9月1日の悪夢
誤字脱字ありましたら指摘お願いいたします。
久しぶりの投稿で緊張してます。
その日は9月1日の、まだ暑い始業式の日だった。
俺こと芥川浪漫は、奇妙な名前と日本人離れしたその容姿から、少しだけ周囲から浮いている、けれどそれ以外は普通のそれと変わらない、ただの男子高校生だった。
だった、と過去形で書いたのは、現在進行形では「ただの男子高校生」とは言えないからだ。その事について語る前に、まず俺のこの奇妙な名前がつけられた訳と、俺の外見的特徴について説明しようと思う。
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俺の名字は珍しい。名乗る機会があると、人は皆名字を聞くと「かの有名な芥川龍之介先生と何か関係があるのか」と食いつき、名前を聞くと「こんな珍しい名前は聞いたことも見たこともない」と関心する。こちらとしては毎度そんな感じなので慣れてしまって今では良い迷惑だ。
有名なかの先生と関わりがあるかどうかは別として、名字が珍しいのは生まれもってのものだから仕方ないとしよう。問題は浪漫というこれまた珍しい名前の方だ。
父曰く、俺の名前をつけた祖父というのは大層な趣味人だったらしく、口癖が「男なら浪漫を持て」だったそうだ。その子供に趣味などありませんと公言している堅物な父が生まれたのだから世の中は不思議というか何というか。話をまとめると、俺の名前には祖父の「浪漫」が詰まっているのだ。
ここまでは、単に珍しい名字に生まれ珍しいネーミングセンスの祖父を持っただけの幸か不幸かはわからないが変な名前の男の子、で済むだろう。
しかし神様は俺に、更に珍しいものを寄越してきた。
俺の肌は、黄色人種の肌とは思えないほどに白く透き通っている。髪の毛も金に近い薄茶色のふわりとした髪質だ。姉(名前は自由という。本当に祖父のネーミングセンスは時代を間違えていると思う)はどちらかというと色黒で真っ黒な髪の毛なのでいつも取り替えてくれと懇願されていたほどだ。
そして、一番異質なのが、この真っ赤に光る深紅の瞳だろう。俺は所謂アルビノという人種らしい事が生まれてすぐその容姿に浮気を疑ってDNA検査した父のお陰でわかった。
そんな訳で、生まれた時から目立つ外見と名前のせいでからかわれ、引っ込み思案になり、その性格が治らなかったせいで小学校に入学しても友達ができず、同級生からは遠巻きにされ、引っ込み思案にマイナス思考が加わり、中学校の時には妄想癖も加わり、高校生になる頃にはすっかり「誰にも話しかけられずにひとりぼっちでいる、窓際の席で俯きがちにカバーかけたラノベとか読んで俺もこんな風になれたらな、とか妄想して昼休みを乗り切ってる俺」が出来上がっていた。こうして書き出してみると本当にお友達になりたくないタイプだなあと思う。しかも外見は良いから女の子達だけは時々ちょっかいをかけてきたりして、それが友達ができない理由の1つでもあった。モテるわけではないから迷惑なだけだった。
ここで冒頭に戻る訳なんだけれど、そう、その日は始業式で、俺達生徒は全員体育館に集められて新学期が始まるにあたっての諸注意とかをほとんどが居眠りやスマホをいじりながらやり過ごして、そうしてだらだらと教室に戻って教師が来るまでの休み時間を、銘々、過ごしていた。
俺はというと、空から可愛い女の子が降って来ないかなーとか(ラピュタかよって突っ込みは要らない)突然異世界に飛ばされてチートになって世界救えないかなーとか考えながら、スマホをいじっていた。教室の中をちらっと窓際の席から見渡すと、ギャルグループがぎゃはははと嫌な感じの笑い声をあげてたくらいで、本当に、いつもとそう変わりはない日常がそこにはあった、筈だった。
それは一瞬の出来事だった。
パァン、と何かがはじけ飛ぶ音がしたのが始まりだった。
その時まだ俺はまた誰かが何か騒いでいるのだろうくらいの考えで、スマホから目を離さなかった。すると、教室の前の方から、シン、となり静寂が一瞬教室を包んだ後、甲高いキャーという悲鳴が1つあがった。
それが合図だったかのように悲鳴は瞬く間に広がり、後ろの席の俺の方まで来ていた。そうなって初めて俺はスマホから教室の様子へと視線をチェンジした。
そこには地獄が広がっていた。
まず、首のはじけ飛んだ女子生徒が教壇を背にするように横たわっていた。あまりの非現実的なリアルさに、俺はまだ目の前の光景は悪い夢なんじゃないかって思っていた。次に、吐き気が急にせり上がってきて、思わず口を手で押さえて嘔吐いてしまう。
そうなってから初めて俺は現実と認識した。そこからは恐怖が襲ってきて、ひゃ、と情けない悲鳴を吐きながら教室の出入り口の方へ、皆が逃げるのと同じ方向を目指した。
しかし、そこには悪夢がいた。
嘘みたいに鮮やかなピンクのネクタイとベレー帽を被った、俺と同い年くらいの美少年が後方の出入り口を塞いでいた。通る者を選別するような目で静かに見ては殺す、という動作を機械的に繰り返していた。最初の2、3人で学習したのか、教室に閉じ込められた形になった生徒達は前方の出入り口と窓を目指す軍団に分かれる。俺はどちらも怖くて教室の真ん中に取り残されていた。それが功を奏した。
まず、前方へ向かったグループは、後方の扉の美少年とペアルックの、鮮やかなピンクに身を包んだ大人しそうな少女に殺された。窓の方に逃げた奴らも、やはりピンクの軍服のほうなものを着込んだ青年に殴り殺されていた。
俺の口から思わず、嘘だろ、と言葉が漏れた。
「嘘じゃないよ、現実だ」
ピンクのネクタイの美少年が、教室の真ん中に残った、俺を含めた少数に向かって語りかける。
「さて、魔女は一体誰でしょう?」
そうして、俺の9月1日が、幕を開けた。
まだまだ、悪夢は終わらなかった。