第12話 勇者ファイト!レディゴー!
pixivでとあるイベントに参加してたため、こっちのつづき書くのが遅くなってしまいました。すみません。しかもやっつけだったので直しました。重ね重ねすみません。
「転移にゃ!」
アリューナがそう言うと、おなじみの落下感の後、別の場所に立っていた。
紫色の岩に覆われた、天井は高いが広さはさほどではない空間だった。
目の前に巨大な鉄の扉があった。
「…ボス部屋だな」
「そうにゃにゃ」
いかにも、わかりやすい。
このダンジョンのラスボスがあの扉の向こうにいる。
デッキはすでにセットしてある。
HP、MPはまんたんだ。
ショップはまだ使えないから回復アイテムの準備はできないが、新メンバーのべるの『教育』スキルに救急救命が含まれている。
余談だが、百貨店の1日の来店者数は郊外の小型店で2万人程度、都心の大型店だと10万人を超える。
また顧客に高齢者層が多いこともあって買物や食事中に体調を崩す事案が毎日のように起こる。
時には重篤な症状を示す人もおり、今日自動体外式除細動器がほぼすべての百貨店に設置されているし、都心では館内に医師を配置している店もある。
百貨店において救急救命教育は、接客教育と同等、必須カリキュラムのひとつとなっている。
閑話休題。ということで現有戦力では最善とおもわれる構成で準備完了した。
「よし、行こう!」
フミトは扉の前に進み、手を掛けた。
圧倒的な質量感に比して軽々と扉が内側に開いた。油圧サポートか?
フミトとアリューナはボス部屋の中に足を踏み入れた。
暗い。
床が石畳なのはわかる。広い空間だ。扉の外も天井が高かったが、中はより一層高いようだ。
背後で扉が閉まり、一瞬真っ暗になったと思うや壁の松明が点いた。
松明は数十本がぐるりと一周するように灯り、部屋の全貌が顕になった。
石造りの大きな円形の部屋だ。
紫色に染まっていることを除けば、こりゃまるでローマのコロセアムだな!
行ったことないけど。
…って、ああ、そういうことか。
第一層は普通の岩や土の色だったが、第二層が黄色、第三層が橙、第四層が赤、そして第五層が紫な。
HPゲージと同じだ。危険度を表していたのか。
リヴァイアサンが赤クラス。紫クラスって何が出てくるんだ?
コロセアムの客席(?)の一角にスポットライトが当たった。
は?スポットライト??
「レディ~~ス、エ~~ンド、ジェントルメン!」
アイパッチをつけたオールバックの赤いスーツの渋いおっさんがマイク持って現れた。
なんじゃこりゃ?
「今週もやってまいりました『はじまりのダンジョン』ラストバトル!ライブ中継ターイム!!!
本日の挑戦者は水島フミトくん!見た目8歳の一見美少女風美少年。その実態は23歳引きこもり歴10年のネットゲーマーです!
ユニークスキル『デパートガール・コレクション』を駆使しここまで勝ち抜いてまいりました~~!!!」
フミトにもスポットライトが当たる。
「まぶし…」
「3万と26人目の勇者となれるのか、はたまたここでその生涯を終えるのか。まもなく掛け金タイムは終了です。勝利者はチャレンジャーか?モンスターか?チャレンジャーなら末尾#0002を。モンスターなら末尾#0003をプッシュ!あと30秒で締め切ります急げ~~レーッツベットぉ!!!」
「…おい」
フミトはアリューナを睨んだ。
アリューナは作り笑いで明後日の方向を向いている。
「散々勇者だ光の戦士だとか持ち上げておいて。何だこの茶番。
『はじまりのダンジョン』は練習じゃなくて、勇者の篩だったんじゃないか!
つかあのおっさんさらっと生涯終了つったぞ!殺す気まんまんかよ!負けたらほんとに死ぬのか!!」
「にゃはははー…にゃのにゃ…ごめんにゃ」
「お前ダンジョンは入る時チョーお気楽だったじゃないか!騙してここまで連れてきたのかよ!」
「騙したわけじゃないにゃ。ちょっと説明省いたのは悪かったけど…
でもフミトどのにはどのみち真の勇者になって邪神を倒す以外の選択肢はないのにゃ。」
そらそうだ。
でも重要事項の説明なしの契約は無効だ。
しかも中継とか言ってたなネット配信かよ俺は見せモンじゃねえよあげくにギャンブルのタネにしやがって!
てかアリューナたちのネットワークはこのためのものか?
くっそ腹立つーーー!
「邪神に襲われて以来娯楽がないのにゃー!それにみんな不安なんにゃ。邪神を討ち滅ぼす勇者をずっと待っているのにゃ」
「なんで?俺が3万26人目ならとうに26人の勇者が邪神討伐に向かってんだろ?」
「そうなのにゃが進軍させないのがやっとでまだ倒せるレベルじゃないのにゃ。
…先輩勇者も頑張っているのにゃが戦力不足なのにゃ。だから新勇者にみんな期待してるのにゃ。
フミトどのの力は強力だにゃ。
エクスアーカディアの人たちに力を示してあげて欲しいのにゃ。
邪神を討ち滅ぼす真の勇者が降臨したのにゃと」
「おおっと勇者候補とサポーターが仲間割れかぁ!?
だが、そんなこととは無関係に締切の時間だーっ!
ああ無情!!!
さて、本日のラスボスは…
こいつはすげえ!
久々の大物だ!
チャレンジャーにベットした諸君、怒らないでくれ。
錨は巻き上げられ、炎の時代がはじまる!
