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9月1日の悪夢 2


「さて、魔女(グリンダ)は一体誰でしょう?」




 鮮やかなピンクのネクタイとベレー帽が印象的な美少年は、そう言って一番近くに居たクラスメイトの首をはねる。俺は、3人のピンクに囲まれてガタガタとわけもわからず震えていた。


「残りは3人か......綺麗(きれい)、順番に殺していけ」


 ピンクの軍服を着た青年が、ベレー帽の美少年に声をかける。綺麗、とは彼の名前なのだろうか。だとしたら俺に負けないくらい珍しいな、最も彼は名前負けしてないけれど。そんな事を考えて現実逃避を計る。

 生き残っているのは、クラスで1番派手な原田愛莉(はらだあいり)と、クラスで1番地味だが美人な藍沢明日見(あいざわあすみ)と、俺だった。2人とも緊張して青ざめた顔をしている。が、藍沢だけはどこか覚悟を決めたような顔をしていた。

 そして。


 まず藍沢が動いた。近づいてきた綺麗という美少年に向かって、スカートの下から何か銀色に光るナイフのようなものを突き立てる。不意打ちだったのか、ナイフは美少年の喉に深く食い込む。ペアルックの少女が悲鳴をあげる。そして藍沢が叫んだ。


「屍の女王、グリンダよ!我は汝の恋人(ラヴァン)であり、汝は我が恋人(ラヴァン)である!我を助けよ!そして愛を囁け!」


 何だコイツ、こんなときに中2病かよ、と俺が頭を抱えた瞬間。

 その女は現れた。


 圧倒的な力を持って。




   ***




 ところで、俺が今なんでこんな風にのんびりとあの時の事を振り替える事が出来ているかというと、9割対1割くらいでグリンダと明日見のお陰だ。あの時明日見がグリンダを喚ぶのがあと少し遅かったら俺は確実にあの綺麗という美少年に殺されていただろうし、グリンダがいなければあの場を切り抜ける事は出来なかっただろう。話を戻そう。




 その女は、黒い豪奢なドレスを纏っていた。

 チョコレートカラーのくるくるとした長い髪を床まで垂らし、眠たそうな緑の瞳を隠そうともせず、いかにも魔女です、と言わんばかりの大きな黒いとんがり帽子を被っていた。

 そして、藍沢を見て言った。


「ばぁーか、私はお昼寝の途中だったんだよぅ」


 どうしてくれるんだ、と文句を垂れるその「魔女」は、発言こそ場違いだったが肌がピリピリするくらい威圧感を放っていた。それを感じ取った藍沢は逆に安堵したかのようにへなへなと座り込む。


「ごめんなさいお師匠様、でも私、私、」

「明日見ぃ、お前帰ったら肩揉みしろよぅ」


 とろんと間延びした甘ったるい声で、藍沢にお師匠様、と呼ばれた「魔女」は眠いよぅ、と呟いた。


 「とってもとっても眠いよぅ、......だからさっさと終わらせようか」


 その瞬間、威圧感が増して立っていられなくなる。藍沢に喉を刺された美少年が、ペアルックの少女に支えられ「魔女」の前まで歩こうとするが、威圧感で進めていない。


「お前がグリンダか......てっきりそこの派手な少年が魔女だと思っていたよ、魔女は派手好きだからね」

「派手好きは一部の頭のおかしい奴らだけさぁ。お前は愛の狩人(ラヴハンター)だねぇ?その気が狂ったようなピンクでわかったよぉ」

「ご名答だよクソ魔女が。わざと弟子に自分の匂いをつけていたな?こっちは魔女狩りができると思って乗り込んだらこのザマだ」

「それはそれは、引っかかる阿呆がいるなんて思いもしなかったからねぇ」

「言ってろクソが。こうしてのこのこ現れたからにはお前を狩る!!!」


 口では強気な発言をしている、ラヴハンターと呼ばれた美少年は、しかし藍沢に喉を刺された事と威圧感だけを放つ魔女の前に、現状は動けないでいた。美少年を支える少女も冷や汗をかき苦しそうにヒューヒューと荒く呼吸している。もう1人の軍服の青年は、魔女が睨みを利かせただけで気絶していた。


「ほらほらぁ、どうした?今なら攻撃し放題だぞ?」

「うるさい......うるさいうるさいうるさい!!!!!」


 獣の様に叫ぶ美少年は、しかしそれで力尽きたかのように膝をついてしまう。寄り添う少女が、藍沢と魔女を視線だけで殺しそうな程強く睨んでいた。睨みつけながら、支える美少年に囁く。


「撤退しよう?......ノブナガも使い物にならなかったし、綺麗君の怪我の治療の方が優先」

「......」

「グリンダの顔はわかったし、匂いも覚えた。弟子の方も覚えた。次は殺す、綺麗君に傷をつけた奴は特に念入りに殺す」

「......わかった、鈴、撤退しよう」


 綺麗、と呼ばれた美少年がグリンダの方を睨む。


「次は、狩る。覚えておけ、俺は愛の狩人(ラヴハンター)の野村綺麗だ!!!」


 そう言い残し、次の瞬間には、お揃いの鮮やかなピンクの少年少女達は消えていた。軍服の青年と共に。

 そして俺は、それを見届けた瞬間に安堵に包まれ、気絶してしまうのであった。

 

 薄れゆく視界の片隅で、黒いとんがり帽子が「あらまぁ」と眠たげに呟いたのを聞いて、俺は完全に意識を手放した。




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