で前後に長い形状をしているが、それは多量の核物質と、核分裂を起こすための筒状の構造物が格納されているからだ。

 ウラン235の塊を筒の両端に収納、火薬の爆発力で片方の(バレット)を他方に激突させ、臨界量を超え核反応を引き起こす。

 銃身(ガンバレル)型と呼ばれる原子爆弾だ。

 対し長崎に投下された原爆(ファットマン)はプルトニウムを核物質に用いた爆縮(インプロ―ジョン)型だ。

 臨界量に満たないプルトニウムを周囲360度からの爆発によって圧縮させ核分裂反応を起こす。

 ガンバレル型は機構がシンプルで、核物質に天然ウランを利用できるが、原理的に不慮の事故による核爆発の可能性が高く安全性に問題があること、核分裂の効率が悪く核物質が多量に必要などの欠点を持つ。

 リトルボーイには50キログラムの核物質が搭載されていたが、核分裂反応を起こしたのはそのうちのおよそ1キログラムと推定されている。

 結果、核分裂で開放されたエネルギーは約63テラジュール。TNT換算で15キロトン相当だった。


 1945年8月6日月曜日午前8時15分17秒。

 ポール・ティベッツ機長率いるB-29爆撃機『エノラ・ゲイ』は、広島市中心部を流れる太田川に掛かる相生橋を目標に『リトルボーイ』を投下した。

 相生橋のやや東南、島病院上空600メートルの地点で核爆発が生じた。

 爆発点の気圧は数十万気圧に達し、衝撃波を伴う超音速の爆風が発生、爆心地500メートル圏内の建物は粉砕され、ほとんどの市民が即死した。

 爆心地の島病院はモダンなデザインの2階建てレンガ造りの頑丈な建物だったが、職員患者80人余とともに瞬時に消失した。

 島病院の西にあった産業奨励館も壊滅的被害を受けたが、壁面の一部と丸屋根の鉄骨は残り、現在も原爆ドームとして保存されている。


 火球の温度は数万度に達し、爆発後3秒間に熱線エネルギーとして一挙に放射された。

 3~4キロメートル先までも熱線が襲い、広範囲で発生した高熱火災により市街地の大半が焼失。

 また建物の外で熱線に晒された人々はフラッシュバーンと呼ばれる破壊的な火傷により即死、または数日で死に至った。


 核分裂によって生じた放射線は爆心地でガンマ線が103シーベルト、中性子線が141シーベルト。

 7シーベルト以上の放射線を浴びた場合の致死率は100パーセントといわれるが、半径5キロメートル圏内にいた人々は急性放射能症を発症した。

 また残留放射線により、爆発がおさまった後に外部から支援等に来た者も放射能症を免れなかった。


 原爆が発生させたこれら爆風、熱線、放射線により、死者は14万人に達した。

 3日後の長崎と併せ、非戦闘員を対象として極めて短時間に行われた、歴史上他に類を見ない一方的な虐殺だった。

 被ばくによる後遺障害は70年以上たった今日なお多くの人々を苦しめている。



 あーやばかった。

 ニャルめ!核兵器持ちかよ、むちゃくちゃだな…。


 爆心地で、フミトは冷や汗を拭っていた。

 ニャル某の眷属が原爆を生み出したという物語(しんわ)を思い出したフミトはすぐにデパガ全員デッキから抜いてカードに戻した。

 直後に核爆発が起こったが、フミト自身は例によってアリューナの力場(フィールド)に守られた。

 核爆発も軽く受け流すフィールド(ちから)って、一体何?

 まあこまかいことはいいか。多分聞いても分かんね。そういう風にできている、と信じよう。


 だが、今、コロセアムは爆風と熱線で溶け、焼かれ、粉砕されていた。石造りの床が沸騰している。

 さらに周囲は猛烈な放射線にさらされている死の世界だ。

 このままでは力場(フィールド)から一歩も出られないぞ。


環境回復(コスモリバース)にゃ!」


 アリューナが呪文を唱えた。

 周囲の気温が一気に下がり、残留放射線がほぼ0になった。

 さすが神の巫女。治癒って生物だけじゃなくって環境に対しても有効なのね!