勇者ファイト、レディ、ゴーーーっ!!!」
コロセアムの一番奥にある巨大な鉄の格子扉が鎖でギシギシと巻き上げられた。
猛烈な瘴気と殺気が伝わってくる。
もはやそれは物理的なエネルギーだ。
フミトはブルっと震えた。
炎じゃなくて氷だろこれ。
まったく、ここのヤツらのやり方は気に入らないが、心が折れたらやられる。
くそっ。だから部屋の外にいるヤツらは嫌いなんだよ!
ネ廃ヒッキーならではの逆切れだが、そうでもしないとこの圧倒的なプレッシャーに対処できない。
リヴァイアサンの比じゃない。
あれは。
あの向こうからズルズルと現れてくるものは。
根源的な恐怖。
「キター!旧支配者。狂気と混乱の神!」
触手と目玉の塊。
にしか見えなかった。
理性では認識できない姿形、千の顕現を持つといわれるあの神話の神々の末裔。ニャル某。
しかし、それだけにマジヤバかもしれん。
今時の二次創作は随分ソフトになっている。最近じゃ美少女化されたアニメもあったよな。
でもオリジナルに近いのは神々圧倒的すぎて特に旧支配者モノは救いようがないからなあ。
はっきり言っておぞましい。
「デッキ実体化!全力全開」
さくら、べる、ミカゲ、みね、しい沙が飛び出した。
アリューナ含め文句は山ほどあるが、たしかに他の選択肢はない。
しょうがない、乗ってやる!
ニャル(面倒なので略!)倒してクリアしてやろうじゃないの。
ラブクラフトなんぼのもんじゃい!
…うん、ニャルといいリヴァイアサンといいドラゴンといい、このダンジョンの敵って全部地球世界の幻想モンスターだよなあ。
エクスアーカディア世界オリジナルのモンスターっていないのか?
はじまりのダンジョンは自動生成って言ってたが、それは冒険者のイマジネーションに合わせてってことなんだろうか?
だとしたら、俺の知ってるモンスターが出てくるのは納得だが。
アリューナ自身は俺のイマジネーションで創造されたって明言してたが、もしかしてこの世界全部が俺の『想像』ってことはないか?
なら俺は俺のイマジネーションに拉致られたことになるのか?
コレ全部俺の『妄想』で、現実世界の俺は実は精神病院に入院している…なんてことじゃないのか?
それって笑えないぞ。
と0.1秒ほど思考していたフミトであったが、戦闘はすでに始まっていた。
先陣は例によってミカゲだ。
中心となる組織がなさそうなニャルに対して、周囲の触手を潰す作戦に出ていた。
ニャルの周囲を駆け抜けつつ、二刀流で触手を薙ぎ払っていく。
複数の目玉がミカゲを追った。
その瞬間。
ミカゲが消えた。
「出た~旧支配者の対象次元転移能力!」
アイパッチのおっさんが解説する。
フミトはデッキのステータスを見た。ミカゲはデッキ内に存在はしているが、ステータスがグレーアウトしている。
デッキから抜こうとしたがコマンドを受け付けない。
こことは異なる次元に閉じ込められたようだ。
みねが図面を引いた。
「非常口は90センチ以上空ける」
みねのそばの空間が十文字に切り裂かれ、ミカゲが裂け目から転がり出てきた。
すぐ裂け目が閉じる。
ミカゲは全身傷だらけで厨房制服もボロボロだ。
あのミカゲを数秒でこんな姿にするとは。異次元恐るべし。
べるが治癒を掛ける。
制服ごと回復した。
さすがSR。
ミカゲはただちにリベンジに向かおうとするが、しい沙が止めた。
しい沙がミカゲに堺包丁を2本渡す。
美しい刃紋が浮かぶ逸品だ。前に召喚したものよりもさらに磨きがかかっている。
しい沙もRに覚醒したから、召喚アイテムもグレードアップしているぞ。
ミカゲは親指を立てしい沙に応えた。
2本の堺包丁を両手に、ニャルに向かってダッシュする。
ニャルの無数の目がミカゲを追尾する。
しい沙がカトラリーアタック、さくらが備長炭ミサイルを撃ちこみニャルを撹乱する。
ニャルがやや怯んだ隙に、ミカゲが宙を飛び二刀流を放った。
ほとんど切断音もなく、ただ2本の刃が何十という軌跡をきらめかせ、ニャルは無数の肉片となって分断された。
「やった!」
ミカゲが着地する。
と、飛び散っていった肉片が、ビデオを逆再生したかのようにミカゲを中心にまとまりだした。
ミカゲは二刀流を振るうがあっという間に無数の肉片に覆われる。
そしてミカゲを飲み込んだまま肉が合体し、塊となる。
形が整えられ、手足になり、やがて立ち上がった。
それは、無数の目玉と小さな触手に覆われているが、全体として巨大な人間の姿だった。
しかもこれは…ミカゲのカタチを写していた。
肉の塊で錬られた女体。
うっすらと微笑みを浮かべている。
両手に当たる部分の肉片がシュッと鋭角に変形し、あたかも包丁のようになった。
ミカゲの技をコピーしたのか!
ニャル=ミカゲが二刀流を振るった。
太刀筋があまりに高速で、フミトの目では追いきれなかった。
前衛にいたさくらとしい沙が反射的に飛び退いた。
だが、二人がいた空間に大きな血の花が咲いた。
さくらの右脚と、しい沙の左腕が斬り飛ばされていた。
「あっ!」
「うっ!」
短い悲鳴が上がった。