「よっしゃーデッキ再セット!リベンジ!」


 フミトはデパガを実体化させた。

 さくら、べる、ミカゲ、みね、しい沙が飛び出す。

 しい沙はまだ三角巾姿だが、ミカゲは制服に着替えていた。ちぇ珍しくミカゲが微エロモードだったのに、残念!


「おお~~っとデパートガールは無事だったーー!

 しかし超硬質化、アーンド天然原爆製造機だぞ!どう戦うか、ここからが見どころだーーー!」


 赤いスーツのおっさんがコロセアムの残骸から出てきて実況中継を再開した。

 おっさんちゃっかり耐放射線スーツ(フルアーマー)着こんでやがる。ニャルの能力知ってやがったな。

 そういえばさっきのニャル=ミカゲ戦では実況してなかったな。その間に着込んだんだな。

 てか、なんでコロセアムに観客がひとりもおらず中継だけなんだろうとは思ってたが、こういうことね。

 客席も超危険だからだね。


 ニャル=スフィンクスは表面こそ自身が引き起こした核爆発の熱線で部分的に焼け焦げてはいるが、岩石に似た組織で出来ているためほぼノーダメージのようだった。

 逆に言えば核爆発並のエネルギーでも傷一つつけられないということだ。

 そりゃそうだな。自分の武器で自分も傷ついてたらアホだ。どこぞの宗教戦争じゃあるまいし。

 超硬質化か。どう攻める?


「うらんにひゃくさんじゅうご…えねるぎーいーこーる…」


 ニャル=スフィンクスが呪文を唱えだした。

 ありゃまずい。

 さくらの備長炭ミサイル、しい沙のカトラリーミサイル、みねのカエルアタックで詠唱を妨害する。

 しかし、ダメージはほとんど与えられない。

 核シェルター同等だもんなあ。


 とりあえず、先鋒はミカゲだ。皮膚が硬化しているなら、リヴァイアサンの時みたく口から内部に入るか、目を潰すか。

 ミカゲはジャンプした。狙いはまずは目だ!


 目からビーム!!!!


 ニャル=スフィンクスは両眼からビームを放った。

 さっきの合体時にミカゲの行動パターンをコピーしたから、まず目を狙うと予測していたようだ。

 ミカゲは両手の堺包丁をクロスしてビームを受けた。

 美しく磨き上げられた包丁の表面でビームの大半は反射されたが、一部は内部に吸収、ミカゲ側へガンマ線となって放出された。

 包丁が放射化され、鉄がマンガン54に変質したためだ。

 これは中性子ビームだ。

 ミカゲは堺包丁を捨て、横っ飛びに逃げたが、ごほっと咳き込むと喀血した。

 急性放射能症!


「救急救命!」


 べるが即座に回復をかける。


 その間にもニャル=スフィンクスがごきごきごきと巨石がこすれる異音を立て四肢を動かしミカゲを目標設定する(タゲる)

 ごきごきっと首を下げ、両目でミカゲをとらえる。


 目からビーム!!!!


 ミカゲはダッシュで避けるが、ビームが追尾してくる。

 溶けた石の床がさらにえぐられる。

 直撃は受けないものの、放射線がデパガを襲う。

 ミカゲだけではなく、全員が倦怠感と頭痛を感じはじめた。

 べるが回復をかけ続けているが、MPが切れたら死に至る被ばく量だ。


 ニャル=スフィンクスは体内でウラン235を臨界状態にし中性子ビームを生成していると思われる。

 さっきのように外部での爆発はともかく、体内で核爆発が起きたら自身も吹っ飛ぶから、核分裂反応を何らかの方法で制御しているのだな。

 まさに生きている原発。

 発電はしてないけど。


 さくらがリヴァイアサンを召喚した。


「きゅーん!」


 リヴァイアサンの幼生体がカプセルから実体化しさくらの肩にちょこんと乗る。


「リヴァちゃん、お願い!」


 さくらが幼生体に語りかけた。

 リヴァちゃんって…。

 まあリヴァイだととある方面から猛烈なクレーム来そうだもんな。幼生体の名前はリヴァ、オーケイオーケイ!


 リヴァは口からウォータージェットを噴射した。

 50メートル以上は離れているだろうが、ジェットはまっすぐ鋼鉄の糸のようにニャル=スフィンクスの胴体に届き、ぽつっと小さな穴をあけた。

 くるっとリヴァが首を振ると、それにあわせてウォータージェットも直径10センチほどの円をスフィンクスの表面に描いた。

 一周すると穴の部分がほとんど抵抗なく円柱状にスーッとせり出し、ポロリと落ちた。


 ニャル=スフィンクスはあまりに鮮やかに切断されたので穴が開いたことに気が付いていないのか、そのままデパガに向かってのっしのっしと近づいてくる。


 目からビーム!!!!


 しい沙が日本ト○ムの水○水を分厚い壁状に噴き上げた。

 中性子ビームは大量の水素にぶつかり、エネルギーを失う。

 おお、すごいぞ水○水。

 役に立つじゃないの。


「超純水!」


 さくらがそういうと、リヴァがちょうど直径10センチの水流をさきほどのジェットと同様まっすぐ穴めがけて放射した。

 リヴァの見た目とは程遠い、膨大な量の超純水がニャル=スフィンクスの体内に送り込まれた。


 ニャル=スフィンクスが「なんだ?」という表情で水流を見た。

 その顔が、次の瞬間恐怖に染まった。


UMEDA(ウメダ) CONNECT(コネクト)!」


 さくら、みね、ミカゲがトライアングルに腕を組みスノーマンを召喚した。

 リヴァが水流を分け、スノーマンにも届ける。スノーマンは水を吸収して膨れ上がりながら、ニャル=スフィンクスを呑み込み、氷結した。

 球状の氷に閉じ込められたニャル=スフィンクスがみるみる赤熱してくる。

 それが小さな太陽にも似た灼熱の光に変わり、ニャル=スフィンクスの超硬質の体がぶくぶくと泡立ってくる。

 じたばた暴れながらなにか叫んでいるようだが、分厚い氷の中ではよく聞こえない。

 スノーマンとリヴァが連携して高温で溶ける氷を新たな氷で補充する。

 ニャルは氷の球体の中でどろどろに溶け、形を失い、やがて球体の底で醜い塊となった。


 スノーマンは底の氷だけを少し溶かして床を露出させた。ニャルだった塊が地面に接触すると、これを融かしながら地中へ潜っていった。


 炉心溶融(メルトダウン)


 超純水で中性子が減速されたため、核反応が制御できなくなり暴走したのだ。

 ニャルは自身の能力によって自滅した。

 すっかり塊が地中深く見えなくなるとスノーマンが凍土で穴をふさぎ、スノーマン自身も消えた。

 リヴァも「きょっ」と一声なくと、カプセルに戻った。


 勝利!


「念のためもう一回環境回復(コスモリバース)!」


 アリューナが残留放射線と熱線を消し、力場(フィールド)を解いた。

 いやー、なかなか手ごわかったな。さすがダンジョンラスボス紫クラス。


「お見事ーーーー!

 まさかあの旧支配者を撃破するとは!大番狂わせだ―!!!

 おめでとうデパートガール!おめでとう水島フミトくん!

 そしてすべてのひとにありがとう!!!」


 おっさんが絶叫する。

 とたん、歓声が沸いた。


 は?歓声???


 コロシアムの上空に何十というウインドウが開いた。

 それぞれのウインドウで見たことない奴らが手を振りながらなんか叫んでいる。

 中継見てた観客だろう。

 一斉にみんな叫んでてよくわからないが、どうも褒められているようだ。

 なかには涙流して喜んでいる奴もいる。


 おお、なんか、これは…


 気持ちいいな。


 フミトは我知らず、ウインドウに向かって手を振っていた。



この話を書いてる最中に八尾西武閉店の報が…。残念です。


8月7日、シン・ゴジラ観てきました。いやー面白かった!そして撃破(?)のアプローチが真逆で助かりました。

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